震災を乗り越えた仙台のライブバー “コロナ廃業”危機に仲間が立つ

寺島英弥(ローカルジャーナリスト)=仙台市】新型コロナウイルスの感染不安の中、広めないための「自粛」の一方で苦境に陥る仙台市の夜の繁華街。その一角、フォークを愛するマスターに惹かれ、バンド仲間や常連さんが集ってきたライブバーはいま、9年前の東日本大震災に続く閉店の危機にある。人の心をつなぐ歌声も、このまま街から消えるのか。客のいない休業中の店を訪ねた。

 

ぱったり途絶えた客

開店以来、バンド仲間らのライブでにぎわってきた「Want you」=2019年1月(上野さんのブログより)

「あの大阪のライブハウスで起きた集団感染から“ライブ”の店の印象が悪くなったからね」と、上野清仁さん(68)はやりきれぬ表情で話す。仙台市の夜の繁華街・国分町に接する稲荷小路のバー「アコースティックライブ Want you」の主人だ。「ライブの店を知らない人から怖い場所だと思われただけでなく、いつも店に集まった仲間のバンドメンバーたちも家族から『行かないで』と止められ、話をしたくてもできなくなったよ」

大阪では、2月半ばから下旬にかけて大阪市内の4つのライブハウスで行われたコンサートの参加者の間に新型コロナウィルスの集団感染が発生した。先月19日に大阪府が「終息」を発表するまで16都道府県に感染者が広がり、「クラスター」への不安も高めた。「3月の半ばまでは、東京や北海道など状況に脅かされながらも、まだ地元で(感染者数が少なく)危機感は薄かったんだろうね。グループでの飲み会はなくなったが、常連さんたちはマスクをしながら、店を心配して来てくれた」

しかし同月末、程近い一番町4丁目の英国風パブからの集団感染のニュースが連日報じられ、国分町、稲荷小路からは客の姿が見えなくなっていた。「30日の月曜からはついに、お客はぱったり途絶えた。内心、覚悟をしていたが」

 歌でつながれる店

「Want you」は、広瀬通りに近い稲荷小路の飲食ビルの2階にある。およそ30人が入れる店内は、ソファーの背のレンガの壁にギター類や名盤のLPレコードが飾られ、分厚く広いカウンターには懐かしいフォーク、ニューミュージック、アメリカンポップスなどの歌本が積まれている。その一角がステージになり、ドラムセットとウッドベース、キーボードとマイクスタンド、譜面台、そしてフォークとエレキのギターがいつも並んでいる。

上野さんはフォークギター名人だ。70年安保がまだ喧しい仙台高校3年の時にフォークのバンドを組み、こよなく愛するPPM(ピーター・ポール&マリー)や、岡林信康、五つの赤い風船などのフォークソング、そしてクロスビー、スティルス&ナッシュなどの歌に青春を彩られた。現在も「モダンフォークリバイバル」「ベアーズハンド」「ロードマップ」など4つのバンドのリーダーとして定禅寺ストリートジャズ・フェスティバルに毎年出演してきた。 

「Want you」ではフォーク・ニューミュージック世代のサラリーマンらの客や、歌の活動をしている仲間が常連となり、誰でも上野さんからステージに呼ばれて、好きな歌をバンドメンバーと共演できるライブが始まる。「初めて会った客同士、仕事も肩書も上手下手も関係なく、ライブの主役になり友だちになる。意外な芸を聴かせる人、ハモリを入れる人もいて、どれも人生の味なんだ」

苦境にあって、音楽でつながる人々との絆を語る上野さん
(苦境にあって、音楽でつながる人々との絆を語る上野さん)

縁のあるミュージシャンのライブも企画し、上野さんゆかりのバンドや在仙のシンガー、あるいは吉川忠英さんや堀江淳さん、小川ロンさんらも登場し、最近ではセンチメンタル・シティ・ロマンスの中野督夫さんがアコースティックギターのソロを披露した。終わればプロもお客もない歌談義になる。上野さんはそんな店をつくってきた。 

2800円という安いチャージ(消費増税の前は2500円)で、来客は一晩で平均12~13人、多い時は満杯になる。稲荷小路の場所柄もあり、家賃や電気代、水道代などの固定費、店の手伝いを頼む仲間へのアルバイト代、それに酒、つまみなどの仕入れ代を含めると、毎月70万円前後になる。それでも1人で暮らせるくらいの収入は何とか残せたという。

「マスターは、好きな商売をされて羨ましいね」とカウンターから声が掛かるたび、「こちらは日々の上がりで食べている。家族がいる人はやめた方がいい』と言ってきた」。お客が来なくなってからは、店を開けば赤字が積もるのが現実になった。

震災後に一度は閉店

4月4日の土曜まで頑張ろうと思ったというが、もはや状況は変わらず、周囲の店に「休業」の札や張り紙が増えていった。「うちの店も休業するほかなくなった。政府の緊急事態宣言も出て、これを潮時に閉店を決めようか、とも考えた」

(休業中の店でギターを手に取り、上野さんが歌ったのは『悲しくてやりきれない』だった)

「Want you」の存続の危機は、これが初めてではない。上野さんが長年経営していた測量会社を畳み、ライブハウスを引き継いで開店したのが2011年2月だった。「もともとギターの弾き語りを頼まれていた店で、高校の後輩だったオーナーから依頼されたんだ。水商売も、店の経営も初体験だったが、自分なりの新しい挑戦と思って引き受けた」

ところが、「音酒(ウォンチュー)」の名で開店して2カ月後に東日本大震災が起きた。幸いに被害はグラスが落ちて割れた程度で済んだ。が、未曽有の災害の被災地となった地元では、誰もが暮らしの再建や避難生活に追われ、「音酒」は開店早々から休業状態になった。

「大家さんが3カ月ほど家賃を待ってくれた。バンドのメンバーら音楽の仲間が週に1、2度は来てくれて、7月ごろから家賃を払えるようになった。こちらが歌うだけでなく、お客さんに歌ってもらうスタイルはその時に考えた。毎晩の様子を『ライブレポート』として「Want you」のブログフェイスブックでも発信し、店を知ってもらう努力も始めた。『カラオケを入れては?』という話もあったが、それではライブの店ではなくなる。音楽が心から好きな人が集う店にしたかった。それが商売として成り立つようになったのは翌12年暮れごろだね」 

その間、「廃業」の瀬戸際の時期もあった。上野さんは12年6月6日の「Want you」のブログに、こんな無念の思いの挨拶を載せた(以下は一部)。

「本当にたくさんの皆様に支援協力をいただきながら、店を閉めることになりました(中略)ようやく知名度もできてきて軌道に乗せられるかな?とは思いましたが、今後の展開の中で、震災の影響分を挽回できる要素が見当たらず…」 その危機を助けたのが、有志の支援団体をつくって募金活動までした常連さん、音楽仲間たちだった。ひと月余りの閉店の後、翌7月22日のブログに、上野さんは感謝を込めた続報を載せた(同)。

「その後、いろんな方々から再開の方向でとの話があり、協議してきた結果、FLC仙台(フォークソングLIVEサポーターズクラブ仙台)の支援をうけて改めて再開することになりました。ちょっとリニューアルするということで『アコースティックライブ Want you』という名称でオープンします」

上野さんはそれから被災地を音楽で応援する側に立った。同年の秋と翌13年、宮城県内の津波遺族の会、石巻の被災地の保育園建設の手助けを音楽仲間たちに呼び掛け、チャリティーの「震災復興元気コンサート」(宮城野区文化センター)を催し大盛況となった。

 生きるため不可欠のもの

新型コロナウィルス感染の広がりと人心の不安、その終息がまだ見えない今回の危機は、しかし、震災後の危機を超えて長引く可能性がある。政府は感染拡大防止のための外出自粛を訴えてきた。休業自粛の要請以前に自然と、国分町、稲荷小路のような繁華街の客も減り、店々は減収と休業、廃業さえ余儀なくされる。

通る人の姿もほとんどない稲荷小路=4月20日
(通る人の姿もほとんどない稲荷小路=4月20日)

「辛抱の時」という声はその通りでも、政府は休業への補償を訴える街の経営者たちの声に耳を貸そうとしてこなかった。求めたものは、きょう明日の生活の糧だけでなく、街を再生させる力の種だったのだが。ようやく23日、宮城県は休業(時短営業も)に応じた飲食店などに30万円の「協力金」を支給する方針を出した(仙台市も10万円上乗せを表明)が、あまりに遅い対応ではなかったか。  

「日一日と店主らの苦境は増す。この上に借金を背負うより、やめる(廃業する)方がいい、という声ばかり近隣で耳にする」と上野さんは言う。「もう自分も店を閉めたらいいか」と揺れる心境をバンドのメンバーたちに話したという。ところが、返ってきた言葉は「続けてほしい。自分たちが協力するから」だった。

やがて仲間たちとの議論からアイデアが生まれた。無期限有効の1100円分の「ライブ飲食券」を1000円で売り出し、営業再開の日に店で使えるようにする、という。それを3口、5口、10口で有志を募り、口座振り込みで購入してもらう。「Want you」の店の維持と2度目の復活へ希望を託すチケットだ。

仲間に元気づけられ、フェイスブックでつながる人々に先日、お知らせのメッセージを発した上野さんは文章の中で、「芸術は生きるために不可欠」というドイツの文化大臣の言葉を紹介した。報道によれば、同国のモニカ・グリュッタース文化相は「文化はよき時代にのみ享受される贅沢品ではない」「アーティストは生きるために必要不可欠な存在」「われわれは彼らを見捨てない」と演説し、フリーランスを含めて巨額で即時の財政支援を約束した。それがドイツでは経済対策の柱の1つであるという。

人が集い交流する場に生まれ、人を癒し力づけるものが文化でありアートとすれば、それこそが新たな「復興」に必要不可欠ものではないか。休業中の小さなライブの店から、そんなメッセージが発せられた。   

音楽の灯を消さない

「マスター、応援するから続けてくれよ」「同じ提案をしようと思った矢先だ」「仙台から店がなくなっては困る」―。

メッセージにはすぐに、東北の外へ転勤した人、第二の人生で九州へ行った人をはじめ、20人余りの常連たちから反響があり、「ライブ飲食券」に賛同してくれた。

「おかげで、私には夢ができた」と上野さんは言う。「いまの状況が落ち着いたら、店を思ってくれる人たちばかりと、もう一度ライブをやりたいな」

「歌を愛する若い世代にいつか、この店を受け継いでほしい。街から音楽の灯を消しちゃいけない」

遠方の友人から励ましの電話が入った
(遠方の友人から励ましの電話が入った)

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