【仙台ジャズノート】ジャズは難しい?

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】「仙台ジャズノート」を思いついた直接のきっかけは、仙台地域のミュージシャンを応援する音楽情報サイトを運営する漆田義孝さん=音楽支援団体modulation 共同代表=の言葉でした。「ロコノオト」は2019年6月にスタートしました。地域の音楽活動を支えるいい取り組みだと思ったのですが、意外なことに漆田さんは「ジャズは対象にしない」と明言するのでした。

その理由は、ジャズの演奏者はよく知られたスタンダードナンバーを取り上げ、メロディを少し変えて演奏する印象が強く、独創性の点で、ジャズをどう評価すればいいか戸惑ってしまう、というものでした。漆田さんが日ごろ接しているロックミュージック系のミュージシャンたちが作詞・作曲に力を入れているのに比べて、ジャズミュージシャンの演奏が難しい、楽しみ方が分からないという感想は、漆田さんに限ったことではありません。  

たとえばジャズの定番である「枯葉」は、ジョセフ・コズマが1945年に作曲、第二次世界大戦後は、シャンソンの代表的な曲として世界中で親しまれました。曲の中で使われているメロディ、和音、リズムの、いずれもが奥が深く、ジャズの世界でも、ジャズを学ぶ教材的な位置づけにあります。「枯葉」のメロディが流れただけでライブ会場が一つになるような幻想効果さえ感じます。「枯葉」のような力を持つスタンダードは数え切れません。長い間、ジャズ音楽に親しんできた人たちにとって、演奏者がどんなスタンダードを採用するかは、大きな楽しみの一つでもあります。

そんなスタンダードを演奏する際、「枯葉」のメロディを楽譜に書いてある通り演奏することはまずありません。本来のメロディを演奏者が意のままに崩して演奏します。このことを「フェイク」と呼ぶことがあります。とは言っても、どこかの国の大統領が自分と異なる意見を批判・攻撃するために使う「フェイク」ではありません。ジャズ演奏では原曲のメロディを聴き手が心地よく感じるように、工夫することが前提になっています。漆田さんが「有名な古い曲のメロディを崩して演奏するだけ」「独創性を感じない」と言ったのはこの点とつながります。

さらにジャズの場合、原曲のメロディを崩して演奏するスタイルをさらに推し進めて、いわゆる「即興演奏(アドリブ)」を組み合わせます。メロディをフェイクすることも含めて、アドリブこそがジャズ音楽の生命線といっても過言ではありません。アドリブは、演奏する曲のメロディやコード(和音)の進行に合わせて、演奏者がその場で自在に音を連ねます。アドリブを可能にする音楽理論は複雑で、演奏上の技法やこつも非常に分厚い形で存在します。そのため、ジャズを学ぼうとする人たちにとっても、アドリブはとっつきにくく、難しい場合も多々あります。

それでも、ジャズアドリブについての考え方に「正解」が一つだけ存在するわけではありません。相当幅広く、柔軟な解釈がなされている点がまたジャズ音楽の魅力でもあるわけですが、お世辞にも音楽的とは言えないアドリブを長々と聴かされれば、「訳が分からない」「うるさい」と感じるのは無理のない話だろうと思います。「ジャズは難しい」説は、ジャズ側のこんな事情とおそらく関係があるはずです。

月曜日の午前中という時間帯に設定された「朝ジャズ倶楽部」。サックス奏者名雪祥代さんの企画。出演者がジャズのスタンダード「枯葉(Autumn Leaves)」をアレンジして持ち寄る趣向が楽しかった。(2019年10月21日)

取材で知り合った、ライブハウスを経営するSさんからメールをいただきました。

「ライブに来てくれる客に30代はひとりもいない」「古いスタイルのジャズの余命は20年くらいなのではないか」

音楽を職業とする立場の人たちからも「ジャズを仕事にするのは非常に難しい」といった声が聞こえてきました。いわゆるジャズ音楽に親しむ世代が高齢化しているのも間違いのないところでしょう。仙台圏で開かれるさまざまなライブ会場で、10代、20代がまったくいないかと言えば、そうでもないのですが、圧倒的に多いのは筆者と同世代-60代前後の人たちです。

一方、ジャズ音楽の魅力を多様な立場で引き継いでいくとするなら、いわゆるアマチュアで演奏活動するみなさんの役割も浮かび上がってくることでしょう。実際、テレビ・ラジオの番組やコマーシャルにジャズが使われることは依然として多いし、いろいろなお店のBGMでジャズが流れることも少なくありません。ジャズ音楽の「余命」を数字で確定することは到底不可能です。ジャズ音楽の楽しさを完全に否定してしまうのも、惜しいような気がします。ここでは結論を急ぐことなく、仙台圏のジャズの現場に足を運び、まずは現状を把握したいと思います。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ

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