【続・仙台ジャズノート#38】スイングの妙。起点をどうする?

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】ジャズ音楽特有のリズムを「スイング」と呼ぶことはよく知られているかもしれません。ジャズを聴いていて体が自然に揺れる(スイングする)ように感じませんか?座って聴いている人なら、膝が曲に合わせて上下するような感じになればそれが「スイング」です。曲のテンポにより感じ方は違うかもしれません。特に一番低域を受け持つ楽器である「ベース」が繰り出す音列を受け止めましょう。最初はうまく聴き取れないかもしれませんが、要領さえ覚えれば楽しくスイングすること請け合いです。

このパートではジャズ演奏に関して素人同然であるにもかかわらず、蘊蓄(うんちく)を並べるという暴挙を初めから行っているので、なるべく専門的な話には踏み込まないようにしています。そのためジャズ音楽をご存じのみなさんには物足りないか、逆に意味不明であることが多いかもしれませんが、自分の実技レベルとかけ離れたことはなるべく言わない、断定しない-が文章作法の基本です。

ジャズ特有のアドリブが可能になるわけを知りたくてメロディ楽器を触るようになりました。難しいことがありすぎて、文字通り手探りが続いていますが、特にジャズ特有の「スイング」というリズムについてはドラム担当としての勘違いもあって、いまだに修正途上です。体にしみこんでしまった感覚はなかなか直りません。

仙台フィルのチェロ奏者の山本純さんはジャズミュージシャンとの共演を軽々とこなします。「ジャズとのコラボ」のポイントをたずねると「クラシックでも時代や作曲家によって、ジャズと同じようなことを普通にやっていた。特に違和感はありません」と話しています。

たとえばスイングのリズムを「チーチッキ チーチッキ」と言うのを聞いたことはありませんか?真ん中(2拍目と4拍目)の「チッ」にアクセントを置くので一応、ジャズの基本「ダウンビート」の通りのはずです。ドラムを自己流で楽しんでいたときにも、長い間、そう思い込んでいました。古い例で恐縮ですが、昭和の日活映画にはナイトクラブやキャバレーのバンドシーンがよく出てきます。物語の脈絡とあまり関係なく、主演俳優がいきなりスイングビートを叩き始めるとときも、ハイハット(ドラマーの左側にあって、小さめのシンバルが上下に2枚重なっている楽器)を使って結構派手に「チーチッキ」とやります。躍動感があってなかなかいいシーンです。しかし、これは間違いとは言い切れないけれども、スイングのリズムにはならない。何かの解説で読んでいました。

下手の横好きとは言え、ジャズ音楽のリズムやメロディを実際にたどっているうちに、この「チーチッキ」問題が浮上。「ジャズのスイング感をもたらす理由の一つは、リズムの起点が曲の冒頭の1拍目ではなく、一つ手前の小節の最後の拍にあるからではないか」と考えるようになりました。

たとえば1小節を八分音符8つの連なりで考える場合、「ドゥダ ウダ」という八分音符4つ分のフレーズで曲が始まるとしたら、曲の始まりは1拍目の「ドゥ」ではなく、直前に八分音符一つ「ダ」を置いて、(ダ)「ドゥダ ウダ」(あるいは(ダ)「ルゥダ ウダ」)になるのではないか。

曲の始まりより1拍手前に起点がずれることで変則的な拍動が生まれ、その変則なリズムの感じ方を大事にずっと続けるのが「スイングする」ということではないか、と思うのです。実際にやってみると、最初は難しいタイミングで音を出すのが苦痛です。ただ、何度もやっているうちにフレーズの起点がほんの少し手前にずれる分、その後に続く小節のスペースが広がるように感じます。アドリブしていて小節線にはさまれて詰まる感じがなくなります。吹いていて楽になる感じです。

以下、細かいことなので、関心のある方だけどうぞ。

「(ダ)「ドゥダ ウダ」感がうまく身に着くと、さらにその先にフレーズの頭を意識的に遅らせる「レイドバック」の技法がやっと見えてくるらしいです。リズムの起点を手前にずらし、時にはリズムの強弱の順番が変わることを、演奏家同士なら「食う」とか「食って入る」などと言います。ジャズ音楽はこの「食う」を多用するので、特有の「ノリ」が生まれる-という説明と、ほぼ同じことです。

「食って入る」演奏もリズム的には非常に難易度が高いので、演奏者が多くなればなるほど合わせるのが大変です。曲のテンポを全員で変化させるリタルダンドの次ぐらいに難しいような気がします。どんな練習をすれば身に着くのか。怪しい状態がいまだに続いています。とんでもない勘違いを堂々と書いてしまっているかもしれません。そうだったらお詫びします。

【ディスクメモ】オスカーペティフォードの神髄

ベース奏者がリズムマンでありソロイストでもあるという、当たり前のことをしっかり確認できる1枚。1955年8月、ニューヨークでの録音です。モダンジャズのベースのフォームを形成したミュージシャンの一人といってもいいでしょう。

A面3曲目のスタンダード「スターダスト」でのソロが最大の聴き物でしょうか。すぐ後に続くペティフォードのオリジナル「ボヘミア・アフター・ダーク」も楽しい。そういえばこの曲はだいぶ演っていませんが、どこかに楽譜があるはず。アート・ファーマー(トランペット)との共演が印象的なアルトサックス奏者グライスのクラリネットを聴けるのがB面2曲目の「スコーピオ」です。

メンバーは以下の通り。

オスカー・ペティフォード(ベース)
ドナルド・バード(トランペット)
アーニー・ロイヤル(トランペット)
ボブ・ブルックマイヤー(トロンボーン)
ジジ・グライス(アルトサックス、クラリネット)
ドン・アブニー(ピアノ)
オシ―・ジョンソン(ドラム)

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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