秋田県湯沢市で「世界へつながる発酵ロングテーブル晩餐会」と銘打たれたイベントが、8月10日に開催された。羽州街道の面影が残る県道277号の一部を歩行者天国として、約650mにわたりテーブルが一列に並べられた。
エジプトのカイロが持つテーブルの長さのギネス世界記録(3.19㎞)の更新を目指すキックオフイベント。湯沢市と周辺市町の地域再生を目的に「発酵文化」を切り口にしたツアー「fermentators week」を展開している株式会社reblue(湯沢市)が企画した。「ギネスを取ると世界から注目される。湯沢に世界から来てもらえるようになるのが一つの目的」と代表の京野健幸(きょうのたけゆき)さん(34)は話す。
気さくに声をかけてくれる地元の人との出会い
取材前、私が歩行者天国の入り口でカメラの電池切れに気づいて少しオロオロしていると、すぐそばの「理容室いずみ」のご主人の泉匡(いずみただし)さん(65)が声をかけてくれた。「おう、せば、うちで充電せ」とすぐにカメラを充電してくれた。
泉さんから今回のイベントの話を聞いたところ「ホテルの従業員が来て、この道路をイベントで使いますから協力して下さいと来たっけ」「市の広報にもチラシ入ってきたっけ」と教えてくれた。「なんだが、仙台とか秋田市とかからも来るって聞いたな」「スープカレーで、3千円だとちょっと高けえな」と笑顔で話してくれた。今回のイベント開催で活用されたクラウドファンディングのことなどを話してくれたのだが、否定的な様子はなく、率直な地元の人の感想を聞くことができた。
650mのテーブルで思い思いに始まる「晩餐会」
このイベントは、並べられたテーブルと椅子を使ってみんなで晩餐を楽しもうというもので、参加無料で予約席以外は自由に座れる。持ち込みも自由だ。
歩行者天国とされた会場には1000脚の椅子が準備され、650mのテーブルの両側に置かれていた。会場のテーブルの端から奥に目をやっても、もう一方のテーブルの端はとても見えない。世界記録の5分の1とはいえども壮観な光景だ。
イベント開始は午後5時だが、夏の日のこの時間はまだまだ明るい。それでも、開始のアナウンスがされる前から、ビールを片手に、あるいは箸を持ち、笑顔で会話する姿がそこかしこにあった。
テーブルと椅子だけの場所はかなり多かった印象だが、イベント本部が置かれた国登録有形文化財「山内家住宅」の近くは、常に賑わいを見せていた。「発酵」をテーマにしたイベントということで、地元の日本酒やワイン、麹漬けや漬物、カレーなどが提供されていた。
「食を囲むと、知らない人同士が仲良くなれる」
充電していたカメラを取りに行くと、泉さんが「こっちさ来い」と呼び寄せ、7人ほどでビールを飲みながら語らっている地元の人たちに私を紹介してくれた。特別な話をしたわけでもないが、車で来ていなければ話の輪に入り、一緒にビールを飲んでいけそうな雰囲気で迎えてくれた。
「食というものに我々は凄く可能性を感じていて、食を一緒に囲むと、知らない人同士が仲良くなれると思っています」とイベントを主催した京野さんが話していたが、確かにそうした力があるように感じた。
屋外で明るい時間から飲食を楽しむ姿といえば、東京・浅草の「ホッピー通り」が頭に浮かぶが、それとはまた違った、落ち着いていながらも人を受け入れる雰囲気が、羽州街道の面影が残る街並みに生まれていた。
次回イベントの情報はfermentators week公式サイト(https://www.fermentators.com/)で更新される。