【高校生記者がゆく】震災の記憶と復興のいまを伝える「震災メモリアルタクシー」

高校生記者がゆく!】仙台市の高校生が記者となり、高校生目線で地域の魅力や課題を発信する連載。宮城野区中央市民センターのプロジェクト「まいぷろ」に所属する高校生たちが地域の気になる人やテーマを取材し、全国に発信します。

三浦愛華、中川萌生、高橋梨花、安保美歩(高校生記者)】2011年3月11日に発生した東日本大震災から13年が経った。私たちは「震災メモリアルタクシー」の活動に取り組む「振興タクシー」(本社・仙台市)を訪問した。振興タクシーは、震災当時の出来事、そして復興を続ける被災地の様子を伝える取り組みを行っている。総務部長の伊藤悟さんとドライバーの安部繁彦さんにお話を伺った。

振興タクシーが行う「震災メモリアルタクシー」とは?

2012年から行っているこの取り組みは、語り部ドライバーがタクシーで被災地を案内し、乗客に当時の震災の記憶を伝えるというものである。開始当初は、NPO法人宮城県復興支援センターの講習を受けたドライバーのみが語り部として認められた。しかし、現在はこの講習が行われておらず、語り部ドライバーとしての認定を受けることができないため、増やしたくても増やせない状況にある(※現在タクシー協会では、語り部タクシーの需要低下や受講ドライバーの減少により、語り部講習は行われていない)。

この状況を変えようと、去年(2022年)の春頃から会社独自で運営をすることにした。語り部として認定されていなくても活動できるようにしたり、新たなコースも設定したりすることも行った。さらに、震災の記憶だけを伝えるのではなく、被災地は復興し続けていることも伝えたいという想いがあったため、新たに「震災メモリアルタクシー」を始めた。今後は、新人語り部ドライバーの育成のために会社独自の講習を行う予定である。

被災と復興の双方を知ることができる「震災メモリアルタクシー」

案内のコンセプトは、被災した状況と復興の様子の両方を見て、感じて、知ってもらうということである。そのコンセプトに基づき、コースは主に沿岸部であり、荒浜コース、閖上コース、荒浜・閖上コースの3つがある。また、利用者の要望、予算に合わせてコースを決定することもあり、利用者のニーズに応える対応もとっている。利用者はほとんどが県外からであり、50代以降の方々が多い。毎年3月から4月にかけてニュースなどで震災の注目度が高くなるため、利用者が増えるそうだ。

足を運んで学ぶ、震災の跡と希望

私たちは実際に「震災メモリアルタクシー」を体験させていただいた。最初に案内していただいたのは荒浜小学校だ。荒浜小学校は震災遺構として震災当時の姿のまま残されている。天井まで残っている波の跡や、津波で流された瓦礫による壁の損傷など、普段私たちが見ている学校の風景とは全く違う世界が広がっており、衝撃を受けた。実際に校舎の中に入ることで津波の恐怖を肌で感じた。また、震災前の荒浜の町をミニチュアサイズで再現した模型があり、各家の場所にその家に住んでいた人の名前の札が示されていて、失われた街の再現を通して風化をさせないという強い思いが感じられた。

震災被害のすさまじさに衝撃を受けた(震災遺構荒浜小学校で)

次に私たちが向かったのは、震災からの復興を象徴する新たなランドマークとして整備された「かわまちてらす閖上」だ。かわまちてらす閖上は震災で大きな被害を受けた後、地元の方々が協力して復興させた証となっている。実際に行ってみると、たくさんの人が食事や周遊船を楽しんでいた。確実に閖上の復興を見てとれた。震災メモリアルタクシーではこのように震災の悲惨さだけでなく、その後の復興した様子など、人々の希望を感じることができるのも魅力である。

かわまちてらす閖上のすぐ近くにある名取市震災復興伝承館では、震災の怖さを模擬体験や映像を通して実感できる場所である。そこには水圧体験ドアがあった。実際に体験してみると、思っていた以上の力がかかり、自分一人では対処出来ない事実を実感できた。またここでも荒浜小学校と同様に閖上の街を再現した模型を作成することで風化させない取り組みが行われていた。

ドライバーの安部繁彦さん自身の震災直後の体験を伺った。タクシー内で当時の写真と今の風景を比べて見る機会があり、当時の悲惨さと、現在の復興具合がよく分かった。震災の凄さをあらためて感じた。震災翌日の新聞も見せていただき、新聞社の情報を伝えようとする信念に驚いた。

13年の歳月が流れた。未来へ抱く思いとは?

伊藤さんへのインタビュー

振興タクシー総務部長の伊藤悟さんはタクシーを利用するお客さんに「震災によって悲しいこともたくさんあったが、それだけではなく、希望もあると感じて欲しい。」と語ってくれた。ここで言う「希望」とは「復興」の事を表している。震災直後には復旧作業ばかりだった被災地もすっかり整備され、新しい商店街ができたり、住宅地になっていたりする。震災直後の悲しい雰囲気は全くなく、活気に満ち溢れていた。ほとんどの被災者が、多くのものを失い悲しい気持ちでいっぱいだったのは確かだ。しかし、今はそれだけではなく前を向いて、被災地の住民それぞれが希望を持って暮らしていると伝えたいのだ。

他にも震災メモリアルタクシーのやりがいについても語ってくれた。震災メモリアルタクシーのやりがいとは、乗っていただいたお客さんに「ためになった」「参考になった」と言ってもらえることだそうだ。「このような言葉をかけてもらうと自分たちがこの活動を続けてもいいんだと思えて、続ける励みになる」と話していた。

ドライバーの安部さん(左端)とともに。

振興タクシーは被災地である宮城県を拠点に、被災した企業としてできることを考え、この活動を続けてきたという。「利用者の多少に関わらず、使ってくれた人に理解してもらいたい。これからもできる限り長く続けていきたい」。ただただ数多くのお客さんにタクシーを利用してもらえばいい、という意味ではない。利用者全員に、被災地は被災しただけでなく、復興をして前に進んでいるんだ、という現在の状況を正しく理解してもらいたいという意味だ。

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