街でたった一つの「石の蔵」をカフェに 秋田県横手市増田

小坂将人通信員=秋田県横手市】石造りの蔵を改装したカフェ「NS. coffee stand」が秋田県横手市増田地区にオープンし、人気を集めている。増田地区は、もともと江戸時代後期から昭和初期にかけて造られた「内蔵(うちぐら)」などの建築遺産で知られる。「蔵の町・増田」ならではの「石蔵カフェ」を訪問してみた。

街でたった一つの「石の蔵」をカフェに

 「内蔵」は、普通なら外に建てる漆喰造りの蔵を、鞘(さや)と呼ばれる独特の上屋工法で母屋とつなぐ様式で知られ、その数は40を超える。増田地区の蔵は、家屋の外に建てられた蔵も合わせると100を超え、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)にも選定されている。

 土蔵造りの蔵が数多く並ぶ中でたった一軒しかなかった「石の蔵」に注目したのは、横手市の中村翔さん(31)と白澤瑠莉子さん(34)の二人。昼はカフェ、夜はバーとして6月に店をオープンした。コーヒーの他にも、スイーツや日替わりランチも提供している。「NS. coffee stand」の「NS」は中村さん、白澤さんの名前をつないだ。「coffee stand」の名称には手軽にコーヒーを楽しんでもらいたいという想いがこもっている。

秋田県横手市増田地区に一つしかない石造りの蔵を改装したカフェ「NS. coffee stand」(小坂将人撮影)

 カフェの中に入ると、木製のカウンターテーブルと店内を映し出すライトが目に飛び込んでくる。石造りの蔵の落ち着いた雰囲気と温かみが心地よい。この地区の蔵としては小さいサイズで、漆喰壁の重厚な蔵と比べると、石の蔵は静かな佇まいだ。夜になると、石の小窓から暖かな光が溢れ出す。昭和ポップスが時折、外に漏れ聞こえる。「昭和ポップスは歌えるから好き」と口をそろえる二人の好みだ。

 
「NS. coffee stand」をオープンした中村翔さんと白澤瑠莉子さん(小坂将人撮影)

物置だった蔵、「ここでなきゃだめだ」と持ち主を探した

 この石の蔵はかつてここに商店があった時に建てられていたものだが、石の蔵だけが残り、長い間、物置として使われていた。その蔵を見た中村さんの目に止まり、リノベーションする計画が動き出した。

 中村さんと白澤さんは前の職場の同僚同士で、介護の仕事に携わっていた。前職場を退職後の昨年5月から、横手市内の相談窓口を訪れ、自分たちに合った物件を探し始めた。なかなかいい条件に巡り会えず、どうすればいいか困った時期もあったが、1カ月ほどたったころ、よこて市商工会増田支所に相談に訪れた時に約60年前に建てられたと言われるこの石の蔵に出会った。

「かわいい!!」
「ここがいい。ここでやりたい。ここでなきゃだめだ」

 二人は、その日のうちに所有者を探した。石の蔵の所有者は海外在住だったが、偶然にも県外に住む所有者の兄弟が帰省し、増田に来ていた。事情を話し、海外に住む所有者に連絡を入れてもらった。中村さん達の想いを知った所有者は「増田が発展してくれるのなら」「増田のために貢献できるのなら」と快く使わせてくれることになった。

 二人は支所の勧めもあり、町内の旧マルシメ中町店の前で3カ月間露天営業をすることから始めた。事業を応援してくれる人、お客として足を運んでくれる人との数多くの出会いを生んだ。

「地元の人と観光客が交流するような場に」

「地元の人と観光客が交流するような場に」と話す中村さんと白澤さん(小坂将人撮影)

 中村さんは「本来、開業するのであれば人通りも多く、人の集まる旧横手市内で開業するのが良いのかもしれないが、ここに来てからいろいろな事が一気に決まったことや、事業を応援してくれる人がいたことも大きかった」と振り返る。白澤さんも「通ってくれる人とのつながりが後押しになった」と話す。増田に住んでいる白澤さんは、多くの人々との出会いから「今まで知らなかった増田の魅力を知った」と喜んでいる。

 石の蔵を使うには、スペースが狭い、補修改修が必要、などの問題もあった。反対の声もあったが、「大勢の人たちが親切にしてくれた。アイデアを出してくれたり、協力してくれたり、皆さんの力のおかげでここまで来ることができた。本当に嬉しかったです」とオープンに辿り着いた心境を語ってくれた。

「事業として成功させるには、顧客のターゲットをはっきりさせるとか、絞り込みが必要とは言われているんですけど、とにかく気軽に来れて、地元の人と観光客が交流するような場になってくれたら嬉しいです」と中村さんは願っている。

NS. coffee stand
秋田県横手市増田町増田中町74
電話 0182-23-9201
営業時間 10:00~16:00
     17:30~23:00(金土日のみ ラストオーダーは22:00)
定休日 火曜日

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