【東京国際映画祭2021】コロナ禍でも「劇場は死守」 石坂健治シニアプログラミング・ディレクターに聞く

カンヌ国際映画祭をはじめ世界の主要映画祭の現場を取材し、TOHOKU360にも各国の映画祭のリポートを寄せてくれている映画評論家・字幕翻訳家の齋藤敦子さん。今年の東京国際映画祭について聞いた、石坂健治シニアプログラミング・ディレクターへの単独インタビューを寄せてくれました。

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コロナ禍の経験を生かして

齋藤敦子(映画評論家・字幕翻訳家)

――意外に早く復活したアジアの未来ですが、前回はアジアの未来の未来は?という問いで終わったので、今回はアジアの未来の今は?という問いから。

石坂:それを語るにはTIFF全体の構造が変わって、どうなるか、どうなったかという辺りから始めなければ。

去年はコロナの経験値がなかったから、映画祭をどうやって開催するのか、開催できるのかどうかで、形がなかなか決まらなかったんです。結局、東京セレクションという、賞をほとんど出さない異例の形になったわけですが、ゲストなしでも映画館でフィジカルに開催できたという経験があったので、今年はその辺は割合早く進んだと思います。

石坂健治シニアプログラミング・ディレクター

感染者増の不安の中で

――夏くらいに感染者数がぐっと上がってきたときに不安になりませんでしたか?

石坂:正直、危ないなとは思いましたね。

――山形はそこで諦めてオンラインにした。

石坂:福岡はその前に廃止になってしまい、大阪アジアン映画祭は開催はしたけど、海外からのゲストはなし。確かに7月末から8月は危なかったです。いずれにしても感染者数が減ってきて、やりきれそうだなということにはなっていますけれど。

――オンライン化は一度も考えずに?

石坂:劇場は死守しよう、というのはぶれなかったです。

――今年は日本映画スプラッシュがなくなって、コンペティティブな部門はコンペとアジアの未来の2部門になりましたね。

石坂:編成の話は市山さんに聞いていただくとして、ワールドプレミアに関しては、よくプサンとTIFFで取り合うみたいに言われる。これまで若手の作品がプサンに行くと、プレミア縛りがあるからTIFFは諦め、フィルメックスで上映ということになっていた。今年はそういうのもありましたが、一方で、TIFFにワールドプレミアで出してくれる作品も確実に増えていて、今年は日本映画2本を含め、10本全部ワールドプレミアになり、個別の部門としてはプサンのニューカレンツと同じくらいの鮮度でアジア映画を競うことになりました。

プサンとの差別化狙う

――アジアの未来とプサンのニューカレンツはプレミア縛りがあるので、作品を取り合うことになる。取り合いになる場合は、出す側が選ぶ。

石坂:出す側はどっちにどうメリットを感じるかです。プサンは大きなマーケットがついているので、世界の映画産業的には有利。プサンに行くと世界が見える、みたいな。そのうえで、TIFFがどう差別化し、見て貰えるようになるかをずっと考えています。ひとつはTIFFCOMとの連携というか循環ですね。遅ればせながら去年から企画ピッチングを始めて、エドウィンのワールド・フォーカスの作品『復讐は神にまかせて』、あれがTIFFCOM発でロカルノ映画祭の金賞を獲りました。

――よかったですね。

石坂:監督がエドウィン、撮影は芦澤明子さん、二人が出会ったのがTIFFが共同製作した『アジア三面鏡2018』ですから。長年の付き合いは大事だな、と。

――アジア三面鏡の成果がこういう形で出ると、やりがいがありましたね。

石坂:もうひとつが、コンペでブリランテ・メンドーサの新作『復讐』がワールドプレミアでやれること。メンドーサにも『アジア三面鏡2016』を撮ってもらったし、その前には彼の特集を組み、「Lola」(グランドマザー)などを上映しましたし、その後、コンペの審査委員長にもなってもらった。逆に、彼がディレクターをやっているシナグ・マニラ映画祭に、私や久松武朗フェスティバル・ディレクター(当時)が審査員で行ったり、という付き合いの末に、やっと出してくれた、というのが嬉しかったです。

――フィリピンとの交流が太くなってきた?

石坂:これもコンペですが、ミカエル・レッドも『アリサカ』をワールドプレミアで出してくれています。ミカエル・レッドはアジアの未来で『バード・ショット』で賞をとって、今度はコンペだから、TIFFCOMとの循環や、部門ごとのステップアップの成果が見え始めていて、これは大きいなと思っています。

――コンペのセレクションが市山さんテイストになったので、ミカエル・レッドが出てこられるようになった。

石坂:市山さんとは同世代で、ずっとアジアをやってきたので話が早いんです。それで今年はコンペのアジア映画がとても増えた。

コロナの打撃著しい東南アジア

――その感じは私もしました。がんばって入れていたヨーロッパ映画が激減して、どうなるか、というところですが。

石坂:そこがどう評価されるかということはありますね。アジアの未来に関して言えば、コロナで地域によって、あまりダメージのないところと、ちょっと厳しいなというところが別れていますね。

――どこが一番ダメージを受けてますか?

石坂:東南アジアですね。東南アジアはこれまでTIFFがいろいろやっているにもかかわらず、応募本数自体が減っている。

――実質的に作れてない?

石坂:それもあるし、撮れても室内劇で、登場人物が2,3人で、コロナのガイドラインに沿って撮っている感じ。東南アジアは経済的に豊かになってきたから、2,3年前には大作が出始めていたんですが、そういう作品が見られなくなっている。

――影響を受けてないのは?

石坂:中東ですね。サッカーも強いし(笑)。相変わらずイラン、トルコが1本ずつ入り、アフガニスタンも入りました。

――アフガニスタンの『ザクロが遠吠えする頃』はいつ撮った映画ですか?

石坂:タリバンが政権を取る前のカブールです。ただ監督のグラナーズ・ムワウィーはイラン出身で、オーストラリアに住んでいる人です。昔からイラン映画はアフガニスタンを扱ったものが多いです。アフガニスタンを助けようというイランの映画人が多いので、そういう流れではあるけど、緊迫する街でよく撮ったなと思います。

――今回のセレクションは、石坂さんが現地に行くのは無理なので、応募したものを見るという形で?

石坂:そうです。2年前のプサンに行ったきりです。

――今、韓国に入国するのは大変ですからね。

石坂:東アジアも、そんなに目立ったダメージは感じなかったです。特に台湾は優等生で、コロナ対策もそうですが、映画産業もきちっと回っているし、金馬奨もやっている。応募作も粒よりだし、日本公開される台湾映画も多いです。

内モンゴル、チベット、ウイグルが面白い

――中国は?

石坂:大陸は応募作に関してはちょっと小ぶりな作品が多かったです。ただ、プサンとかフィルメックスとかを含めると、やっぱり若手は相当いいのが次々に出ています。

――今、中国の文化政策の締め付けが話題になっていますが。その影響を感じました?

石坂:逆に言うと、以前から規制が厳しかった、内モンゴル、チベット、ウイグルなど自治区の映画は面白くなってきています。ペマツェテンの弟子のジグメ・ティンレーが今回デビュー作『一人と四人』でコンペにいきなり入ったけど、彼なんかも含めて。

――規制を逃れるすべを長い間、悩んできたから、うまいのかも。

石坂:確かに中国の中央は規制が厳しいし、香港なんかはもっと大変だけど、新しい芽が出てきているのは確かです。

――今年のアジアの未来の作品は10本ですが、毎年10本くらいでした?

石坂:本来は8本で、一番多い年は12本という年がありました。ただ、日本映画スプラッシュがなくなって、日本映画が各部門に散っているんです。コンペに2本、アジアの未来に2本で、Nippon Cinema Now という日本映画だけをやる部門が出来た。

――日本映画を“スプラッシュ”という部門に入れて保護するのでなく、各部門に散らばらせて他流試合をしてこい、みたいな?

石坂:同じ土俵でね。アジアの未来に入った日本映画2本はテーマ的には他の国にもありそうな普遍的なものだと思ったのが大きいです。安川有果監督の『よだかの片思い」という作品は、顔に大きな痣がある、ハンディキャップを背負った若い女性が、映画人と付き合う中で、どう変わっていくかという話ですし、もう1本の奥田裕介監督の『誰かの花』は団地の高齢化社会の問題をミステリーにしているという、なかなか面白い作品です。

――今まで六本木だったので、今年のイメージが全然湧かないんですが。

石坂:具体的に劇場は角川シネマ有楽町とヒューマントラストシネマ有楽町です。ヒューマントラストはロビーが狭いこともあって、有楽町駅前にインフォメーションデスクのようなものを作るみたいですが、今年はある意味で過渡期なので。銀座でやってみて、お客さんとの距離が近づくのはいいことだと思うし、街を歩いていて、いろんな人の顔を見たりというのは悪くないと思います。

 銀座は日本映画のセンターのひとつだし、ベルリンのような大都市映画祭になったときに、どういうお手本を見せるか。今年はどこをどう使うかは試行錯誤だと思います。誰もまだ分からない状態です。

――今年の審査員は?

石坂:外国から人を呼ぶのが大変なので、東京大学大学院総合文化研究所教授の韓燕麗さん、全国のミニシアター代表としてユーロスペースの北条誠人支配人、それと石井裕也監督です。

誰も見てない映画を自分で発見!

――面白い顔ぶれですね。

石坂:石井さんは韓国で映画を撮ってるし、香港でやってた頃のアジアフィルムアワードで、新人の頃にエドワード・ヤン賞を獲っているんです。この賞は最近なくなったんですが昔は不定期で出していて、石井裕也監督とエドウィン監督が受賞しています。

――今年、コンペがこれだけアジアっぽくなってくると、フィルメックスもあるし、これだけアジア映画があってもな、とも思います。コンペはコンペという折り紙があって、フィルメックスの作品は他の映画祭で賞をとっていたりするので、アジアの未来は一番情報が足りませんよね。新鮮ではあるけれど、鮮度がマイナスに働く場合も?

石坂:まだ誰も見てない映画を自分で見てください、というファスト映画時代と逆行するようなメッセージは出したいですね。

――発見の喜びみたいな?

石坂:未知との遭遇というか。私は、できるだけ先入観なく映画を見たいなと思っています。これは世代がどうのという意味ではなく、劇場までの道筋というか、必要最小限の道筋でアジアの未来へ来てくれるお客さんを一人でも増やすということを本気になって考えないといけない。すぐに名案は出てきませんが。

――アジアの未来とフィルメックスがどうなっていくのかが今年の私のテーマで、両方を見ながら考えようと思っているんです。フィルメックスのプログラミング・ディレクターだった市山尚三さんがTIFFのプログラミング・ディレクターになったんだから当たり前ですが、TIFFとフィルメックスがシャッフルしてきた感はありますね。

(取材:10月13日、東銀座の東京国際映画祭事務局にて)

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