東京フィルメックス、なぜ東京国際映画祭と連動?市山尚三ディレクターに聞く

カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭など、世界の主要映画祭の現場を取材している映画評論家・字幕翻訳家の齋藤敦子さんから、10月30日に開幕した映画祭「東京フィルメックス」のリポートが届きました。コロナ時代の国際映画祭は一体、どうなるのでしょうか?市山尚三ディレクターへの単独インタビューを、2回に分けてお届けします。

――今年は聞きたいことが沢山あります。まず、東京国際映画祭(TIFF)と連動すると聞いて、びっくりしたんですが、具体的にはいつ頃から考えていたんですか?

市山:去年のヴェネツィア映画祭で安藤浩康チェアマンと会って話したときです。安藤さんとは国際交流基金の理事長だった頃からの知り合いだったんですが、今年(2019年)からTIFFのチェアマンをやるという話になり、TIFFの今までの枠組みを変えたい、ここしばらく、プログラマーだけで決めていた作品選定を、コミッティーを作って広く意見を聞きながら決めていくようにしたい、それに協力してくれという話があったんです。というわけで、僕もコミッティーに入っているんですが、それが1つ。もう1つは期間を同時期にやってもらえませんかということでした。

――同時期開催は向こうからの提案だった?

市山:そうなんです。実は久松さんと僕との間で話していたことはあったので、安藤さんお一人のお考えというよりは久松さん(久松猛朗、東京国際映画祭フェスティバル・ディレクター)から話を聞かれていたのかもしれません。久松さんは松竹の先輩で、ちょくちょく食事とかしたときに、他の国際映画祭の組織のことを聞かれ、僕がカンヌ、ヴェネツィア、ベルリンとかはこうですよという話をしてたんです。とりあえず、可能性があるかどうかを聞かれただけで、TIFFの内部で話を進めたのは、たぶん今年になってから、ベルリンの後じゃないでしょうか。

市山尚三ディレクター。インタビューはマスクをかけて行われた。

今後のビジョンが見えない

――急展開ですね。

市山:反対意見はあまりなかったようです。フィルメックスと一緒にやるのはダメだという人がいなかったみたいです。

――今年はいきなりTIFFでコミッティーが出来たり、コロナがあったりしたので、とても変則的な印象を受けたんですが、これからどういう形で発展させていきたいのかというビジョンが見えないんです。

市山:TIFFで一番大きな問題は来年コンペをどうするかということだと思いますが、フィルメックスとしては何も変わってないです。

――とはいえ、期間が重なったことで、取材する側としてはとてもやりにくくなりました。見に行けないし。しかも、映画祭の観客は重なっている部分があるから、デメリットの部分もすごくあるような気がするんですが。

市山:フィルメックスのかなりの作品は、11月中旬から期間限定でリモートで見られます。TIFFにも面白い映画はありますが、是非ともフィルメックスに来て欲しい(笑)。

――いくらリモートで見られるとはいえ、スクリーンで見るのと印象が違いますよ。それにTIFFに派手な映画がなくなると、もともとコンペはプレミア重視で地味な作品が多かったので、印象が重なりませんか。

市山:TIFFの映画は僕がセレクションに関わっていないものが多いし、違うタイプの映画が出ています。

――プロが見たら分かりますが、一般の人には似た感じの映画が並ぶ印象を持つ気がするんです。フィルメックスを信頼している人は大丈夫でしょうが、その他大勢の映画ファンは迷うんじゃないかなと。

市山:そうでしょうね。

――余裕ですね(笑)。

市山:今年の問題は、フィルメックスをぜひ見に来てくださいと言えないこと。有楽町朝日ホールはコロナ対策でキャパが半分なんで、かなりの回が売り切れになりそうなんです。それは我々にはどうしようもない。逆にリモートをやってよかったなと思います。

――朝日ホールで全期間できなかったのはなぜですか?

市山:他の予定が入っていたからです。

――開催を手前に動かしたから、前の2日と後の2日しかとれなかった?

市山:最初は前の2日しかとれなくて、途中で後の2日が空いたんです。それで、オープニングとクロージングが朝日ホールでできるようになり、それはラッキーでした。最悪の場合は5日にシャンテでクロージングという可能性もありました。

オープニング作品「愛のまなざしを」上映後のQ&Aの模様。左から万田邦敏監督、主演の仲村トオルさん、主演でプロデューサーの杉野希妃さん。コロナ対策のため、質問は背後のQRコードをスマホにダウンロードしてアップするという形で行われた。

同時期開催、来年も?

――シャンテって席数200くらいでしょう?

市山:220席です。

――来年も同時期開催を続けるんですか?

市山:来年は朝日ホールをTIFFの同時期のところは仮押さえしているので、来年は朝日ホールで1週間開催できると思います。

――その後も同時期開催を続けるつもりですか?

市山:問題がなければ続けるつもりです。本当はゲストが来られれば一番メリットがあったんですが。TIFFの期間中はマーケットの人が沢山いるんです。その人達がフィルメックスのタレンツ・トーキョーの人達とか、コンペの監督達と会う機会があると相当違う。

――わざわざフィルメックスに来るマーケットの人はいない?

市山:予算の関係でフィルメックスとしては呼べない。タレンツ・トーキョーの講師にセールスエージェントの人を入れたりして、交流の場を作ろうとはしているんですが、それには限界があるんで、そこは特にTIFFのマーケットの人達が来ているときに開催すると相乗効果が出ると思う。そういうことを考えていくと、悪い話じゃないと前から考えていたんです。お客さんにはご迷惑をおかけしますが。

連動の相乗効果に期待

――そういうメリットは確かにありますね。

市山:フィルメックスに来た人とは知り合いになれるけど、それ以上の広がりがない。それはもう限界だし、フィルメックスがインダストリーのゲストを招待できるかというと、それは無理です。映画祭関係者も当然TIFFの方に沢山来る、日本映画も沢山やってるから。そうすると目に触れる機会としてはTIFF開催中の方が、そういう人達の目に触れるだろうと。

――それは分かりますが、今年みたいに、こんなにぴったり重ねないで、もう少しずらして、重なる期間を3日か4日くらいにしてくれると、すごく楽になるんですが。

市山:来年はびっちり一緒にしなくて、少しずらすというのはやった方がいいかもしれませんね。

――ずらしてくれないとやってられないですよ。まずプレス上映に行くのが大変だし、六本木に行くのが大変ということもあります。

市山:シャンテはTIFFが押さえてたんで、借りられたんです。TIFFは3館押さえてたようですが、夏頃に公開予定だった映画が全部延期になり、この時期に公開になるので1館だけ貸していただくことになりました。コロナで一番問題だったのは劇場の確保でした。

コロナ禍の影響も

――コロナの話題が出たので聞きますが、今年はあまり外国に行ってないですよね。

市山:ベルリンが最後で、あれからどこにも行ってません。

――市山さんは中国映画のプロデュースもやってますよね。

市山:それは全部、来年に延期です。来年に。

――中国の映画製作はストップ?

市山:それはやってます。外国人が入れないだけで。逆に中国映画は早めに6月くらいから撮っていると思います。外国人が入るとなると2週間の自粛期間があるんです。本当は十月中旬にジャ・ジャンクーが主催するピンヤオ映画祭から今年も来てくれと言われていたんですが、行くとフィルメックスの準備に大打撃になる。2週間早く向こうに入って、日本に帰ってきてまた2週間なので。ピンヤオ映画祭自体、海外のゲストを呼ぶのは諦めたと言ってました。

(後編へつづく)

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