生協がなぜ「電気」を売るのか?再エネ電気販売、あいコープみやぎの挑戦

【大河原芙由子通信員=宮城県仙台市】2016年から電力の小売り全面自由化がスタートし、一般家庭でも契約する電力会社を選べるようになった。携帯電話会社など異業種の参入や、自治体が大手企業と組むなど、新しい電力会社、通称「新電力」が次々と誕生しさまざまなサービスも生まれている。再生可能エネルギーを中心とした電力の供給を行う会社もある。あいコープみやぎ(仙台市)は、2017年10月より再生可能エネルギーを中心とする「パルシステムでんき」を順次供給開始。2017年度は80%以上の再生可能エネルギー比率を計画値に掲げた。食べ物の宅配サービスを行う生協がなぜ電気を販売するのか、同組合の担当者に取材した。

食べ物も電気も、生産者と消費者をつなげる

「あいコープみやぎは、そもそも食べ物の共同購入を行う協同組合です。消費者の買う力を集めれば、生産者により良いものを作ってもらえるという考え方で、牛乳とか卵とか今ある商品は組合と生産者が一緒になって開発してきました。同じように、電気も買う力を集めて発電事業者と結びつけば、自分たちが望む電気が手に入るという発想です」と語るのは、あいコープみやぎ事業本部長の多々良哲さんだ。

2016年4月の一般家庭の電力自由化を前に、日本各地の生協でもさまざまな動きが出ていた。東京電力福島第一原発事故以前から、持続可能なエネルギー社会づくりを目指していたあいコープ。商品政策も近く人的交流もあったパルシステムが、パルシステム電力という電力会社を立ち上げるということで、多々良さんたちは動いた。パルシステムは首都圏を中心に展開する大規模な生協で、太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギーで発電した電力供給100%を目指す。「東京で何か会合があれば、必ずパルシステムの電力事業の部署を訪ねて、宮城県内の取次はあいコープにやらせてほしいと相談を続けました」と、多々良さんは当時を振り返る。

パルシステムからゴーサインが出たのは2017年のはじめ。そこからあいコープ組合員専用のウェブサイトを立ち上げるなど準備を重ね、2017年10月の販売開始にこぎつける。販売開始前の記者会見では新聞やテレビ局にも多数取り上げられた。「宮城県で再エネ比率の高い電力の選択肢ってなかったんですよ。電源構成を明らかにして、再エネ電気を売りにしていく、きちんと地域展開してやっていきますよっていうのはあいコープが初めてだったから、結構反響がありました」(多々良さん)。2017年8月のキックオフ集会には組合員130人ほどが集まり、会場は熱気を帯びたという。

約1万4,000世帯を超える組合員のうち約140世帯ほどが、約半年間でパルシステム電力に切り替えた。あいコープの配達エリア外でも、宮城県内で電線がつながっていればパルシステム電力を使うことができる。月々の料金は大手電力会社とほぼ変わらず、切り替えも申込書を記入するのみと、いたって簡単だ。総務部で事業を担当する大滝満雄さんは、「食べ物の産地を大事にし、産地と組合員をつなげる事業を行ってきたあいコープだからこそできる取り組み」と再エネ電気の販売促進に意欲を見せる。

組合員の自主的な活動から、発電産地とつながった

「今ではいろんなところに出向いては、再エネ電気のよさをPRしていますけど、そもそも私はエネルギーのことなんか考えたこともない主婦だったんですよ」と話すのは、理事の鈴木真奈美さん。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後、1歳の子どもと避難した札幌から宮城に戻った際、安心して食べられるものを探してあいコープと出会った。宅配のカタログと一緒に入ってくるチラシの中に、お金を無利子で貸すから太陽光パネルを設置してエネルギー家計簿を付けてみませんかという案内を見つけ応募したのをきっかけに、あいコープの取り組みに関わり始めた。「あいコープの中に脱原発・エネルギー委員会というのがあるんですが、今はそこの担当理事をやっています。前任の理事や参加者の方たちに引っ張られてエネルギーのことを勉強するうちに、どんどん発見があって、おもしろくなっちゃって。小売自由化が始まったり、時代の転換期というのもあって、次々いろんなことが起こるわけですよ」と笑顔で語る。

(左)事業を担当する総務部部長の大滝満雄さん (右)理事の鈴木真奈美さん(大河原芙由子撮影)

現在、あいコープが取次ぐ電力の中には、丸森町の筆甫地区で太陽光発電を行うひっぽ電力もあるが、ひっぽ電力をパルシステム電力につなげたのも、鈴木さんたち組合員の活動がきっかけになっている。「ひっぽ電力の方たちとはエネルギー関係のシンポジウムで知り合ったんですが、ウバヒガンザクラも咲くし、発電所予定地見学も兼ねてみんなで遠足に行こうと組合員仲間と盛り上がって、子ども連れで筆甫に行ったんです。発電所を作るときにまた来ますよって言って、発電所の建設にも実際に参加しました。中学校の跡地の何もない更地にくいを打つところから始まって、みんなで手作業で完成させたんですよ」

「ある場所で発電された電気って、一番にその周りの人たちが使うわけですよね。だったら発電所の周りの人たちが電気を買ってくれるのが一番いいんじゃないって思います。なので筆甫の人にこそパルシステム電気に入ってほしくてPRにも行きました」(鈴木さん)大滝さんは、「ひっぽ電力では、これまでに7基の太陽光発電所が完成し発電を開始している。さらに、今後6基の稼働に向けて建設工事を進めているとのことです」と言う。

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電気が選べる時代への転換、課題も

「首都圏では小売会社も多くさまざまな宣伝や情報も舞い込み、電力会社を選ぶことが楽しいという状況で、東京電力からの切り替え率も10%を超えています。ただ、宮城をはじめ東北では、まだまだ電気を選べるということが浸透していません」と多々良さん。

一方で鈴木さんは、あいコープの電気の説明会で、再エネだと停電が多いのではなどと質問されることもあり、消費者が電気の基本的な仕組みを理解していくことも引き続き必要と言う。あいコープみやぎが扱うパルシステム電気含む新電力は、独自に調達する電力を基本としつつ、不足分は電力の市場から卸売の電力を調達して賄っている。たとえ天候が悪く数カ所の発電所が発電しなくても、電力の市場でやり繰りできる仕組みだ。ただ、これらは新しい仕組みや制度だけに、いかに分かりやすく理解を深めていくかは今後の課題と言える。

さらに、組合員の中でもさまざまな理由で切り替えができない人がいると鈴木さん。「例えばオール電化は単価が安い深夜電力を使うことありきで契約しているので、パルシステム電力に変えると逆に高くなってしまうんです。冬場で1万円ぐらい東北電力に電気代を払っている人がパルシステム電気に切り替えると、電気代が2万ちょっとと倍以上になることも」と、ジレンマもある。

選んで買う電気が、発電産地をつくる

「食べ物のいい産地は、土地があり太陽が降り注ぎ水が流れていてという自然豊かな環境なんですが、小水力やバイオマス、バイオガスといった再エネ電気を生み出せる環境でもある。農業や畜産業と一緒に再エネでの発電を組み合わせた取り組みを、宮城県内でこれから編み出していきたい。それは生産地のためにも、消費する組合員のためにもなると思います」と多々良さん。「選んで電気を買う、食べ物を買うということ自体が立派な参加。多くの人たちの買う力を集めて、はじめて社会的な力になっていくんです」

原発事故後、私たちが使うエネルギーのあり方についてはさまざまに議論が起こった。一般家庭の電気も自由化された今、今一度いち消費者として、自分が使う電気を選んでみたい。

会員の後藤さんと鈴木さんのお子さんも一緒に!アットホームなオフィス(大河原芙由子撮影)