10年目の被災地に「スイートポテト店」が誕生するまで 仙台市若林区の「りるぽて」開業を追った

平塚千絵(仙台市)】東日本大震災から10年目となる2020年の6月、震災からの農業再生支援を行う一般社団法人ReRootsが、仙台市若林区にスイートポテト専門店「仙台いも工房りるぽて」をオープンしました。かつて市内にあったスイートポテト専門店の味を引き継ぎ、製造・販売を行っています。「スイートポテトを通し、若林区に興味を持つきっかけになってほしい」と代表の広瀬剛史さん(46)は話します。団体がスイートポテト製造・販売をするまでに至ったストーリーと、そこに込められた思いを取材しました。

震災を機に立ち上がった学生中心のボランティア団体

ReRootsが拠点を置く仙台市若林区沿岸部は、震災前は宮城県内有数の農業地帯でした。地域には、家ごとに代々引き継がれてきた農村の文化や、住民同士の深いつながりがありました。ところが、津波被害により人口が減少。とりわけ子育て世代の流出が大きく、過疎化・高齢化による農業の担い手不足と地域コミュニティの希薄化が地域課題となっています。

団体は、震災直後より農地復旧ボランティアとして、地域の農家と共に、がれき撤去などを行ってきました。そうした中、農家との距離が縮まるにつれ、「この先も持続していける農村をつくっていきたい」という思いが強まり、「農業再生」と「農村コミュニティ再生」の2つの目標を掲げ、様々なプロジェクトを立ち上げました。

おいもプロジェクト集合写真(一般社団法人ReRoots提供)

「りるぽて」開店のきっかけとなった「おいもプロジェクト」もその一つです。それは、中学生以下の親子が、地元農家の指導を受けながら、年に3回サツマイモの苗の定植、生産管理、収穫を行う農村ツーリズムです。昼食時には、地域の農家の主婦たちが作った自慢の農家料理がふるまわれます。農業や農村文化を体験できるので、例年、仙台市内近郊から累計100名ほどが参加します。「若林区の地域資源である農業を幼い時に体験することで、大人になってから地域の魅力を自分の言葉で話せるようになってほしい」と広瀬さんは期待を込めます。

原点は亡き長老の言葉「作ったものを売ってこそ農業」

活動開始時から団体に農業を指導してきたのが、地域で長年にわたり農業を営んできた佐藤勝五郎さんでした。「おいもプロジェクト」でも講師として指導にあたりました。惜しくも昨年亡くなりましたが(享年97歳)、「技術面はもちろんのこと、農業に対する考え方もたくさん教わりました」と広瀬さんは振り返ります。その「農業の師匠」の教えの一つが「作ったものを売ってこそ農業。自分たちが育てたものを売り、人の手に渡るところまでやりなさい」という、「りるぽて」開店の原点となったものでした。

(一般社団法人ReRoots提供)

その一環として広瀬さんたちは、「おいもプロジェクト」で収穫したサツマイモを使ってコラボ商品を作ってくれる商店を探し始めます。そこに名乗りをあげたのが、仙台市内のスイートポテト専門店「仙台いも工房」でした。折しも一身上の都合により閉店を決めていたタイミングだったため、技術継承と販売までもちかけられたのが、第一歩となりました。

イチから始めたスイートポテトづくりの修行とお店づくり

2018年の秋から冬にかけて、広瀬さんらメンバー3人は「仙台いも工房」を視察し、翌年2月から、実際にスイートポテトづくりの修業に入りました。何回も経験を重ねていくことで引き継がれてきたレシピを身につけるべく奮闘しました。

2019年8月からは店舗の内装準備を開始。学生団体ゆえに資金が潤沢とは言えず、内装は全て手作りでした。メンバーの多くが学生で、学業や他のプロジェクトと並行しての作業だったため稼働できるスタッフは限られている上、全員が初心者。壁や床を張るのに想定以上に時間がかかりました。その後も、2~3人で行った200キロのショーケースや150キロの冷蔵庫の搬入では、トラックからロープを使いながら、慎重に下ろしやっとの思いで建物の中に入れるなど、苦労もありました。店舗づくりを終えられたのは2020年の年明けでした。

新型コロナで開店延期も、オープン日には長い列が

ようやく店舗の内装が整い、オープン日を4月25日に決めて準備を進めていたところ、新型コロナウイルスによる非常事態宣言が発令。開店をあえなく断念しました。先が見えない状況の中、家賃などの経費は変わらずにかかるものの、開店前のため国の助成金や補助金の対象にならないという資金面での不安、開店できたとしても果たしてお客さんは来てくれるのかという集客面での不安といった様々な不安がメンバーを襲いました。

開店を延期し、ついに6月13日、仙台市若林区沖野にある「仙台いも工房りるぽて」店舗はオープンしました。不安を抱いていたメンバーたちが開店前に目にしたのは、オープンを待ちわびた多くの人が列を作る光景でした。

スイートポテトで「いもづる式」のまちづくりを

「サツマイモの自然な甘さを生かしたスイートポテト」がモットーの同店。収穫時期により材料となるサツマイモの品種の特徴を生かした商品づくりに余念がありません。例えば甘く水分が多い品種の場合は、砂糖を入れず、水分を少なめにするなど、素材に向き合いながら基本のレシピに調整を加えます。その努力の甲斐あってか、地域の高齢者や主婦を始め、インターネットを通じて知り、県内至る所から買いに来る人が後を絶ちません。

(定番商品「りるぽてと」(350円)をはじめとする商品。3種類のサイズがある)

今後は仙台市内中心部や首都圏など県外での出張販売も見据える広瀬さん。「若林区のまちづくりや復興に貢献できる店を目指しています。お客様が手に取ったスイートポテトから、津波からの復興や、『おいもプロジェクト』で子どもたちが収穫したサツマイモが商品になっているという地域の努力や魅力を広く発信していきたいです」と話します。

そして、「スイートポテトを買ったお客様、おいもプロジェクトにかかわった人たち、地域の農家などたくさんの人が結び付き、『いもづる式』にまちづくりが進んでいくことを願い、活動を続けていきたいです」と熱いまなざしで先を見据えます。

(ReRoots代表の広瀬剛史さん)

〇店舗情報
スイートポテト専門店
仙台いも工房りるぽて
営業時間:10時~19時
定休日:毎週水・木曜日
住所:仙台市若林区沖野3-13-20
電話番号:022-355-8225

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