震災乗り越え、閖上で現地再建を果たした佐々木酒造店

【渡邉貴裕】仙台平野の一角にある名取川の南側に面した宮城県名取市閖上。河口付近の堤防に立つと広大な海や川が眺望できる。復興事業でかさ上げされたエリアでは生業を営む人々、生活する人々が行き交う日常的な様子が見られる。

2011年3月11日に起きた東日本大震災で、人やモノ、家を失うなどの壊滅的な被害を受けながらも着実にまちづくりが進められた地域でもあり、新しい姿となった閖上は震災前とはまた別の賑わいを生み出しつつある。

2019年4月、日本唯一となる河口堤防にできた商店街「かわまちてらす閖上」がオープン。同年10月にはかわまちてらす閖上の南向いに、創業より150年もの間代々受け継がれた造り酒屋、佐々木酒造店が閖上での再建を果たした。5代目蔵元の佐々木洋さん、杜氏を務める佐々木淳平さんをはじめとする若き蔵人たちは、今日も故郷での酒造りに情熱を傾け続ける。

宮城県名取市閖上の現在の姿

奇跡的に助かった貯蔵タンクから生まれた「閖」

震災当日、洋さんは蔵から離れた場所で会議中だった。突然、激しい揺れに襲われ、すぐさま古い建物が連なる閖上の酒蔵が気になった。当時、30~40年の間に宮城県沖地震が起きると言われていたが、来るべき時を迎えたのかと覚悟をした。車載のテレビは津波の来襲を告げていたが、急いで閖上の蔵に戻り建屋の損傷チェックを始めていたところ、程なくして大津波が押し寄せ容赦なく閖上の街を飲み込んでいった。洋さんは津波を見てから当時の鉄筋コンクリート造の酒蔵屋上に駆け上がって避難したため命は助かり、一夜明けて自宅に戻ったそうだ。

被災した蔵には被害を受けながらも奇跡的に無傷のまま助かった貯蔵タンクがあった。その貯蔵タンクの酒は内陸部に位置する仙台市若林区荒町にある森民酒造へ運び込まれ、設備を借りて震災復興酒「閖」として瓶詰めされた。

震災後、洋さんは復旧が遅々として進まない中でも常にポジティブであり、閖上、そして佐々木酒造店の復旧のために何をすれば良いのか積極的に行動を始めていた。

現在の佐々木酒造店の売店正面

「小さくとも、故郷の酒を醸し続ける」

震災の翌年2012年2月、美田園地区に作られた名取市復興仮設商店街「閖上さいかい市場」へ入居し、酒販小売事業を再開。全国の醸造家や酒類関係者からの力添えで、下余田に作られた名取市復興工業団地に日本初となる仮設の酒蔵を設備し、12月から酒造りを再開して事業の仮復旧を果たした。

故郷閖上へ戻るまでには長い時間がかかることは想像に難くなかったが、「小さくとも故郷の酒を醸し続けることこそが大切」と考え、酒質の向上に努めた。 「地酒は地域文化の液体化」として初代から受け継がれており、洋さんは「地酒は地域の力水」と語る。「酒蔵のあるまちの文化を残したい」という力強い思いが伝わる。 

洋さんは閖上の土地や食文化、歴史など地場産の料理とともに地酒の魅力を発信し続け、たくさんの人にファンになってほしいと願っている。酒造りには仙台せりにも利用されている下余田に湧く清水を利用し、宮城、名取、閖上の土地の食に合う形で造られている。代々続く「宝船(ほうせん)浪の音」には、「閖上の感動に寄り添う酒であってほしい」との洋さんの願いが込められている。震災後に造り始めた「閖」には地元名取市産の米が使用されており、土地の文化を象徴しているものを伝えたいという思いが切に伝わってくる。

震災から8年半が経過した2019年10月1日、日本酒の日に合わせて閖上にできた新しい酒蔵で酒造りが再開され、見事現地再建を果たした。あれから約1年半が経った今も進化を遂げようと、前進を続けている。

2019年10月1日に稼働した新しい酒蔵

感謝の意を込め、国内外へ発信

洋さんは、震災後多くの人からもらった支援への感謝の気持ちを「宝船 浪の音」をはじめとした地酒と地元の食を通じて国内外へ発信していきたいと意気込む。「閖上の元気を震災前以上にアピールして、食、人、文化、土地などを組み合わせた観光を活性化させ、震災からの復旧やレジリエンスを地酒とともに語り継いでいきたい」。洋さんはそう考えている。10年後、20年後も閖上の味として、国内外へと発信され続けることを祈るばかりだ。

閖上の蔵に併設されている店舗では、試飲もできる(水曜定休)。また、県内外からも電話、メール、FAXで注文を承っている。酒蔵の見学は秋から翌年春は繁忙期につき、また、諸事情により見学できない日があるので見学を検討されている方は、是非、事前に問い合わせしていただきたい。
佐々木酒造店HP:http://housen-naminooto.com/

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