8月16日告示、25日投開票の仙台市議選を前に、市議選立候補予定者と若者とが仙台の経済・産業分野を中心に議論する若者主催のイベント「Why not, VOTE」が6日夜、市内で開かれた。
若者と立候補予定者が熱く議論
会場となったのは仙台市青葉区の仙台フォーラス8Fにオープンしたばかりのコミュニティスペース「TAGE」。主催は「TAGE」、仙台の若者世代の意見を反映した政策提言書「仙台若者ビジョン提言書」をまとめた学生団体「せんだい未来会議」が共催となり、若者と市議選立候補予定者との議論の場が実現した。
登壇したのは市議選立候補予定者が、大内じゅんさん(泉区・無所属新人)、小野寺淳一さん(宮城野区・自民党元職)、庄司あかりさん(若林区・共産党現職)、ひぐちのりこさん(青葉区・社民党現職)。
若者側の登壇者は全員が20代で、株式会社epi&companyの松橋穂波さん、せんだい未来会議から佐藤柊さんと文屋実さん、TAGEから山崎孝一郎さんと椎木陸斗さん。ファシリテーターをNPO法人メディアージの漆田義孝さんが務めた。
最も重視するのは?:大企業、中小企業、起業、農業
議論の前提として、仙台市の経済・産業の状況が簡単に説明された。仙台の産業で最も多いのは卸売・小売で、2位が不動産、3位が建設業となっている。仙台市内の事業所における「支店」の割合は42.9%と全国の政令指定都市の中で最も高く、本社を置く割合が少ない「支店経済」であることが課題として挙げられる。
市議選立候補予定者に始めに投げかけられたのは、仙台にとって「大企業の誘致、中小企業支援、起業支援、農業振興のうち、重要だと思う政策はどれですか?」という質問。
「大企業誘致」と答えたのは小野寺さん。大内さん、庄司さん、ひぐちさんの3人は「中小企業支援」と答えた。
「大企業誘致」と答えた小野寺さんは「短期的に効果が出やすいのは大企業誘致だと思う。(誘致するのは)景気に左右されずに安定的に雇用を生み出せる研究所などが望ましいのではないか」と話した。
「中小企業支援」と答えた3人からは、「大企業を都会から地方に移転するのは多くの企業が苦慮しており時間がかかる。仙台の99%は中小企業で経済を支えており、これががたがたになったら仙台は終わり。きめ細かく中小企業支援を行っていく必要がある」(大内さん)。
「今世界で活躍している大企業を引っ張ってくるより、今ある中小企業を大企業に育てていく方がおもしろいのではないか。農業や漁業で法人化しているところもあり、その分野も含めて中小企業支援が大切」(庄司さん)。
「宮城、東北で、仙台だけ一人勝ちしていいのか。それぞれの土地の自治体の、それぞれの特徴を持った中小企業がwin-winになれるような形がよいと思う」(ひぐちさん)といった意見が出た。
若者側では、「起業支援」と答えたのが佐藤さん。「学生が起業したいと思ったとき、どうしても勢いのある東京や福岡に行ってしまう。東日本大震災を経験してさまざまな社会起業が生まれている仙台で事業モデルを作ることができたら、世界に貢献できるビジネスが生まれると思う」と、大学生の立場から意見した。
仙台で起業した松橋さんは「仙台市は起業支援がとても充実しているが、会社をつくるより、続けていくほうがとても難しいこと。中小企業支援の底上げをすることが仙台の発展につながるのでは」と、自身の経験に基づいて語った。文屋さんは「立ち上がった人が長く続けて、手を取り合って活躍するには中小企業支援が大事」。起業支援の企業でインターンシップをしている椎木さんは「起業後をサポートしたり、地元企業の魅力を発信したりするところでは自治体というより民間企業の力が必要だという意味で、中小企業支援が重要だと思う」と話した。
宮城県丸森町で日本酒をつくる事業を立ち上げる計画という起業家の山崎さんは「わくわくすることが作れる」として「農業振興」を挙げ、「農業は、ホテルやレストランを併設するなど多角化することによって、観光地となるような場所をつくることもできる」と海外の事例もあげながらその可能性を語った。
中小企業支援のため仙台市がすべきことは?
続いての質問は、「中小企業支援のために仙台市がすべきことは何か?」。立候補予定者からはそれぞれの経験に基づいた多様な意見が出た。
ひぐちさんは「労働法の遵守・労働教育」を挙げた。「そこそこの労働時間でいろんなところに遊びに行けるようなお金、フリーになるような時間、休暇が必要。仙台で働けば完全に自分のプライベートの時間が充実する、というのを売りにするのも一つではないか」
庄司さんは「事業承継の不安に応える取り組み」。「世代交代する方法、後継者に資産を移す方法などを早めにお伝えする必要がある。後継者がいなくて廃業する企業がある中で、銀行でなく信頼感ある行政がM&Aのマッチングを進めるのもいいのでは」
小野寺さんは「発信力の弱さをスキルアップする重要性」。「(仙台の企業は)商売として広くアピールする力が弱いことが大きな課題になっている。企業の社会貢献という観点から、中小企業がより小さい企業のフォローをする異業種マッチングも必要では」
大内さんは「人材採用の場の提供」。「求人を出しても人が来なくて困っている企業があるが、中小企業には体力がない。仙台市が本当に人材が欲しい中小企業のために、東京で人を採用する機会をつくる必要があるのではないか」
若者側からは「(東京などの)上場を目指している企業や採用が上手な企業から学ぶなど、仙台の企業には企業間留学のようなものが必要なのではないか」(松橋さん)、「多様な人材を確保するためのマッチング強化や補助金などの政策を仙台市がしてくれると、仙台におもしろい企業ができるのでは」(佐藤さん)などの意見が出た。
30〜40代が仙台にUIJターンしてくるには?
最後の質問は、「30〜40代がUIJターンしてくるために、仙台市がするべきことはなんですか」。この質問には全員ではなく、案のある人が挙手して順に回答していった。
ひぐちさんは「文化」。「ゲームのイベントやコンサートなど、若い人がお金を出すような文化があることではないか」と語った。それを受け、山崎さんは「ナイトタイムエコノミー」を挙げた。「仕事が終わった後の余暇時間をどう活用するかが重要な世代で、ナイトミュージアムや夜に行けるエンタメ施設があるといい」と話した。
庄司さんは「家賃補助や人口減少で悩んでいる地域への移住を促すような施策が必要なのではないか」。椎木さんは「UIJターンを呼ぶような補助金」が必要なのではないかと指摘した。
大内さんは「子育て環境の充実。仙台にはいじめ、虐待、不登校問題が出ていてそれがマイナスになっている。多様性を認め合うことが必要」と、教育の問題を解決することの重要性を訴えた。
松橋さんは「仙台市ってどういうまちなのか?の方向性がぼんやりしているので、まずは市としてのブランディングをしっかり決める必要があるのでは」と提案した。
「若者の一票、決して小さくはない」
仙台の未来をめぐり、白熱した市議選立候補予定者と若者とのトークイベント。立候補予定者にも若者にも、議論を終えたその表情には充実感が漂っていた。
主催者の山崎さんは「政治って自分の力では何も変わらないのではないかと思っている若者が多いが、例えばイギリスのブレグジット(EU離脱の是非をめぐる国民投票)はもし投票率がほんの少しだけ上がっていれば結果が変わっていた可能性があるとも言われていて、自分たちの影響力が小さいとは決して思わない。これからも一票の重みを伝える試みをしていきたい」と話した。
仙台市議選は16日に告示され、25日に投開票日を迎える。定数は55人。市議会議員は当選すると4年間の任期となる。