長沼さんを教室に招いての、受講生の共同インタビュー=2022年11月15日、尚絅学院大

【大学生が取材した3.11】災害救助法の限界ー被災者が証言する「仮設」の暮らし

連載:大学生が取材した3.11】「3月11日に向けて記事を書こう」。震災で大きな被害を受けた宮城県名取市にある尚絅学院大学で、ローカルジャーナリストの寺島英弥さんが今年もそんな目標を掲げた実践講座を催しました。大学生たちは、地元名取市の被災地・閖上で取材を重ねる中で何を感じ、自らの言葉で何を伝えようとするのか。シリーズで掲載します。

相澤朋季(尚絅学院大学1年)】東日本大震災の被災地である宮城県名取市閖上。被災者となり、現在は閖上中央町内会長としてこの地に住む長沼俊幸さん(60)は、長い仮設住宅暮らしを経験した。長沼さんは苦難を知る当事者として、今後起こる災害に備えて「『災害救助法』を変えてゆかなければならない」と繰り返し訴えている。その思いを聴いた。

仮設住宅での日々

長沼さんは、2011年3月11日の津波で自宅ごと流されて九死に一生を得、2カ月半の避難所暮らしを経て、仮設住宅に6年間半入居した。長沼さんは仮設住宅について不安があったという。しかし、避難所での周囲の目を気にする毎日や、風呂の入浴時間も制限される不自由な生活を送り、仮設住宅に入居することが決まった時は「少しでも日常の生活を取り戻せると思い、そのことが何よりも楽しみで、うれしかった」と振り返る。

そして、いざ入居すると「内装がきれいで、寒くなく、うるさくなかった」。長沼さんが入ったのは、ハウスメーカーによって改良された仮設住宅だった。長沼さんはしみじみ、「よかったなぁ」と少なくとも入居時はそう思っていたが、生活するにつれ、だんだんと仮設住宅をめぐる問題が浮き彫りになっていく。

浮き彫りになった格差

長沼さんを教室に招いての、受講生の共同インタビュー=2022年11月15日、尚絅学院大
長沼さんを教室に招いての、受講生の共同インタビュー=2022年11月15日、尚絅学院大

「最初に思ったのは仮設の違いね、全然違うの」。長沼さんが仮設住宅の格差を感じたのは、別の仮設で暮らす親友の家を訪れた時だった。そこは、長沼さんが住む仮設とは違い、工事現場で使われるようなプレハブ造りだった。そのため夏は暑く、冬は寒く、音もうるさい。「特に格差を感じたのは、風呂の追い焚き機能の有無だった」と語る。

長沼さんが入居した仮設のように、追い焚き機能があると、風呂が冷めた時にボタン一つでお湯を温め直すことができる。しかし、そうでないと、もう一度お湯を捨て焚き直す必要があった。当たり前の生活を送れた人と、そうでない人の間で格差が生まれたのだ。

その後、こうした格差がメディアで報道され、徐々に問題は改善された。が、それも結局は後付け工事の繰り返しで、余分な工事費用の負担が発生した。「最初から等しい条件の工事をしておけば、格差は生まれなかった」と語る。そして長沼さんは「仮設住宅をめぐる問題の根底には、災害救助法が関わっている」と証言する。

「時代遅れ」の法律

災害救助法は、国や地方公共団体による災害時の応急的な救助を目的とした法律だ。制定は戦争から間もない1947(昭和22)年で、仮設住宅の設置期間もわずか2年間だ。長沼さんは「時代遅れの法律を無理矢理にでも、現代の大災害に適用させようとするから結局、屋上屋のような後付けの繰り返しになってしまう」と訴える。避難生活が6年余りに及んだ東日本大震災のような災害に対応できなかったという。

この問題がメディアで報道されると、格差は徐々に解消されたが、最後まで解決できなかったのが仮設住宅の「狭さ」だった。必用最低減の生活を送っていた避難所から仮設住宅に移り、だんだんと私物が増え、子どもの成長など家族の暮らしも変化し、部屋の狭さを実感した。

不便さに限界を感じて、入居者の退去で生じた空き部屋を「子どもの勉強部屋や、荷物の置き場のために利用できないか」と市役所の担当者に申請したが、返事は「国の災害救助法に違反してしまう」という空き部屋利用の拒否回答だった。

「こうした事実はメディアでも報道されなかったため、誰にも知られず、また大きな災害が起これば同じように不便な状況に苦しむ人が生まれる。だからこそ、災害救助法を改正させなければならない」と長沼さんは訴える。

教訓を活かすために 

「仮設住宅は不便で当たり前―。確かにそうなんだけど、そこに暮らさざるを得ない人にとって、不便なものは不便なんですよ。災害救助法を変えていかないと」

長沼さんは、一人の被災者として、また仮設住宅で入居者仲間の世話役、代弁役を担い苦労した経験からも、災害救助法の改正を繰り返し訴える。災害救助法は今の生活常識に合わず、限界を迎えている。それは、これからも災害と向き合わねばならない私たちの「人間らしく生きる権利」にも関わる。長沼さんが訴える教訓を生かすために、私たちは災害救助法を知り、変えていかなければならない。

取材・執筆:相澤朋季(尚絅学院大学人文社会学群人文社会学類1年)
編集:寺島英弥(尚絅学院大学客員教授、ローカルジャーナリスト)
協力:尚絅学院大学(http://www.shokei.jp/

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