【東北の起業家】人体に眠る「再生力」呼び覚ます新薬を開発へ スカイファーマ・安藤秀樹さん

PR企画記事:東北の起業家に会いにゆく】東日本大震災後、東北では地域の社会課題をビジネスで解決しようとする人々の機運が高まり「起業」が活発化してきました。そんな東北の起業家たちが集まる年に一度の祭典「TGA Festival」が今年も2月12日に仙台で開催され、3月3日には東京で「TOHOKU STARTUP NIGHT」が開かれます。
東北の起業家たちが取り組むユニークなビジネスやその背景にある熱い思いを知るために、イベントに登壇する起業家たちに会いに行きました。

今回お会いした東北の起業家は、仙台市のスカイファーマ株式会社代表・安藤秀樹さん。私たちの体に眠る「再生力」を呼び覚ますような薬を開発することで、脊髄損傷などの病気の新たな治療法を確立しようとしています。手術の必要がなく低コストな「再生誘導医薬」はいま、再生医療の新たな方法として注目されています。

人体には「再生メカニズム」が眠っていた?

――ずばり、今取り組まれている事業を一言でお聞かせ下さい。

はい。我が社ではこれまでになかった「低分子再生誘導医薬」を作っています。

――テイブンシ・サイセイ・ユウドウ・イヤク……?

まず「低分子化合物」 ですが、例えば台所にある食卓塩や味の素は結晶になっていて、室温で一年や二年置いておいてもずっと壊れないですよね。保管がとても楽な上、大量生産できる。これが低分子化合物で薬を作る利点です。

「再生誘導医薬」というのは、新しいコンセプトの薬です。今までの「再生医薬」は、iPS細胞や幹細胞といった細胞を患者さんの中に移植して、再生させて治すというものでした。その方法は、細胞ですから増やしたり保管したりするのが大変でコストがすごくかかります。それに患者さんから細胞を取って、増やして、もう一度戻すので、患者さんの体にとっても負担が大きいものでした。

再生誘導医薬というのは、私たちの体の中には、両生類だったときの……

――両生類だったときの!?

そのくらいのときの、体を再生するメカニズムがあるんですね。

――トカゲのシッポが切っても生えてくる、あの現象ですか。

そうそう!それを「全能性」というのですが、そのメカニズムが眠ったままま存在していることを発見したんですよ。

【右】スカイファーマ株式会社代表・安藤秀樹さん(聞き手:安藤歩美)

――今の私たちに?あるんですか?

そうなんです。どうやって発見したかというと、私たちは新薬の候補となる有効な化合物を見つける方法として、小型魚類のゼブラフィッシュを用いることで、これまでよりはるかに効率的に有効な化合物を集められるようになりました。そして一年間で、約100種類の新薬の候補を獲得しました。

それぞれの化合物には、ターゲットになるタンパク質が決まっています。そのターゲットだけをスーパーコンピュータに入力してシミュレーションすると、複雑なネットワークが浮かび上がってきたんです。それこそが、私たちの体に眠る再生メカニズムだったんです。それぞれの薬は司令塔のたんぱく質に結合して、活性化させ、そのメカニズム全体を叩き起こすんです。まるでイモリのように、組織を再構築するものです。

――それが実現すれば、今までは手術しないとできなかった再生医療が、薬を飲むことでも可能になる、ということでしょうか。

そうです。薬を飲んだり、患部に直接投与したりすることで可能になります。だから「再生誘導医薬」。「誘導」されるものは、私たちが生まれつき持っているメカニズムです。

「脊髄損傷」の治療薬を開発へ

――具体的にはどんな病気に用いることができるのでしょうか?

今ネズミでの実験で明瞭に著しい効果が見られているのは、下半身不随などを引き起こす脊髄損傷ですね。もう一つは、緑内障です。ネズミでの試験では、点眼により10日間で網膜が再生しました。

――どちらもネズミでの実験で効果が現れていて、これから人に対しても使えるかどうか、という段階にいるということですね。

まさにそのとおりです。まずは効果が現れやすいと考えられ、国の早期承認制度もある「脊髄損傷」の分野に絞って取り組み、新薬の承認と販売を進められたらと思います。

脊髄損傷を患っている方ともお付き合いがありますが、「私たちの最後の希望が安藤さんです」と言われたことがありました。その言葉を励みにしていきたいと思います。

仙台に世界的メガファーマをつくる

――個人的に、創薬分野はベンチャー企業が取り組むイメージがありませんでした。 

その通りです。先述した方法で新薬の候補獲得が飛躍的に効率化できるようになったので、我が社のような小さな会社でも創薬ができるようになりました。また副作用なく安全な「再生メカニズム」を生かしたオリジナルな分野を見つけたことで、ベンチャー企業でも十分にやっていけると思っています。

――今後の事業の展望を教えて下さい。

まず脊髄損傷の分野を主な事業として取り組み、新薬の承認と販売にもっていきます。緑内障、心筋症、糖尿病の膵臓の再生などにも研究段階ですが成功しているので、こういう分野では大手企業にライセンスアウト(特許の使用を認め、対価を得ること)して、メインの脊髄損傷分野に還元していきたい。

そして、ビッグマウスだと思われるかもしれませんが、ファイザー、メルク、ノバルティスなどの規模のメガファーマを仙台に作りたい。世界的なメガファーマは大都市ではなく地方から発祥していることもあり、日本は仙台から生み出したい。 それは十分に可能だと思っています。

インターン生の取材後記

安藤さんはなぜ、仙台にこだわったのか。時は2011年、3月11日。東日本大震災の被害を受け、凄惨な宮城の姿に、希望の光を見た。広島の生まれであった安藤さんは、「75年は草木も生えぬ」と言われた広島が、原爆の被害から急速に復興したことを知っている。完全な更地が、中国地方の中核都市となったことを知っている。その姿が、宮城の姿と重なったのだという。そして、大学勤めをやめた後、安藤さんの導き手となった人が、宮城の人間だったのである。

安藤さんはなぜ研究室を飛び出し、起業という道を選んだのか。大学は最先端の知識を以て実験を行う施設である。だが、大学という組織の仕組み上、最新の医薬ができることと、それが世の中で使われるようになるのは大きなタイムラグがある。安藤さんは「脳科学者として、人を救うことを最優先にしたい」と考え、起業という道を選んだのだ。市場に出すことを大前提に研究をしていく。そのような決意をもって、安藤さんは研究開発をしているのである。

自身の体にもともと備わっているメカニズムを使用した、副作用の少なく安全な医薬の実現を、今後も頑張っていきたいと安藤さんは話す。今後は、脊髄損傷への再生誘導医薬をメインに、緑内障・糖尿病といった疾患へ対応できる医薬の開発についても尽力していきたいとのことであった。新薬という希望の光が困難を抱えている方々へと届く日も、そう遠くはないかもしれない。(取材後記執筆:MAKOTOキャピタルインターン・板垣敦也)

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