【東北大発】黎明期の「量子アニーリング」民間活用で世界市場をねらう シグマアイ

スーパーコンピューターを遥かにしのぐ計算能力を持つ「量子コンピューター」を使った特殊な計算技術「量子アニーリング」で、企業が抱えるあらゆる課題解決を提案し、新たなサービスを共同開発するシグマアイ。代表を務める量子アニーリング研究の第一人者・東北大学情報科学研究科の大関真之准教授は「世界的に、基礎研究から実用化へ飛び出せるかの黎明期。ここで実例を作って成功すれば、一気に世界マーケットに打って出ていける」と語る。

「基礎研究を産業に結びつけることで、色んな人を救えるはず」

既存のコンピューターでは処理できなかった問題を解く可能性が注目されている「量子アニーリング」は、東京工業大学の西森秀稔教授らが発表した日本発の技術だ。西森教授の元で学んでいた大関准教授も日本でいち早く量子アニーリングの研究に取り組んでいたが、この技術を搭載した量子コンピューターを開発して産業化したのは、日本ではなくカナダのベンチャー企業「D-Wave Systems」だった。

「日本ではいつか役に立つかもしれない、と基礎研究を続ける傾向にありますが、海外では新しくて面白い技術が出るとスタートアップがすぐに産業として応用する動きが出る。それを思い知らされましたね」と、大関准教授は話す。

研究を続ける中で、量子アニーリングを工場の作業順の最適化に応用する共同研究を企業と続けていたところ、「うちでもやりたい」と複数の企業から関心が寄せられるように。「基礎研究をベースにしていたのに、ちょっと外を向いて取り組んだら企業のニーズが見えた。技術を大学の中に閉じるのではなく、産業に結びつけることで世の中の役に立ち、色んな人を救えるはず」と、事業化に向けて動き出す。京都大学時代に大学の知財の事業化を担当していた伊勢賢太郎さん、研究者仲間だった観山正道さんとともに2019年、「シグマアイ」を立ち上げた。

企業の課題解決にとどまらず、サービス化までを提案

シグマアイは2019年にD-wave Systemsと日本で唯一の大型利用契約を結び、量子アニーリングマシンを用いた企業の課題解決のコンサルティングサービスを展開している。通信、物流、システム、防災など、顧客の業種は多岐にわたる。「コンサルに終わらず、サービスを民間企業と一緒に展開していくのが私たちのこだわり。量子アニーリングで課題解決を提案した上で、一緒にアプリケーションやシステムを作り、ビジネスをデザインする。技術を使った先の『出口』を一緒に築いていくのが特徴です」と、COOの伊勢さんは話す。

「量子アニーリング」は、目的に到達するためのあらゆる選択肢の中から、全体として最適な組み合わせを算出することに長けた技術だ。工場で自動車部品の組み合わせ順を最適化する、ECサイトの「おすすめ商品」の表示を購買率が上がる複雑なアルゴリズムに変える、津波が来た際に一つの最短ルートに全員が殺到するのではなく、各自が違う経路で避難することで混雑を解消できるような個別の経路を提案する……。世界でもまだ活用方法が模索されている新たな技術で、同社は社会のさまざまな課題解決に取り組んでいる。

「NASAやGoogleとも並んでいる状況、ここが勝負どころ」

「量子アニーリング」はNASAやGoogleなど世界の大企業や組織が活用を模索しているが、その多くはまだ基礎研究の域を出ていないという。最新の量子アニーリングマシン「D-Wave 2000Q」を使う企業の国際ユーザーカンファレンスでは名だたる企業が活用実績を報告しているが、「実はユーザーカンファレンスで民間企業での活用実例を最も多く報告しているのがシグマアイなんです」と、大関准教授は明かす。その背景には、日本のこの技術への期待感の高さがあるようだ。

「量子アニーリングは、よくも悪くもまだ黎明期。研究の世界で流行っていて、それを飛び出せるかどうかの境目にある。日本ではこの技術に民間企業が非常に興味持っていて、それは世界的には特殊な状況と言えます。ここで実例を作って成功すれば、世界マーケットにすぐに打って出ていける。同じ研究をしているNASAやGoogleやフォルクスワーゲンなどともフラットに並んでいる状況で、ここがふんばりどころ。民間企業でこれという活用事例が出せれば、勝てる。やりきるしかない」

東北大学スタートアップガレージコラボ企画:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。

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