【仙台ジャズノート】子どもたちがスイングする ブライトキッズ

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】高齢化が進む中、ジャズ音楽を楽しむシニア世代が増えています。ややもすると、ジャズは年配が楽しむ音楽という受け止め方があるかもしれませんが、小学生のジャズバンドが活動する例があります。ジャズ音楽を継承する最も若い世代です。仙台市の隣町、多賀城市の市立多賀城小で練習する「ブライトキッズ」と仙台市立八木山小のジャズビッグバンド「夢色音楽隊」を取材しました。「子どもにジャズを」と考える親たち、彼らをサポートするミュージシャンたちはどんな思いなのか。

小学校と言えば、童謡・唱歌、合唱と鼓笛隊ぐらいしかなかった世代にとっては、ジャズ特有のスイングビートと子どもたちの組み合わせ自体、新鮮でした。音楽は人前で演奏するか、それを聴いたり、見たりするのが大きな楽しみではありますが、ライブやコンサートを支える練習・リハーサルの現場を機会があればぜひのぞいてみてほしい。音楽に囲まれている人々の表情にじかに接することができます。

ある日曜日の午前10時過ぎ、多賀城小学校の音楽室を訪問しました。年重ねた耳には「ワーッ」「キャー」としか聞こえない歓声とともに女の子たちが7、8人追い抜いていきました。前日までジャズの現場を追いかけ、夕方から深夜にかけての取材に追われていたので、明るい校舎に響く歓声と自在な動きはまるで別世界のようでした。

小学生のジャズビッグバンド「ブライトキッズ」の定例の練習日。ブライト・キッズは秋に開かれる「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」にも毎年出演しています。別途、紹介する仙台市の八木山小のビッグバンドグループ「夢色音楽隊」とともに仙台圏の子どもジャズバンドとして知られています。

すでにメンバー20人ほどがパート練習に入ろうとしていました。3年生から6年生まで。サポーターとして子どもたちを指導している星貴彦さん(39)、辻雅子さん(43)と保護者会の母親二人がそろっていました。リーダーらしき上級生が正面の黒板に、この日のスケジュールと合奏で演奏する曲目を書き出していました。

ブライトキッズの全体練習。無理することなく、ジャズ音楽の基本を少しずつ身に着ける。(多賀城市立多賀城小学校で)
ブライトキッズの全体練習。無理することなく、ジャズ音楽の基本を少しずつ身に着ける。(多賀城市立多賀城小学校で)

ブライトキッズのメンバーが楽しそうに演奏する曲の一つがビッグバンドジャズの定番「スイングしなけりゃ意味ないね(It Don’t Mean A Thing)」です。デューク・エリントン楽団を代表するスタンダードナンバー(1931年)で、楽し気なイントロ(序奏、導入部)からジャズ心が刺激されます。ブライトキッズのレパートリーには「スイングしなけりゃ意味ないね」と同じ年に作曲された「オール・オブ・ミー(All Of Me)」などもあります。ジャズに親しむ世界中の人たちが長い間、聴き、育ててきたスタンダードの中で、子ども世代のジャズ感覚が育まれるのはいかにも好ましい。

体格的に成長途上にある子どもたちが、自分より大きなサックスやトランペット、トロンボーンにすがりつくような感じで演奏しているのを見ていると、「ああ、この子たちは楽器を使って表現する術や喜びを幼くして獲得しつつあるのだなあ」と感慨深いものがあります。

というのも、60過ぎてメロディ楽器を始めたジジイ(筆者)は、まだ音がしっかり出ないのに、単音を連ねて童謡を吹いただけで、言葉にできない感動を味わったものだからです。サックス、トランペットなど呼吸器系の楽器を演奏することは、歌うのに似ている(あるいは同じ)とよく言われますが、覚えたてのころは、楽器から流れ出る音列が自分と関係があるとはとても思えないほどの不思議に満ちています。ブライトキッズも上級生になると、いかにも軽々と音を出していますが、毎年、入ってくる「新人たち」の気持ちのありようは想像できるような気がします。

トランペットパートの練習。この日は卒業生が駆けつけてくれた。(多賀城市立多賀城小学校で)

「ジャズは、子どもたちが始めるにあたってのハードルがとても低いような気がします。約束事がとても緩やかで、何よりも子どもたちの自由にゆだねてくれるのがうれしい」

この日付き添っていた母親がかみしめるように話してくれました。「夫がトラペットを演奏する人で、ジャズに限らず、子どもたちの誰かがトランペットを吹いてくれればうれしい」とのことです。「ジャズは自由」という言葉は、さまざまな場面で語られますが、子どもたちがスイングするバンドの雰囲気でもあるようでした。

星貴彦さんに聞く

何度も繰り返しながら曲を仕上げる。指揮しているのは指導者の星さん(多賀城市立多賀城小学校で)

-中学に進むと吹奏楽に入る道もありますが、ブライトキッズは、卒業しても活動を続けられますか?

星:基本的に6年までです。先輩が卒業した後は次の世代が頑張ります。自立が大事です。毎年学年が進んで、自分たちが主体になるという自覚もやりがいもあると思います。時々、卒業生が来て後輩を指導してくれます。それはそれでとてもうれしい。

-メンバーが変わることで何が起きますか?

星:毎年、バンドの色が変わるんです。たとえばある年はトランペットパートが強い場合、その先輩たちに憧れて、頑張ります。先輩たちが卒業後もバンドに参加してくれれば、演奏の水準を維持するには楽ですが、自分たちが一番年長になってもなお、上手な先輩がずっと活動しているというのも、子どもたちのモチベーションの点でどうかと思います。僕たちは「当事者意識」を何よりも大切にしているので、自力で頑張るのが前提です。その日の活動予定を黒板に書き出すなどの役割をみんなで分担している。僕たちがいなくても、子どもたちだけでやれる形が最強ですね。

-ブライトキッズは学校側から見ると「部活」のようなもの?

星:いや、自律的に活動する市民団体です。だから隣接のまちの子どもたちも参加しています。多賀城市の文化団体として登録しているのでの施設を安く借りられたりするのはありがたい。練習には学校の施設を借りていますが、多賀城小学校の場合、建物の構造的にも市民開放しやすくなっています。

-保護者会の役割は?

星:保護者の中にピアノの先生がいたり、昔、吹奏楽をやっていた、楽器を持っているという人もいますが、僕たちが不在のときに、できる範囲で手伝ってくれるぐらいで、保護者会は完全に運営に特化しています。毎週の練習の送迎やら、本番のためのあらゆる準備、椅子を並べることまで全部やっていただいています。

―ブライトキッズは「ジャズバンド」でいいですね?

星:はい、ジャズビッグバンド、です。

-ジャズという音楽をどう教えます? 

星:僕もジャズに特化して訓練を受けてきたわけではありません。アプローチの仕方はいろいろあると思う。吹奏楽ほど、かっちり、きれいな音で吹いてくださいねということはないので、楽器を演奏する、みんなで合奏することの入り口としては入りやすい。もちろん、深いところはとっても深いんですが、楽器に触れる、音楽をやる入口として、ジャズは耳で聴いたり、口伝えだったりするのが、もともとの形-根源だったり、音楽を楽しみながら覚えていく環境としてはいいのではないか。

辻雅子さんに聞く

-ジャズを指導するこつは?

辻:ピアノをやっている子以外は、みんなでまとまって楽器に触るのは初めてなので、まず音楽をやるのが楽しいよ、ということを知ってもらう。みんなでやるからには守らなければならないこともあるよと。音楽と言うよりも、団体行動の初めを、知ってもらう。それは中学校に入って吹奏楽に入るときなどにも使えるから、今のうち覚えておこうよ、という感じ。ジャズだから特別ということではないですね。ジャズと吹奏楽は技術的に違う部分が多いので、小学生のうちに、ジャズの癖をどれだけつけていいかは迷うところです。

-ジャズの癖をつけすぎない?

辻:吹き方だけは吹奏楽に近い吹き方を進めています。下唇をまいてマウスピースをくわえさせます。ジャズの場合は、唇をまかないで、くわえるだけの場合が多いですが、中学校に行って吹奏楽に行きたいと思う場合を考えて、無理はしていません。子どもなので本番前に歯が抜けるなんてこともあります。うまく吹けなくなるので結構大変です。サックスは少しずらして吹いて・・と言う(笑)子どもの場合、体がまだ小さいので指が届かないこともあります。今年の子どもたちは小さめなので、大型のテナーサックスを吹ける子がいない。だから今のサックスセクションはアルトサックス中心です。

サックスパートから見た練習風景
サックスパートから見た練習風景

-クラシックや吹奏楽に比べてジャズはハードルが低いという声も聞こえてくるが・・・

辻:吹奏楽で育ったわたしからすると、クラシックよりも、決まり事、制約はジャズ方が多い。吹奏楽は楽譜通りきちっと吹けなければいけないが、ジャズは逆に、楽譜に書いてなくことでも、ここは(リズムが)はねる、はねないとか、難しいです。そんなこともあって、どちらかといえば、吹奏楽寄りに教えています。曲の中で格好よく、ジャズっぽく演奏したい場合だけは、細かく口を出します。それでも百パーセントうまくいくわけではないんです。

-ジャズのビッグバンドではあるけれど、「ジャズだ」と振りかぶらずに、ということですか?

辻:子どもたちに家で練習してきてとは言えないんです。いろいろな環境にありますから。せいぜい楽譜を見てきてとか音源を聴いてきてねというぐらいです。だから卒業後、どんな道に進むかは別にして、「楽しかった」と言ってもらえるようにしたい。わたしたちに「わあわあ」言われながら一生懸命に練習して、友だちをたくさん作ってもらえればうれしい。ブライトキッズは複数の学校の子が来ているので、他校の友だちができます。小学生にはなかなかないことですよね。小学校で何か一つ、楽しかった思い出ができれば、ずっと覚えていてもらえるかな。

-譜面を読む、読めるようになると、中学で吹奏楽を始めても役立つ?

辻:そうですね。シャープが幾つついたら、こことここが半音上がるとか。2年生はまだ楽譜を読むことはしないと思います。リコーダを習うのが3年生からですよね。1、2年生だと、私たちの言っていること、大人の言っていること自体が分からないと思うんです。大人が言うので話は聞かなければならないとは思うけれど、分からない。分からないことをどう言えばいいかも分からない状態だと思うんです。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

【連載】仙台ジャズノート
1.プロローグ
(1)身近なところで
(2)「なぜジャズ?」「なぜ今?」「なぜ仙台?」
(3)ジャズは難しい?

2.「現場を見る」
(1) 子どもたちがスイングする ブライト・キッズ
(2) 超難曲「SPAIN」に挑戦!仙台市立八木山小学校バンドサークル “夢色音楽隊”

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