【東北大発】独自のAI技術で、工学部生と医学部教授が立ち上げた「AIスタートアップ」 Adansons

(Adansons代表取締役CEOの石井晴揮さん(右)と副社長・CTOの中屋悠資さん)

東北大学医学系研究科の木村芳孝名誉教授が開発した独自のAI技術「参照系AI」を多分野に社会実装しようと、工学部の学生二人が立ち上げた「AIスタートアップ」。前処理にかかる時間や学習時間を大幅に削減できるリアルタイムで高品質のデータ解析技術が注目を浴び、医療や建設現場、製造現場などあらゆる業種での活用が始まっている。

研究者志望から「研究の事業化」の道へ

材料系の研究者を志望していたという代表の石井晴揮さん。大学進学後、有望なシーズがあるにもかかわらず埋もれてしまったり、資金不足で研究がうまいかず人材が育たなかったりする現状を目にし、研究成果の社会実装や事業による研究費の獲得に関心を持ち始めたという。東北大学の複数の研究を事業化するマネジメント会社の立ち上げを経験したのち、木村芳孝教授に出会い、「この技術と哲学を絶対に世の中に出さないといけない、と勝手に使命感を抱いた」。工学部でAIの研究をしていた中屋悠資さんを副社長兼CTOに誘い、木村教授を役員・技術顧問として迎える形でAIスタートアップ「Adansons」が2019年、始動した。

リアルタイムの計測で、時間と労力を大幅に削減する「参照系AI」

現状のAIでは、学習させるための数千〜数万点に上る画像や音声データをAIが読み取りやすいように人の手で加工してタグ付けしなければならず、膨大な時間とコストがかかる。またAIがなぜその判断をしたかの過程がブラックボックスになっており、安全性の面で課題があった。

これらを解決するのが、数学者でもある木村教授が独自に開発したAIアルゴリズム「参照系AI」だ。木村教授は母体のお腹に電極を貼って得られる複雑な音の中からノイズを取り除き、胎児の心電のみを抽出してリアルタイムで計測するアルゴリズムを開発した。Adansonsはこの技術を他分野にも応用。人間の生体データや機械の音・振動データを参照系AIにリアルタイムで解析させることで、人や機械の不調を検知するサービスを展開している。

現在取り組むプロジェクトは、工場で稼働中の機械の振動から異常を検出する、作業員のバイタルデータを解析して健康状態を見守る、など業種を超えて多岐にわたる。医療系からも引き合いが強く、東北大学病院と共同で複数のAI研究も進めている。

(Adansonsが手掛けるAIによるデータ解析サービスは多業種にわたる)

成功事例を作り「自分たちがロールモデルに」

現在はAIに安全性と正確さが求められる業種の企業とAIの本格実装に向けた実証実験を進めているが、将来的には参照系AIを使ったデータやアルゴリズムを集積し、「第三者が僕たちの作ったフレームワークの上に新しいサービスを作っていけるような、プラットフォームにしていくことが目標」だと、石井さん。「スマホでGoogleを使って検索するように、おじいちゃんおばあちゃんでも誰でもAIを使えるようになることを目指したいですね」と中屋さんは話す。

学生で起業した二人は、自らの目指す理想の社会の姿を自分たちで体現しようと奮闘している。石井さんは「研究の産学連携がうまくいっていない現状で、先生の技術を学生が事業化すること、研究者とベンチャー企業とのあり方など、自分たちがロールモデルを提示できたら」。中屋さんは「人と機械がうまく関わることで、人の可能性をもっと広げたい。エンジニアで研究者で経営者、という三足のわらじを履き、学生にも『あいつでもできるなら自分でもできる』と思ってもらえるような存在になれたら」と語った。

東北大学スタートアップガレージコラボ企画:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。

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