【東北大発】CO2も核廃棄物も出さない「量子水素エネルギー」で世界のエネルギー産業を刷新する クリーンプラネット

(量子水素エネルギーの商用化に日夜取り組む、吉野社長(右)と岩村教授(左)。神奈川県にある研究開発拠点「KAWASAKI BASE」はエンジニアと科学者で活気にあふれている)

二酸化炭素を一切排出せず、原子力発電で懸念される暴走事故の危険性もない、クリーンで安全な新たなエネルギー「Quantum Hydrogen Energy(量子水素エネルギー)」の開発と普及に取り組む。環境に最も優しいスマートシティやオフィスビルの電力を賄う発電装置、電気自動車への搭載など幅広い電力源としての社会インフラ導入を目指し、将来的には火力発電や原子力発電に代わる人々の生活に欠かせない「ベースロード電源」としての実用化も視野に入れる。

原発事故で強く感じた「新たなエネルギー」の必要性

「英語力で日本人の未来を変えよう」と、東京大学法学部在学中に英会話教室「GABA」を立ち上げた吉野英樹代表。同社の経営を軌道に乗せた後、環境投資家としてカナダに在住していた2011年に祖国日本で福島第一原発事故が起き、「人類と自然の未来のためには、地球規模でまったく新しいエネルギーシステムが必要だ」と強く感じるようになった。

ちょうど世界では、1989年に発見されたのち一度は風評で否定された核融合現象「凝縮系核反応」に研究の進展があり、この現象を新たなエネルギー源として利用しようとするベンチャー企業が世界中で立ち上がり始めていた。凝縮系核反応に大きな可能性を感じた吉野代表は2012年「クリーンプラネット」を創業、関連する国際学会に出席するようになるうち、当時は三菱重工で同分野を研究していたR&Dリーダーの岩村康弘氏に出会う。

ともにお互いを「情熱を持って突破していくタイプだと感じた」と笑う二人。「まさに虎と竜がタッグを組むきっかけになった瞬間だった」と、吉野代表は振り返る。のち2015年にクリーンプラネットが東北大学との共同研究部門「凝縮系核反応共同研究部門」を立ち上げると、「New Energy, New Future(新エネルギーの発明で、人類の未来を切り拓こう)」を合言葉に「岩村氏を三顧の礼で東北大学にお招きし」、岩村氏は特任教授に就任。凝縮系核反応を利用した次世代エネルギーの本格的な研究と実用化への挑戦が始まった。

世界の新エネルギー開発競争のなか、独自の発電方法を確立

これまで核融合は1億℃以上という超高温状態でしか起こらないとされてきたが、「凝縮系核反応」は特殊な環境下では常温〜数百℃程度で核融合が起こるという現象だ。未だ理論上完全には解明されていない一方、ガソリンの1000倍以上とされる膨大なエネルギー密度や、水素を燃料とする安価さ、資源制約がないことなどから「夢のようなエネルギー」として世界から注目されている。「核分裂」からエネルギーを発生させる原子力発電のように核廃棄物が出ることもなく、連鎖反応も起きないためメルトダウンのような暴走事故も発生しないという。

(エネルギー密度、出力密度ともにガソリンの1000倍以上をすでに達成しているという)

岩村特任教授らはこの凝縮系核反応から生まれるエネルギーを「量子水素エネルギー」と名付け、独自の発熱方法を確立。ナノスケールのニッケルや銅に軽水素を吸蔵させて一定の条件で刺激を加えることで凝縮系核反応を引き起こし発電させる、小型の発電機を開発した。すでに100ワットを発電できるデモ機が完成しており、年内には1キロワットが発電できるデモ機も完成予定だ。吉野代表は「デモ機は、これから事業をスケールするための一つの核となるモデル。これをもとに、将来的には100キロワット、1メガワットが発電できるものも作って、世界のエネルギー問題を一気に解決していきたい」と意気込む。

「量子水素エネルギー」を用いた発電機は、電気自動車への搭載やビル電源設備、都市の新たなエネルギーとしての導入など、現在あらゆる業界の企業と活用に向けた話が進んでいる。岩村特任教授は「車に搭載するなら振動に強いようなものが必要だし、ビル電源として導入するなら大きさよりも発電量が求められる。今はそうした(それぞれのニーズに合わせた)実用化のためのスタート段階にいる」と話す。

(耐久性実験機(左)と量子水素エネルギー・デヴァイス100Wモデル(右)ラボには 量子水素エネルギー・実験デヴァイスがひしめく)

「エネルギーの新旧交代で、人類の未来を創ろう」

凝縮系核反応による発電は、世界ではすでにGoogleやルノー、ビル・ゲイツ氏の財団など、欧米や中国を中心に75社以上の企業や団体が参画して開発競争を繰り広げている。その中でも吉野代表は「基本部分や制御、システムなどで8つの特許を取得済みで、日本以外の10カ国でも特許を取得しており、特許で世界をリードしている」と自信を見せる。

今後は東北大学との研究で確立した「量子水素エネルギー」による発電方法をもとに、この技術を製品に組み込み大量生産することで、新しいエネルギーの普及を目指す。「我々はこの技術を作ることだけでなく、普及させるのが目的。(発電機の)素子を製品に組み込んでもらえる企業と協力して大量生産し、社会インフラとして世界に普及させていく必要がある。このエネルギーで新しい社会インフラを実現したい会社や行政区画があれば、ぜひ気軽に声をかけてほしい」と、吉野代表。

(発熱反応中の実験デヴァイスの前で、誇らしげに未来型社会への夢を熱く語る吉野社長(右)と岩村教授(左)。「シリコンバレーのスタートアップベンチャーのような自由な雰囲気」だ)

その先に目指す壮大な目標は、火力発電や原子力発電をも代替しうる、世界の人々の生活を支えるベースロード電源としての普及だ。吉野代表は「限りある地球の資源は、人類最大の課題。日本の世界一の科学技術力を活用して、エネルギーの新旧交代で未来を創っていきたい」。岩村特任教授は「自分自身が思っていた以上に、結果は着実に出てきている。学術的にも核物理と物性物理が融合する新しい分野を開拓する、とても意義深い挑戦。日本のために、もっと言えば、人類のためにやりたい」と力強く語った。

連載:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。(毎週月曜日更新)

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