【齋藤敦子=ドイツ・ベルリン】70回目の記念の年を迎えたベルリン国際映画祭が2月20日に開幕しました。日本は新型コロナウィルスで大変なことになってますが、ドイツでは前日の19日、フランクフルト郊外のハーナウという町で、シーシャ(水煙草)を吸わせるバーがテロリストに襲われ、9人のトルコ系の移民、主としてクルド人が殺されるという事件が起きました。メルケル首相は直ちに地方出張を取りやめ、「人種差別は毒である」という声明を発表。ベルリン映画祭でも、オープニングセレモニーの前に、犠牲者と家族に1分間の黙祷が捧げられました。
開幕の直前に、映画祭の創設者アルフレッド・バウアーのナチス時代の活動歴が明らかになる事件があり、映画祭はこれに直ちに反応。彼の名前を冠した銀熊賞を取りやめ、代わりに70回記念銀熊賞とすると発表しました。悲惨なホロコーストを生んだ過去の過ちは、ここでは決して忘れてはならない、生きた歴史であるのです。
オープニング当日の午前中に、審査員の記者会見が行われましたが、冒頭、今年の審査員長ジェレミー・アイアンズから、性的虐待、同性婚、妊娠中絶に関する、自分の過去の発言について謝罪し、訂正する一幕がありました。これはアイアンズが審査員長に決まってから、メディアで取り上げられ問題になっていたことへの対応です。
公文書を破棄して過去をなかったことにする、謝ったのか謝らないのか分からないようなやり方で謝ったことにして反省しない。昨今の日本の政治家によく見られる曖昧な態度は、ここでは決して許されないのです。
今年はロカルノ映画祭のアーティスティック・ディレクターだったカルロ・チャトリアンが新アーティスティック・ディレクターに就任した1年目。新機軸は<エンカウンターズ>という部門ですが、既存の<パノラマ>、<フォーラム>という2つの部門とどうバランスをとっていくのかは、ラインアップを見ても、はっきりしません。また、昨年まで副会場に使われていたソニーセンターのシネスターが閉館したため、<フォーラム>と<パノラマ>がツォー駅周辺とアレキサンダー広場の映画館に追い出される形になりました。ソニーセンターが出来てから、ポツダム広場に集中してきた映画祭の地図が再び変わろうとしています。見る作品も増え、なんだか慌ただしい映画祭になってきました。