「防災ヒーロー」になろう!子どもが防災を楽しく学べるイベントを大学生が企画 仙台

瀬川まなみ】色づいた街路樹が冷たい風に揺れる秋の終わり。陸前陸前原ノ町駅を降りてすぐ、仙台市宮城野区中央市民センター(以下市民センター)で11月23日「防災ヒーロー募集中!」という子どもたちのための防災イベントが開催された。

震災を経験した大学生が「防災」を伝える

企画したのは、宮城教育大学(以下宮教大)社会教育実習生の3人。震災から10年、当時小学生だった彼らが、震災を知らない世代へ「防災」を伝えながら、教育実習の延長として、地域の多世代間の交流を目指すという思いがきっかけとなった。

今回のイベントは市民センターの子ども参画型社会創造支援事業「キッズもりあげ隊」の一環。これまでは宮城野区内の2校の小学生の有志が月に一回程度市民センターに集まり、夏祭りなどを企画してきた。新型コロナウイルスの影響で相次いで企画が中止となっていた中、今回が久しぶりのイベント開催となり、マスク越しにも子どもたちの楽しい雰囲気を感じ取ることができた。

防災ヒーロー目指し、ミッション始動!

子どもたちをサポートするのは、市民センター職員や学生ボランティアスタッフら多くの大人たち。そして大人たちと子どものちょうど間に入るのは、中高生のジュニアリーダーたちだ。防災ヘルメットを被った大学生たちの司会と、宮城野区中央市民センターの村上佳子館長のあいさつからイベントが始まった。

まず、参加者の子どもたちの緊張をほぐしたのはジュニアリーダーたちの手遊びゲームだった。ゲームの流れで自然と決まった活動グループは、あえて友達同士ではないメンバーに分かれ、さっそく「防災ヒーロー」を目指してのミッションが始まった。5人ほどの子どもたちの各グループにはジュニアリーダーか学生ボランティアが1人ずつ交ざり、ミッションクリアのためのサポートをしていく。子どもたちにとって、頼もしい先輩たちだ。

《Y字路防災ゲーム》ではいざという時、どちらの選択をするか選ぶゲーム。ただし、どちらを選んでも正解はない。例えば、『避難所にペットは連れて行ってもいいのかな』。YES、NOのカードを提示して、なぜ、選択したかを共有するというゲームである。この問題ではYESが多い印象だった。ペットOKの避難所もある。置いていった方が迷惑なのではないか。子どもたちは自分と違う答えの意見にも丁寧に耳を傾けて聞いていた。

次のミッションはスタート地点の和室から飛び出して、創作室、調理実習室でも展開された。各部屋で問題の書いてある封筒を探し、書いてあるミッションをクリアしていく。『創作室で工作中に地震が起こった。危険な場所を5か所見つけよう』。どの部屋も大変白熱していた。実際の部屋の中を目で見て、体を使って答えを見つけていく。

スペシャルゲスト・まさむね君登場も…

子どもたちが盛り上がっている中で突如現れた、スペシャルゲスト!仙台市消防局キャラクターまさむね君!子どもたちを応援に来てくれたようだったが、ミッション終盤の問題に集中していた子どもたちにあまり触れられずにいた…

いよいよラストミッションとなると、どのチームも外へと向かいだした。『市民センターで地震が発生した場合の避難先』。答えは『建物の外の広場』だからである。大学生もサポートの大人たちも、まさむね君も大集合し、無事全チームがミッションクリア、防災ヒーローと認定された。イベント後のキッズもりあげ隊の子どもたちからは「勉強になった」「楽しかった」との声が聞こえた。

震災を知らない世代に語り継ぐために

企画をした宮教大の大学生たちにとっては一週間ほどの短期間での準備だった。企画のきっかけについて学生たちは「震災を知らない世代にどうやって語り継いでいこうとなった時に、起きたことだけを伝えるのではなく、今後起きたときにどうしたらいいんだろうということを考えてほしいと思い、クイズやミッション形式の企画となりました」と語った。

Y字路防災ゲームなどの問題づくりでは、子どもたちの目線でいくつもの問題を準備した。中には子どもには判断が厳しい選択肢もあり今回はボツとした。難易度や子どもたちへの配慮があった。まずは楽しさが重視された。

福島、石巻、若林区出身という彼らに、あの日居た場所でどのような経験をしたのかまで、安易に問いかけられるものではない。当時小学生だった彼らが、目にした光景、子どもながらに震災を体験した彼らだからこそ生まれた『防災を通して地域の多世代間の交流を目指す』という思いは、今日のイベントを通して多くの人に伝わったに違いない。

「子どもも自分たちも学び合える」とやりがいを話してくれた3人の将来の道筋はばらばらだ。地元福島に戻り教師に、石巻出身の彼は障がい児童保育の道へ、若林区ジュニアリーダー出身の彼女は「もっと子どもたちの身近な場所で、行政と子どもたちをつなぐ架け橋になりたい」と語った。このイベントを通しての活動は、これからそれぞれの場所で教育の現場に飛び込んでいく彼らの原動力の1つになるのではないだろうか。

子どもたちのために1つの企画を形にする事に、多くの大人が、大学生が、ジュニアリーダーたちが力を出した。宮城県のジュニアリーダーの歴史は古く、その活動は50年の歴史がある。筆者も小学生の頃、ジュニアリーダーのイベントで夏休みに石巻の田代島に合宿に参加したことは未だに覚えている。20年前以上昔であるが、多賀城市のジュニアリーダーチームエステバンのピンクのはっぴは今も記憶に残っている。ここ宮城野区では、キッズもりあげ隊、ジュニアリーダー、学生ボランティア。この縦のつながりが今も受け継がれているのだ。

学びを、次へとつなげていく

防災士の資格を持つ榴ケ岡市民センターの大橋年男館長は、宮教大の学生たちに企画内の防災学習プラン作成の指導助言をされていた。その成果を身近で見守った大橋館長は「子供たちはこの経験を一生忘れない」「経験は宝物」と語る。

終わりの会の言葉には、大人たちの決意も感じられた。学び合いに終わりはない。村上館長は「震災後に建てられたこの市民センターで、当時まだ赤ちゃん、生まれていなかった世代の子どもが学ぶ。イベントをすることに意味がある。できるだけのことをしていきたい」と語った。

宮城野区中央市民センターは駅の目の前で、日ごろから多くの住民に利用されている施設となっている。自然に市民があつまるこの場所で、子どもたちの声が今日も響く。学区も学年も超えて仲間が見つかる。子どもたちにとって、学校以外の大切な居場所になるかもしれない。

市民センターという小さな範囲のイベントはTVで大きく取り上げられはしないが、たった半日のイベントに地元の人たちの情熱と学び、温かさが詰まっている。今後もさまざまな企画が進行されるであろう。ぜひお近くの市民センターのイベントもチェックして、体験してみてはいかがだろうか。

この記事はTOHOKU360と宮城野区中央市民センターとのコラボ事業「東北ニューススクールin宮城野」の参加者が執筆した記事です。宮城野区の市民活動を取材した参加者たちが、地域の課題に取り組む人々の活動や思いに迫ります。

*TOHOKU360で東北のニュースをフォローしよう
X(twitter)instagramfacebook

>TOHOKU360とは?

TOHOKU360とは?

TOHOKU360は、東北のいまをみんなで伝える住民参加型ニュースサイトです。東北6県各地に住む住民たちが自分の住む地域からニュースを発掘し、全国へ、世界へと発信します。

CTR IMG