東北から「誰もが宇宙で生活できる世界を創る」宇宙ベンチャーが誕生 ElevationSpace

【安藤歩美】「誰もが宇宙で生活できる世界を創る」ことを掲げ、東北大生が今年立ち上げたばかりの宇宙ベンチャーがある。東北大学大学院工学研究科修士2年の小林稜平さんは、小型衛星の開発実績を持つ同研究科の桒原聡文准教授とともに2021年、ElavationSpace社を設立。宇宙空間でさまざまな実験や製造ができる無人の小型衛星を開発することで、人々の宇宙生活への足がかりを作ろうとしている。

国際宇宙ステーションでの実験を、
無人の小型衛星で可能に

大学で建築学を学ぶ中で「宇宙建築」という分野に出会い、その壮大さに心を惹かれていったという小林さん。「誰もが宇宙で生活できる世界を創りたい」。そんな思いを膨らませて宇宙分野で起業することができないかと考えていたとき、最先端の宇宙ビジネスを紹介する東北大学のイベント「SPACE TECH ナイト」に参加し、登壇者だった桒原准教授と意気投合したという。一年ほど桒原准教授に相談しながら構想を練り、「宇宙での生活」を実現する第一歩として考えた事業が、実験や製造が可能な無人小型衛星の打ち上げだった。

「人が宇宙で生活するためには、さまざまな実証実験が必要になります。今は宇宙空間での実験は国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が行っていますが、宇宙ステーションの運用期限は間近に迫っている。それを置き換えるところにチャンスがあるのでは、と考えたんです」

ElevationSpace代表の小林稜平さん

小林さんの構想に、桒原准教授も自身の夢を重ねた。「40歳までに小型衛星で成果を出そうと思っていて、ちょうど次に何をしようかというタイミングでした。宇宙建築は学生のころから興味のある分野で、小林さんとだったら突拍子もないことができるんじゃないか?と感じたんです。残りの20年、25年の研究者人生をかけられるテーマなのではないか、と」

会社として取り組む具体的な挑戦と方向性が固まり、小型衛星の開発・運用に実績のある桒原准教授という強力なパートナーがCTOに就任する形で2021年2月、ElevationSpaceは始動した。

超人でなく「普通の人」が宇宙へ行く日に向けて

ElevationSpaceが2023年の打ち上げを目指して開発しているのは、重さ100kg級の小型の人工衛星「ELS-R」だ。無人の小型衛星を宇宙空間に飛ばし、その内部でさまざまな宇宙実験や無重力空間での製造を試すことができるサービスとして事業を展開しようとしている。

ELS-Rのイメージ図(同社提供)

国際宇宙ステーションでは、無重力状態での生物の反応や植物の生育、など、人が宇宙に行くために必要なあらゆる実験が行われている。同社はこうした実験や製造の環境を、無人の小型衛星を使うことで民間企業でも手軽に利用できるようにしていく考えだ。小林さんは「宇宙に行くこと」がもはや夢物語ではなくなっている今、宇宙空間でのサービスは急速に需要を増していくだろうと予測する。

「宇宙旅行は今年から本格的に始動していきます。これまでは宇宙飛行士という超人が宇宙へ行っていましたが、これからは一般人が普通に宇宙に行くようになる。すると、生活に必要なものを『宇宙用』に作っていく必要がある。例えば宇宙旅行用の化粧品や洗剤を開発する必要があり、今後これまで宇宙分野に関わってこなかったような一般の民間企業のニーズがますます増えてくるはずです」

同社は無人小型衛星という環境を、地球上では作れない材料を作ることや、宇宙でのエンターテイメント、科学教室のような教育分野にも開放し、さまざまな民間企業に向けて柔軟なサービスを展開していく予定だ。

小型衛星に搭載される部品

さらに小型衛星は宇宙で燃え尽きるようにするのではなく、地上の特定の場所に帰還させ、内部に積んだものを小型衛星ごと回収できるようにする構想だ。桒原准教授によると、無人小型衛星を特定の場所に正確に狙って着陸させることに成功した例はこれまでになく、技術面で大きな挑戦となる。

「まだ誰もやったことがないことなので、調べることや解決すべき点は多い。技術面はもちろんのこと、小型衛星が地上と宇宙とを行き来できるようにするための法整備も必要になってきます。ただこの技術が確立すれば『ものを宇宙に持って行き、地球に持って帰ってくる』という宇宙活動の根幹のサービスになるわけですから、そこからさらにさまざまな活動につながっていくはずです」

CTOを務める桒原聡文准教授

未知の世界に足を踏み入れ、人の活動圏を広げていきたい

同社は2021年6月には宇宙商社のSpaceBDと協業の覚書を締結。プレシードラウンドでベンチャーキャピタル、事業会社、個人エンジェル投資家の計8者を引受先として集め、3000万円を調達した。創業半年で累計調達額は4000万円に上る。

現在は急ピッチで「ELS-R」の開発を進め、2023年の打ち上げを目指す。宇宙実験のサービスは2025、6年ごろに提供を開始する計画だ。

小型衛星による宇宙実験の技術とビジネスが確立すれば、次は宇宙に人や物資を運ぶ輸送事業、宇宙ホテルの建設……と、人々の宇宙での生活をつくるさまざまな領域へ展開していく考えだ。小林さんは「宇宙に当たり前のように人が生活している世界を想像するとわくわくしますが、そこに取り組んでいる人は世界的に見てもまだまだ少なく、今がチャンスだと思っています。人が宇宙に住む時代はすぐに来るものなので、まだ誰も作っていない世界を自分の手で作っていきたい」と目を輝かせる。

桒原准教授も「ビジネスの世界で得た収入を研究費に投入して、新しいことを加速度的に研究開発して実現していきたい。地球にも宇宙にも人が住んでいる世界が、10年後、20年後には当たり前になっていると思います。そんな世界の最前線で実証していきたいし、未知の世界に足を踏み入れ、人類の活動圏を広げていきたい」と期待を膨らませる。

東北は宇宙産業のポテンシャルが大きい地域

会社の拠点を仙台に置くのには、小林さんの地域への思いも込められている。「秋田県出身で東北でずっと育ってきて、東北に恩返ししたい思いがあります。東北は東北大学の存在や東北大発の宇宙ベンチャーの存在はもちろん、JAXAが秋田や宮城にもあるなど、実は宇宙産業のポテンシャルが大きい地域だと思っています。一方でアピール下手でもありまだまだ盛り上がりに欠けるので、会社として東北に根ざしたところで事業をしていきたいし、東北の経済を活性化していきたいですね」

桒原准教授も「東北大学として一丸となって宇宙開発に取り組んでいくことができたら」と、思いを語る。「大学内には私たちが必要とするシーズをお持ちの先生方がたくさんいらっしゃる。東北大の先生方にぜひ私たちのことを知っていただき、工学、生命科学、農学、理学、など東北大学が分野横断的に一丸となって宇宙開発に取り組んでいくことができれば、すばらしいことだと思うんです」

2018年7月の「SPACE TECH ナイト」のようす。東北大学ではさまざまな宇宙関係のイベントが開催されており、東北大学の技術を生かした宇宙ベンチャー・ALEやiSpaceも大きな注目を集めている

東北から、宇宙開発を最前線で進めていこうとするElevationSpace。小林さんは「宇宙で何かやりたい企業の方や、最先端の宇宙開発をしたい方は気軽に連絡をしてほしい。エンジニアやビジネス面での人材も募集していく予定です」と呼びかけた。

【お知らせ】来週10月21日(木)18:30〜にオンラインで開かれる「東北大学スタートアップカフェ〜Space Tech Night〜」にて、ElevationSpaceの小林稜平代表と桒原聡文准教授が登壇。インフォステラ・CFOの岡田 典之さん、ALE・CFOの澤田靖仁さんとともに、「宇宙ベンチャー」の挑戦のいまを語ります。参加無料。詳細、申し込みは https://tusg-startup-cafe-1021.peatix.com/

東北大学スタートアップガレージコラボ企画:東北大発!イノベーション】2020年、世界大学ランキング日本版の一位になった東北大学。世界最先端の研究が進む東北大では今、その技術力を生かして学生や教職員が起業し、研究とビジネスの両輪で世界の課題解決に挑む動きが盛んになっています。地球温暖化、エネルギー問題、災害、紛争、少子高齢化社会…そんな地球規模の問題を解決すべく生まれた「東北大学発のイノベーション」と、大学に芽生えつつある起業文化を取材します。

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