コロナ禍のさなか目覚めた絵心 極彩色の作品たちから「ギャラリー&カフェ」の夢

【寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】国分雅美さん(64)。仙台市で2002年に「ちんどん みやび組」を結成し、伝統の大道芸「ちんどん」を音楽と笑いのエンタテイメントとして追求している人だ。ライブバーで働きながら活動を広め、今年秋には米国ニューヨークの街頭で「ちんどん」を披露する夢を膨らませていた。だが、コロナ禍で仕事の予定も渡米も白紙に…。そんな時に目覚めたのが、経験のなかった絵の創作衝動だ。「自然に湧いてくるように」描く極彩色の花々などのアクリル画は30点以上。近作が、「命のつながりと強さを伝えたい」という『コロナに負けるな』。「誰でも憩えるギャラリー&カフェを」という新しい夢が人生に加わった。

「ちんどん」を追求

同市青葉区の稲荷小路にあるバー「アコースティックライブ Want you」。4月25日の記事『震災を乗り越えた仙台のライブバー “コロナ廃業”危機に仲間が立つ』で紹介した上野清仁さん(68)の店だ。国分さんは週に3回、エプロンを掛けながらキーボードを弾き、上野さんのギターやバンド仲間と共に、お客さんの歌を伴奏している。

飯舘村住民を慰問した「ちんどん みやび組」の出前公演=2012年3月、福島市松川町(筆者撮影)

小さい頃に始めたクラシックピアノから、宮城学院女子短大時代に参加した東北大のロックバンド、劇団「ほうねん座」研究生を経て、自営の仕事の傍ら「みやび組」の活動を始めた。きっかけは、「笑い」を模索して「お花見会場に出掛け、『おてもやん』を踊って回った時、『あ、ちんどん屋をやりたい』とひらめいた」。東京・浅草や大阪で営業する本職を訪ね、パントマイムも勉強した。自分なりの創意を加え、「笑いと歌、音楽が融合したエンタテイメントにしたい」と追求してきた。

国分が考案する出し物は千変万化だ。ガマの油売り、南京玉すだれ、2役早変わり『金色夜叉』、歌い踊る『銀座カンカン娘』、軽快なタップの『エノケンのジャズ』、偽フランス語の『パリの空の下』、講談調の『1人語り 近松心中物語』…。

国分さんの2人早変わり「金色夜叉」=2012年3月の出前公演(筆者撮影)

ホテルでの忘年会や町内会のお楽しみ会、会社のクリスマス会、お祝い事の座敷など出前公演は年中大賑わいだった。東日本大震災では福島の仮設住宅へ慰問を行い、宮城野区文化センターを会場に念願のホール公演も実現させた。今年11月には「大道芸の本場、ニューヨークで夢の街頭パフォーマンスをやろう」と、旅行会社に企画を相談していたという。ところが…。

遠のいたニューヨーク行き

予期せぬ新型コロナウィルス禍で「3月から11月まであった出前公演の予定が、すべてキャンセルになった」。「Want you」も4月からほぼふた月の休業を余儀なくされ、とりわけ感染が広がったニューヨークでのパフォーマンスなど、数年は遠のいてしまった。

多くの人が日常の仕事や活動を休止させられたり、「巣ごもり」を強いられたりしたコロナ禍のさなか、国分さんは失意を抱えながらも、新たな創作衝動の波を感じていた。

国分さんの絵を筆者が初めて見たのは6月上旬。JR仙台駅東口の宮城野通にあるNAVISビル1階ロビーに、大小約20点が並んでいた。「ご縁のあるオーナーから第1、第3金曜に展示の場をお借りできた」といい、いきなり鮮やかな原色が目に飛び込んできた。

まぶしいほどのピンクを背景に、1輪の花が大胆に横たわる<パッション>。ある日、街に出て1本だけ、目に入ったピンクパッションの花を買ってきたといい、考えるよりも早く「大好きなピンクを塗っていた。『色』が私に塗らせているようだった」。

<コロナに負けるな>

 ピンクだけでなく、赤、オレンジ、白、紫の花々が「ゲラン(GUERLAIN)」の香水の瓶の中で、花畑のように生き生きと咲く<陽だまり>。背景の水色との対比がお洒落で心地よい音楽のように伝わってきた。

自宅の庭に咲いていたという<アジサイ>もあった。濃淡さまざまな青色の粒々が緑の葉を揺りかごにして夢見ているようだ。

「そんな絵心が自分にあるとは思わなかった」。絵筆を執ったきっかけは、在仙の画家、佐藤皇季さんとの出会いだった。奥さんと国分さんは親しく、紹介されて1年前の夏にアトリエを訪ねた。「“無償の愛”にも感じる作品たちに魅せられていると、先生から『あなたも描いてみたらいいよ』『気持ちよく描けばいいんですよ』と勧められた」

「ちんどん」の活動に使った自作の絵はあるが、佐藤さんのアドバイスをもらってから、新しい目で周りを眺められるようになったという。昨年10月にアクリル絵具で描いた最初の作品<ひかり>は、小さな絵だが、「花畑に、光が落ちていて、『幸せだよ、元気だよ』と語り掛けているのが聞こえた。それを描いた」。

暗い宇宙の真ん中で地球が回り、その上で、手をつなぐ男女や動物たち、鳥や虫、サクラや緑の木、花々が輪をつくり生命を謳歌している。そんな風に見える童話のような絵があった。今年6月に描いた<コロナに負けない>。

絵には「ちんどん」の一座がおり、大きな口で笑う人たちもいる。いま世界は暗い禍の下にあるけれど、自然は変わらず美しい季節を生み、さまざまな生命が互いを支えあっている。「コロナに分断されるのでなく、世界がつながって、一緒に笑って、コロナをやっつけよう」と、国分さんは絵に込めたメッセージを語った。

「色」が降ってくる

国分さんは、JR仙山線国見駅近くにある自宅の2階をアトリエにしている。窓の下には庭があり、さまざまな草花から日々、絵のヒントをもらうという。『ウィンディーレディ』『サーカスタウン』『ダウンタウン』…。大好きな山下達郎の初期のメロディーを流しながら、日曜は一日中、絵と向き合う。平日だと夜中に2時間くらい集中して。

下絵を画かず、いきなり「色」が国分さんに降ってくる。達郎の歌に乗るように「色」がひとりでに氾濫していく。そのたび、なぜか「どっかーん」という叫びが口をつく。アトリエの机の上には新しい作品、南国のグリーンの海に浮かぶ船の絵があった。

庭に面した階下の部屋には、これまで描いた絵を並べている。まるで庭と一続きの花畑のようなにぎやかさだ。知人から気に入ってもらい売れた絵がもう何点かあり、また注文も舞い込むようになった。

国分さんが見せてくれたのは、手のひらより大きいサイズの絵が2枚。その1枚には赤いピアノ、もう1枚には、花と植物と一つになった鍵盤が描かれ、どちらの画面にも英語の文字が流れている。

「友人でピアノを勉強中の女性が、懐かしいデュエット曲『Endless Love』が大好きで、その歌詞を絵に散りばめてみた。“Want you”に持参して彼女に見てもらったら、とても気に入ってくれた。その晩、お店のライブに出たベーシストから『僕にも書いてよ』と頼まれ、次はベースの絵を考えている」

誰かを元気にしたい

木や花の飾り文字の「国見の杜の陽まわりギャラリー マサミ」という看板もあった。「ニューヨーク行きは、コロナ禍が収まるまで何年掛かるか…。だけど、もっと早く、来年にでも実現したい新しい夢ができた。その看板がこれなの」と国分さん。

「この部屋を私のギャラリーにして、隣のリビングをカフェにしたい。コロナのためにみんな、楽しみの外出を控えたり、好きな時に集まれなかったり。だから、真ん中に<コロナに負けるな>をどんと置いて、絵と草花とお茶で憩える場所をつくりたい」

ギャラリー&カフェづくりの一環として、道路に面したガレージの扉に絵を描こうと、手伝ってくれる友人を募っている。

コロナ禍に先送りされた夢も、奪われた夢も、突然、降ってくる夢もある。先生と仰ぐ佐藤皇季さんの勧めで、11月17~22日、青葉区国分町の「ギャラリー専」で個展も開くことになった。「『ちんどん』もそうだけど、私には、誰かを元気にしたい、という役目があるみたい。ニューヨークの街角に私の絵をたくさん飾って、その前でパフォーマンスをしてみたい」

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