8月の出来事。車に乗っていて道を間違え、軌道修正しようと入り込んだ横道で、奇妙な形をした植木に遭遇した。背丈は2m半ぐらいだろうか、大きく茂ったその植木は、緑のお腹の部分にオレンジ色の反射板を抱え込むように、歩道と車道の境目に立っていて、巨大な生き物のようにも見えた。【渡邊真子/東北ニューススクール】
そこは仙台市若林区白萩町にある交差する2本の一方通行の道路。それぞれの道の両脇には、大体同じ数ずつ反射板とともに木が植えられている。大きさはまちまちで、ほとんどは人の背の高さぐらい。中には1mに満たないものもある。その中で、ずば抜けて目立つのが、変わった形に刈り込まれた2つの植木だ。初めて目にした時、どうしてこの2つだけが大きくて特殊な形をしているのだろう?行政が剪定しているのだろうか?と疑問に思った。その謎を探るべく、私は9月のお彼岸にもう一度、今度は自転車に乗ってそのグリーン・モンスターに会いにでかけた。
住民が支えた白萩町の道路環境
近所の方と思しき道行く人に聞き込みを始め、ようやく植木の刈り込みをしているという人物にたどり着いた。廣田鋭機(ひろたえいき)さん(73)。1歳半の頃から白萩町にお住まいの、いわば町内の生き字引のような存在だ。
現在の陸上自衛隊苦竹駐屯地にあった軍需工場の要員収容の為に、昭和16年(1941年)、今の白萩町の母体となる宮城野住宅営団(465戸)が建設された。幸いにもこの住宅営団は仙台大空襲の難を逃れ、その後、町内の近代化推進工事は、他地域に先駆けて行われた。それは、単に立地の良さや恵まれた環境であっただけでなく、町内会の活発な働きが大いに物を言ったという。
例えばこうだ。交差点など注意を引きたい箇所は赤くする。つまづかないように歩道は平らなままカラーブロックで車道と色分けをする。道の両脇に反射板と桧葉(ヒバ)の木をセットで設置し、道をジグザグにして車のスピードダウンを促す等々。これらの白萩町内会での意見や要望が多いに反映された街路計画をもとに、道路整備がなされた。
モデルはトトロだった!
桧葉の植木の手入れは、当時の役所との取り決めで町内会の役割となっており、それぞれ担当が決まっている。廣田さんは数本の木のメンテナンスを年2回行っているが、ある時、自宅近くの2本の木にだけ肥料を与えたところ、みるみる巨大化した。そして、そのひとつの大きな桧葉のてっぺんに耳のような形をつけ、生き物みたいな形に整えた。デザインイメージは、国民的アニメ映画「となりのトトロ」の大トトロ。
近所に住む、現在10歳の孫の男の子がまだ3~4歳だった頃、廣田さんは向かいの国分尼寺の敷地内にある大きな欅の木を、孫と一緒によく訪れたという。目的は、トトロに会うため。しかし、待てど暮らせどトトロは現れず、「おじいちゃん、トトロ呼んできて」と言う孫のリクエストに応えるべく、自宅前の植木をトトロに見立てたというのだ。それが、奇妙なルックスのグリーン・モンスターの由来。
地元のテレビ局も以前取材に押しかけたようで、既にちょっとした名物植木となっていたらしい。町内の住民が安心安全に暮らすために工夫を凝らした道路に、家族思いの廣田さんが、可愛い孫のためにトトロ風にアレンジした植木を作った。それが謎の真相だった。ちなみに、大トトロ風の北側後方にあるのが「小トトロ」で、そのさらに後方にある小さい植木2つは、形こそ丸くはないが「まっくろくろすけ」をイメージしているとのこと。
廣田さんは、現在10ヶ月の女の子の孫のデジカメ画像を私に見せながら、「この娘が大きくなれば、あれはトトロでなくなっちゃうと思うんだけどね。この娘が幼稚園に通う頃までは、手入れしてあげようかなぁって思ってるわけです」と話す。
もうしばらくは、このトトロみたいなグリーン・モンスターの姿を楽しめそうだ。