福島県沖地震、またも最大震度の相馬市で再々起へ踏ん張る浜の宿「海游の宿 はくさん」

寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】東日本大震災から12年目の3月11日の後、間もなくの16日深夜、東北南部を揺らした福島県沖地震。昨年2月13日にあった福島県沖地震から1年余りで、同じ「6強」の最大震度を刻んだのが相馬市では、多くの家々に被害が出た。2年前の11月、大震災から復活オープンしたばかりの松川浦のホテルも、昨年に続いて宿泊を休んでの修理準備に追われる。本格カフェや女性向けのランチ、海の眺望の良さで人気の宿。予約の問い合わせは絶えず、現在はランチ営業のみだが、「応援してくれるお客さんのために一日も早く再開したい」と宿主は前を向く。

ブルーシートが連なる家々

3月末に訪ねたのは、日本百景の松川浦に面した相馬市岩子(いわのこ)の「海游の宿 はくさん」。16日の大地震を夢にも思わず、この取材を予定していた。「震災の後、観光客が戻らない松川浦で、コロナ禍にもめげずにオープンしたホテルが評判を呼んでいる」と、筆者の郷里である相馬の知人から聞き、代表の坂脇忠雄さん(68)の了解を得ていた。

大震災から10年目に復活オープンした「はくさん」=相馬市岩子=2022年3月27日

市内の国道6号から岩子地区へ向かう道沿いには古い木造の家並が続く。その大半が瓦屋根を地震の揺れで破損し、雨除けのブルーシートを連ねていた。岩子漁港を過ぎると、文字島などの小島を浮かべた松川浦を望む高台に、白い瀟洒な3階建てに緑の屋根の「はくさん」が見えた。それまでの浜の旅館のイメージを破るような、リゾートホテルの外観だ。見る限りでは窓ガラスの破損もなく、地震の被害は皆無のようにも思えた。ところが…。

新しい頑丈な建物だが、フロントで迎えた坂脇さんの背後の壁には、ひび割れ個所を示す白いテープの「×」がいくつもあった。当夜の地震は大きな揺れが2度あり、「2度目の被害がひどかった」。階段の壁沿いに続く「×」印を見ながら、3階に案内してもらった。

ホテル内にも地震の被害相次ぐ

カフェには海に開けた90センチの出窓が連なり、松川浦から太平洋の絶景が開ける。「ランチと食後のカフェ、そして日帰り入浴をゆっくり楽しむ女性客が多く、うちのお客さんの8割を占める」と坂脇さん。しかし、自慢のスィーツの工房にも地震の被害があった。「蒸気を使うコンベクション(対流式)オーブンから水がすごい勢いで噴き出し、あたりが水浸しになった。ショーケースの中のガラスも割れ、お客さんが見たら、がっかりだろう」

「鯛」「鮪」「鰤」「鮃」など、魚の名を付けた2、3階の客室は無事だが、水漏れの影響で布団を干している部屋もあった。坂脇さんが次に見せてくれたのが浴場だった。やはり大窓いっぱいに海が広がる大浴場の一つで、浴槽の水位が下がっており、「どこか水漏れしているようだ」。昨年3月の大地震の際も浴場の水漏れ、タイルの破損があり、修理に3カ月を要したという。「今回はもっとひどい。なんで相馬ばかりがこんな被災をするのか」

地震の被害が大きいとみられる大浴場

震災から10年目、念願の復活オープン

「はくさん」の前身は、先代の父親が1980(昭和55)年に開業した白山荘という民宿。坂脇さんが21年後、「みんなが民宿を旅館に、旅館をホテルに、という時代だった」という流れに乗って旅館に業態を広げ、松川浦での潮干狩りや釣りの客でにぎわった。が、東日本大震災の津波で岩子の旅館、民宿は軒並み全壊。坂脇さん一家は仮設住宅で過ごした。

地元の同業者たちが廃業する中で、妻米子さん(66)と思案した坂脇さんは、再開を諦められず、県立公園内の開発、建築制限の難しい条件下で行政と交渉を続けた。民間の復興事業費を後押しする国の補助金制度を活用し、念願が叶って再開できたのは震災から10年目の一昨年10月25日。「地元になかった新しいホテルの発想を娘たちからもらった」と語る。

再開へ踏ん張る家族。(左から)坂脇さん、米子さん、鈴木さん、遠藤さん

まず玄関でスリッパに履き替えずに靴のままで利用でき、いつも女性客が集うようなハイセンスな食事と宿泊の場だった。次女の正子さんが自らプロデュースした「カフェ スマイル」がその一つ。それだけでなく、坂脇さんと厨房の料理長を除いて12人が女性というスタッフが開業までの間、福島市など他の街のホテルなどを視察し、アイデアを持ち寄った。 

人気の「カフェ スマイル 」も修理に備え休業中

お客の応援に、心づくしのランチ

「まだ修理業者の見積もり、工程表をもらっていないが、宿泊にも日帰りにも一番肝心なお風呂の水漏れの原因を究明しなくてはならず、再開は5月の連休には無理」と坂脇さん。それでも、予約の問い合わせは絶えない。「地元だけでなく、福島市や宮城県の南部、仙台までお客さんができた。最初は予約を断ったが、せめて食事だけでも、という団体さんが相次ぎ、急いで厨房の水道設備を直し、大広間の一角をランチ会場にして食べてもらっている」

一番人気の海鮮ランチを、筆者も取材の一環でお願いしていた。テーブルに運んでくれたのは、長女でホテルの仕事全般を担う遠藤以津子さん(39)。薄緑の海の色のお盆に海の幸が浮かぶように、可憐な美しさの器に料理が盛られている。たっぷりの海鮮丼、茶碗蒸し、マグロと山芋、卵の和え物、タラフライのタルタルソース添え、サラダ、香の物、フルーツ。食後にシャーベットが加わる。これで1500円。被災しながらも精いっぱいの心づくしを感じた。

女性スタッフが知恵を集めたランチ

「女性たちが目を喜ばせ、いろんな味を楽しめ、値段もリーズナブルなランチを―。作り手でもある女性スタッフが意見を出し合い、料理に合った器を福島の専門店に行って吟味し、お客さんの声も取り入れています」。取りまとめ役になってきた以津子さんは語る。

再開は7月になるかも、と坂脇さんは言う。「それでも、家族の祝い膳の席や、来年の正月まで宿泊の予約をもらい、お客さんたちは応援してくれる。震災から10年目に『はくさん』を開業でき、去年の地震を乗り越えられたのも、お客さんのおかげ。それを励みに、相馬野馬追の行列の掛け声のように『参れ、参れ』と、家族とスタッフ全員で前に進みたい」。相馬の浜の観光復興も懸かっている。

〈ランチ営業などの情報は、海游の宿 はくさん | Facebook参照〉

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