【文・写真/佐々木佳=宮城県仙台市】秋は修学旅行シーズン。仙台市は東北各地の小学校が行き先としており、ベニーランドや動物公園などに思い出のある方も少なくないはずだ。最近では授業の一環で、子どもたちが仙台の人に向けてふるさとのPR活動を行うことも多いという。その中の1つ、青森県むつ市立第二田名部(たなぶ)小学校の子どもたちによる手作り観光パンフレットが、大人たちの心を撃ち抜いた。
「コロッケうまい!」直球勝負のふるさと自慢
大震災の教訓を今に伝える仙台市若林区荒井のせんだい3・11メモリアル交流館。そこで働く田澤紘子さん(36)に9月12日、修学旅行で同館を訪れていた小学生がソワソワした様子で話しかけてきた。
「これ、もらってくれませんか!」と渡されたのは、子どもたちのふるさと、青森県むつ市を紹介する手作りの「パンフレット」だった。
表紙には大胆な構図の下北半島。めくるといきなり、シンプルで素朴な絵たちとともに
「コロッケうまい!」
「うまいコロッケ!」
「カレーうまい!」
…と、ストレートなメッセージが飛び込んでくる。田澤さんの胸を一瞬で射抜いた。
「え?コロッケ、本当に美味しいの?」「どうしてそんなに推すの?」
田澤さんは次々と子どもたちに質問をし、子どもたちはそれに丁寧に答えてくれた。田澤さんは訪れたことのないというむつ市の話題で大いに盛り上がった。
パンフレットを作ったのは、第二田名部小の6年生71人。総合学習の一環として班ごとに作り、訪れた先で出会った人たちに手渡していた。
田澤さんが受け取ったのは「5班」の作品で、男女3人ずつのグループ。1人1ページずつ担当したらしく「コロッケうまい!」のページ以外も、それぞれ一生懸命にむつ市の良いところを考え、工夫してわかりやすく伝えようとしていることがわかる。
「きれいな字と写真では決して伝わらない、大人になると失われる『パッション』を感じます」と田澤さんは絶賛する。印刷のかすれているところを鉛筆でなぞった痕も、「頑張ったんだなぁ」と心をくすぐった。パンフレットを受け取った他の職員とともに、皆で微笑ましい気持ちになったという。
田澤さんはこうも話す。「これくらいの歳で、ふるさとの名前を背負って堂々とアピールができるのはすごいことだと思います。ジーンときました」。
山形県の小さな温泉町で生まれ育った田澤さん。修学旅行の行き先は仙台だった。あまりにも違う街の大きさと活気に驚き「自分の町なんて…」と、地元を卑下してしまったことを覚えている。それだけに、仙台で堂々とむつ市の魅力を全力でアピールする子どもたちの姿に、なおさら胸を打たれるものがあった。
一生懸命な子どもたち、温かく見守って
むつ市教育委員会によると、仙台方面は市内に13ある小学校のうち11校の修学旅行の行き先となっている。市教委学校教育課の中居春雄統括主幹は「子どもたちにとって、知らない土地で大人にパンフレットを渡すのはとても勇気のいること。一生懸命な姿をほめてあげてほしい。そして、ぜひむつ市にも遊びに来てくださいね」とメッセージを寄せた。
修学旅行のシーズンはもうしばらく続く。仙台以外でも、知らない土地で奮闘する東北の子どもたちの姿が見られるはずだ。その時には、ぜひ温かく見守っていただきたい。そして、もし話しかけられたら優しく接してみよう。第二田名部小の手づくりパンフレットのような、ステキなお土産をちょっとだけ期待しつつ…。