【続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何？
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。（書籍化しました！）
【佐藤和文】60代の半ば近くになって手にしたアルトサックス（ヤマハ）は、とにかく息を吹き込むだけで音が出たので、リズム楽器（ドラム、ギター）しかやったことのない自分でも、何とかなるかもしれないと感じさせたものです。当然のことながらそうした第一印象は勘違いで、ほぼ10年を過ぎた今でも、確信音（？）を手にすることができずに日々、じたばたしています。
自分がどんな音を出しているかを知るには、自分で録音して聴き直す以外に方法はありません。録音した自分の音を自分の耳で聴いて確認する行為はほとんど拷問に近いので、できれば避けたいものです。筆者の場合、１年前に日本製のヤマハからフランス製のセルマーに持ち替えました。音色的にはいかにもジャズっぽいので気に入っていますが、演奏途中で硬い音質になって、味わいもへったくれもなくなる癖がどうしても抜けません。要するにマウスピースのくわえ方に難があるらしいのです。意識していても、なかなか改善されないのでどうすればいいか。
「自分の音」を見つける道のりはかなり遠そうだなあ、と思っていたところに、先日、サックス奏者名雪祥代さんの教室の「レッスン生によるガチンコ発表会」がありました。15人の門下生が思い思いの曲を演奏しました。ピアノ江浪純子さん、ベース岩谷眞さん、ドラム鈴木駿也さん、サックス名雪さんがバッキング。2013年10月に名雪さんの最初のレッスンを受けて以来、10年強もの間、筆者も弟子のはしくれです。リハーサルから参加しました。本場前のリハーサルも含めて、名雪門下の他の生徒さんの音を長時間聴いたのは初めてのことです。同じ師匠に習っているとは言っても、日程や時間帯が異なるので、初めての人がほとんど。顔見知りでも、あまり踏み込んだ話をしたことはありません。
発表会である以上、出来栄えが気にならない人はいないはずですが、同門の人たちの演奏を前にして、特に印象的だったのが、他の生徒さんのサックスの音が実に個性的なことでした。メーカーや楽器の特性によって音色が異なることもありますが、同じ楽器でも、生徒さんの出す音色は一つとして同じものはありません。音作りのしっかりしたプロ級の人もいて、見事でしたが、筆者にとって感動ものだったのが、一人ひとりのたたずまいや表情、そして多様な音色でした。
発表会にのぞむ場合、課題曲を自分で決めて師匠のアドバイスを受けながら演奏の中身を決めます。ある生徒さんは、リハーサルではうまくいかず、何度も止まったのに、本番では見事に最後までつながりました。その瞬間に浮かべた表情は、同じジャズ音楽に親しむ一人として一生忘れられないでしょう。自分の音も他人に聴いてもらうのはどうかなあ思うことも多いのですが、サックスの音色はその瞬間瞬間に演奏する人の人生を映し出しているのではないか。ジャズ音楽の世界は、演奏者の身振りや表情、たたずまいのすべてを繰り出して表現している世界なのではないか。修業中の身としては、その瞬間、瞬間を積み上げる以外に、次の目標は見えてこない。そんな感じがします。
＜名雪さんのコメント＞
発表会は生徒さんおひとりおひとりの人生を映し出しているような時間でした。その大切な時間に音楽を通じて自分がかかわれるとしたらこれ以上の喜びはありません。
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