【続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!)
【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】一般のリスナーが生のジャズ音楽に触れる機会としては、まずライブやコンサートがあげられるでしょう。が、ここでは普通のリスナーにはあまり馴染みのない、いわゆる「ジャムセッション」の場を訪ねることをおすすめします。ジャムセッションをもっぱら演奏者のための機会と位置ける考え方からは、やや唐突に感じるかもしれませんが、筆者の個人的な経験からすると、ジャムセッションの現場に居合わせて初めて接することのできるサウンドや風景自体が、ジャズ音楽の魅力を物語るような気がします。ジャズリスナーとジャズの現場をつなぐ仕掛けとして、より楽しく、意味ある形に再デザインしてはどうでしょうか。
「ジャムセッション」とは、ミュージシャン、つまり演奏する側が集まって自在に演奏し、腕をみがくことです。ジャズ発祥の米国では、ジャズバーやクラブなどに出演する演奏家たちが仕事を終えた後、ジャムセッションをやっている店に集まり、即興演奏中心に競い合ったといわれます。ジャズを聴き始め、歴史をかじるようになると、まずインプットされるエピソードといってもいいでしょう。「ジャム(jam)」とはいろんなものが雑多に存在するイメージ。演奏する側の個性を何よりも重視する音楽という意味で、いかにもジャズの雰囲気を示す言葉のような気がします。
ジャズの歴史を理解するうえで重要なジャムセッションを一例だけ上げればジャズギタリスト、チャーリー・クリスチャン(1916年7月29日 – 1942年3月2日)の演奏をとらえた「ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン(after hours MONROE’S HARLEM MINTONS)」(1941年)があります。このアルバムでは全盛期のクリスチャンをはじめ、ディジー・ガレスピー(トランペット)やウイントン・ケリー(ピアノ)など、モダンジャズの基礎を作ったレジェンドたちの即興演奏が記録されています。歴史的な価値も重要ですが、即興演奏をしっかりとらえているので、ジャムセッションの雰囲気を知るには格好の一枚です。
歴史的な名盤なので全体のバランスの点では録音に難があり、ジャズ音楽を聴き始めたばかりの人や、高性能のイヤフォン、ヘッドフォンで聴いている人には物足りないかもしれません。ジャズ音楽とはなんととっつきにくいものかと感じる人も多いでしょうか。そんな印象を持った人にぜひおすすめしたいのが身近なライブハウスやジャズバーなどで開かれるジャムセッションです。
たとえば仙台市青葉区国分町にあるジャズバー「MOND BONGO(モンドボンゴ)で週1のジャムセッションを運営しているドラマー、今村陽太郎さんは「ジャムセッションは単に自分が演奏するだけでなく、他のミュージシャンの演奏を聴く場でもあります。ミュージシャンだけでなく、そこに来た人に何が起きるのかを感じてほしい。ジャズ音楽は単に機械と演奏するのではなく、人と演奏することに意味があります」と強調します。
ジャムセッションには、その場の流儀のようなものがあります。その日、セッションに参加する人の選曲がどのように行われるのか、セッション参加者の希望をホスト側がどう調整するか、演奏する人は自分の楽譜を準備すべきか、演奏する場合、楽譜を見てもいいか-などです。
今村さんに「楽譜問題」を聞いてみました。「自分がチャレンジしたいと思う曲なら楽譜から目を離しても演奏できるようにする必要があります。一緒に演奏してくれる他のプレイヤーの音に耳を集中し、感じてほしい。視覚情報に頼ると、どうしても音への集中が邪魔されてしまいます。その結果、楽譜がないと演奏できないのでは、いつまでたってもジャズにはなりません」
冒頭、説明したようにジャムセッションはどちらかと言えばミュージシャン同士が腕を競う場です。店によってジャムセッションの運営スタイルはさまざまですが、多くの場合、プロやプロ志向の強いミュージシャンが即興演奏を通じて、互いに刺激を与え合う機会となっています。まだ修業中の人でも、自分が得意な曲を携えて腕試しすることが可能です。一人で行っても大丈夫。ジャムセッションの場を運営する「ホストミュージシャン」が一緒に演奏してくれます。
ジャムセッションの場は、何よりも、今、わたしたちの暮らしと同時進行しているジャズの現場でもあります。ジャズ音楽に興味はあるけれど自分で楽器を演奏できるわけではないという人にとっても、ジャズの即興演奏が実際、どのように行われているのかを、舞台裏から眺める感じといっていいでしょう。ネットやCD、レコードなどで聴くジャズと、ライブやコンサートで楽しむジャズのちょうど中間に位置するのがジャムセッションといっていいでしょう。
ジャムセッションのスタイルはさまざまあり、必ずしも一般のリスナー向けとは意識していないケースもあります。そのせいか、ほとんどのジャズファンには未開の場といっていいでしょう。実際、筆者のジャズ聴きは50年近くに及びますが、ジャムセッションの場を時折、訪問するようになったのはここ数年のこと。60過ぎてからアルトサックスを下手の横好き的に始めたのがきっかけでした。
正直言ってジャムセッションの現場は馴染みのない人にとっては敷居がいかにも高い。ジャズセッションのみならずジャズライブの会場となるジャズバーやライブハウスの店構えは、音漏れ防止の厚いドアをはじめ、重厚な構えであることが普通なので、慣れない人はドアを押して顔を出すには勇気がいるのも現実です。聴くだけのファンにとっては無縁の場所とずっと思っていましたが、ネットを含めてジャムセッションの情報が種々、目に入るようになると、ジャムセッションの運営にはいろいろなケースがあり、初めから一般のリスナーや「演奏しない人」向けに料金を設定してあるケースもあることが分かってきます。
繰り返しますが、運営者の考え方によってジャムセッションの運び方には違いがあります。事前に主催者に問い合わせするなどして雰囲気を確認するのがいいかもしれません。
【この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。
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