東京国際映画祭2023の見どころは?市山尚三PDに聞きました(後編)

東京国際映画祭2023が10月23日、開幕しました。TOHOKU360に国内外の映画祭レポートを寄稿してくれている字幕翻訳家・映画評論家の齋藤敦子さんが、市山尚三プログラミング・ディレクター(PD)に今年の見どころや特徴をインタビューしました。

前編はこちら

デジタルリマスター版『尼僧の恋』

――ゼフィレッリ特集は持ち込みでしたね?

市山:ゼフィレッリは30年前にTIFFで『青い凧』が東京グランプリを獲ったときの審査員長なんです。そのときに今回上映する『尼僧の恋』が特別招待作品で上映されました。当時はヘラルドが配給しましたけど。チネチッタから、ゼフィレッリの生誕100年にあたってデジタルリマスター版が出来たので、やってくれということで。

――華やかになっていいですね。

市山:こういう映画を好きな人はいますし。今のイタリア映画にない派手な感じがありますからね。『青い凧』に賞を出してくれた功労者として。

――そういえば田壮壮はどうしてます?

市山:田壮壮は、一昨年撮った映画が完全に塩漬け状態です。で、役者として映画に出てました。

――今年、体制が変わったから出てくるのでは?

市山:僕もそのことを中国の人たちに聞いたんだけど、プロデューサーがあまり経験のない人なんで、それでまだ止まっているのかもしれないというようなことを言ってました。

――そこまで機敏に動いてない?

市山:クランクインの前に田壮壮に上海で会って話を聞いたら、メチャクチャ面白いんです。アー・チョン(阿城)という作家の小説に「王」が題名に入る連作があります。チェン・カイコーが映画化した『子供たちの王様』とイム・ホーが映画化した『棋王』と、もう1作『樹王』というのがあって、その映画化で、バリバリの文革ものなんです。コロナ前にインして、撮影は終わっているんだけど、ポスプロの途中で止まってるんです。それで俳優をやっている(笑)。『白搭の光』という作品で、北京映画祭で男優賞を受賞しました。

香港映画の特集

――アジアン・シネラマ・香港フォーカスというのは?

市山:アジアン・シネラマというのは、「アジアンフィルムアワード」というアジアのアカデミー賞を主催している香港の組織があって、そこの提供で香港映画の特集を。

――マスタークラスでトニー・レオンが来る。

市山:それも全部向こうでおぜん立てしてもらいました。

――今年は賑やかだなと思ったら、特集を除けば、実質去年とそんなに変わらないですね。

市山:まったく変わらないです。

――市山さんのお薦め、フレデリック・ワイズマンの『メニュー・プレジール』とラヴ・ディアスの『湖の紛れもなき事実』は別格として、他に市山さんが選んだなかで、『愛は銃』というのは?

市山:これは僕が選んだ後にヴェネツィアで新人監督賞を獲った作品です。

――香港映画?

市山:香港の出資が入っているだけで、完全に台湾映画です。監督のリー・ホンチーはチャン・ツォーチのレギュラー俳優なんです。チャン・ツォーチはセクハラ疑惑で逮捕されてからやや不振ですが、チャン・ツォーチのいいところをこの人が全部もっていった感があります。

ヴェネツィアで新人監督賞『愛は銃』

――スチル写真にチャン・ツォーチ風の雰囲気が出てますね。台湾の潮気のある空気感というか。

市山:母親がギャンブル狂で家族が崩壊しててと、完全にチャン・ツォーチの映画の世界なんです。ヴェネツィアで新人監督賞をとってよかったです。

――ラヴ・ディアスとスチル写真がよく似ているフィリピンの『漁師』は?

市山:前にTIFFで『マニャニータ』という作品が上映されたポール・ソリアーノという監督の映画で、フィルメックスでも彼のプロデュース作品をやったことがあるんで、前からの知り合いです。フィリピン映画では『野獣のゴスペル』の方が強烈なんで、そっちをコンペにしたんですが、これはこれで変わっていて面白いです。海辺に住んでる漁師が主人公で、不漁で困っているときに、漂流している中国人の男を助ける。すると、その男が魚を呼び寄せる力があって、いきなり漁がうまくいくようになるんだけど、漁師の娘が妊娠してて、中国人を問い詰めると、性的な関係はしていないと否定するんだけど、なぜか娘のお腹がどんどん大きくなっていくという、かなりファンタジーな映画です。

――ちょっとキム・ギドクの映画みたいですね。

市山:ああいうグロテスクな感じではないです。ファンタジーで自然との共生を模索する、みたいな、変わった映画ではあります。

――中国の『耳をかたむけて』というのは?

市山:これは上海映画祭で見た映画なんですが、監督のリュウ・ジャインは『オクスハイドⅡ』という、家族3人で撮った、ものすごくインディペンデントな映画を作った人で、大阪アジアン映画祭で上映されたことがあるんですが、彼女が14年ぶりに、いきなり有名スターを使って撮った新作です。

――『鵞鳥湖の夜』のフー・ゴーは、すごく有名なアイドルスターですよね。

市山:そうなんです。ただ内容がすごく地味で、上海映画祭で監督賞を獲ったんですが、日本で配給される機会は難しいかもしれません。

ダンテの若き日を描いた『ダンテ』

――わざと配給が難しそうな映画を集めたんですか?

市山:別にそういう理由でもないんだけど、なるべく決まってないものを集めました。配給が決まっている映画はガラでもいいですし。

――プピ・アヴァティの『ダンテ』は配給できそうですが。

市山:ダンテの若き日という映画で、これも実はイタリア・チネチッタ提供なんです。今年、イタリアと日本が合作協定を結んだので、マーケットにイタリアのプロデューサーが沢山くるんです。そのつながりで、最初にゼフィレッリ特集の話があり、更にプピ・アヴァティが来日するんで彼の映画を、という話があった。最近の作品を何本か見せてもらったら、『ダンテ』が面白かったんで決めたんです。ダンテはフィレンツェを追放されたんだけど、死後に赦免になり、修道院にいる娘に賠償金を渡すために詩人のボッカチオが旅をする。その旅の間にダンテを知る人と出会い、ダンテの若き日々が回想で描かれるというものです。黒死病の時代なので、派手なイタリアではないですが。

――暗いんですね。でも、観客は見込めそうですね。

市山:ダンテとボッカチオで興味をひかれる人はいると思います。

ドキュメンタリーだけど芝居してる?

――続いてルオ・ドン監督の『メイ』ですが。

市山:これも上海映画祭で見た映画です。メイというおばさんが主人公で、独居老人なんですが、しょっちゅうダンスホールに行って男友達を探しているみたいな日常をずっと追っている。ドキュメンタリーなんだけど、おばさんが芝居している感じがあって微妙なんです(笑)

――ドキュフィクションじゃなくて、ドキュメンタリーだけど芝居っぽいみたいな?

市山:明らかに芝居みたいなところがある。おばさんがかなりカメラを意識しているし、真面目なドキュメンタリーというより、おばさんの日々を追うみたいな感じ。

――メイおばさんのキャラクターが強烈なんですね。

市山:上海語でしゃべっているんで、普通の中国人が見たら言葉が分からない。今の中国は成功した人を描くみたいな感じがすごくあるなかで、社会ののけ者になっている人にスポットをあてて、それが上海映画祭でちゃんと上映されているのが偉いなと思って。

――監督はどういう人なんですか?

市山:全然知らない人です。上海出身の人らしい。インタビューを見ると、老人の世代を主人公にした映画を撮ろうと、いろいろリサーチをしてたときに、この主人公と出会って、この人を追う形で撮ることにしたそうです。

――続いてドイツの『ミュージック』は?

市山:これはベルリンで脚本賞を獲った映画で、アンゲラ・シャーネレクって見てます?

――見てます。前作の『私は家にいた、けれど』という。

市山:あれも変な映画でしたが、これも変な映画です。エディプス王を現代でやっているという映画で、捨て子になっていた男が成長して、知らずに父親を殺してしまい、その後、知らずに母親と恋愛関係になる。

――監督に興味をひかれて、ベルリンの記者会見にも行きました。

市山:今回はスケジュール上に問題があって、残念ながら来られないんです。小津が好きなはずなんで、今年来られたら喜んだと思います。この映画は台詞が全部歌で、ミュージカルなんです。

――面白そう。

市山:『パッセージ』はアイラ・サックス監督作で、サンダンス映画祭で上映されました。フランツ・ロゴフスキというペツォルトの映画によく出てくる、今売れっ子のドイツの俳優と、『アデル、ブルーは熱い色』のフランスの女優アデル・エグザルホプロスと、イギリスのベン・ウィショーの主演で、ロゴフスキとベン・ウィショーがゲイのカップルなんだけど、ロゴフスキがアデルと出会って、関係がガタガタになる。

――ロゴフスキはバイセクシャルだったと。ベルリンで受けそうですね。

市山:ベルリンではパノラマ部門だったんですが、満員ですごく受けてました。日本の配給会社の人たちも見てるはずなんですけど、結局売れてない。

――ゲイ映画は日本でもかなり受け入れられてきていますが。

市山:ロゴフスキの方は罪悪感がないんだけど、女と付き合ってると聞いて、ベン・ウィショーの方が嫉妬して険悪になる。

3D対応館がない!

――面白そうですね。

ヴェンダーズの『アンゼルム』はカンヌで見ています。アンゼルム・キーファーが好きな人はぜひということで。これは3Dで上映するんですよね?

市山:3Dでやります。ところが、今、3Dで上映するところがシネスイッチ2しかないんです。

――東宝の劇場では3Dで上映できないんですか?

市山:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が終わった後に全部撤去したらしいです。日本では3D上映は客が来ないということが統計上出ているみたいで、むしろ3D眼鏡をかけるのが面倒臭いから2Dで見る人が多いとか。日比谷で唯一上映可能なのがTOHOシネマズのIMAX上映のスクリーンなんですが、そこは借りてないんで。

――それでシネスイッチで上映?

市山:そうなんです。なので、チケット争奪戦になりますよ。

――今はそんな状態なんですね。3Dの映写機ってそんなに場所をとるんでしょうか。

市山:場所をとるというのもあるけど、メンテナンスもあるんじゃないでしょうか。使わないのに置いておくのもバカバカしいと。どうしても3Dでなければという作品がまた出てくれば、そのときに借りればいい。

――映画祭で1回上映みたいなのはダメなんですね。大きな興行じゃないと割りに合わない。

市山:そうなんです。

――寂しいですね。

聞き手:字幕翻訳家、映画評論家齋藤敦子
10月2日東銀座の東京国際映画祭事務局にて

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