震災を歌で伝え続ける「レクイエム・プロジェクト」仙台で今月28日、10年目の演奏会 

寺島英弥(ローカルジャーナリスト)】「レクイエム・プロジェクト」を聴きに行かれたことはあるだろうか。日本各地の戦災や大災害があった街々から、地元ゆかりの詩人、住民参加の合唱団と共に、祈りと希望を込めたオリジナルの歌を発信してきた音楽活動だ。仙台市では、東日本大震災から2年後の2013年11月に約130人の市民合唱団が、主宰者・作曲家上田益(すすむ)さん=(66)=の「レクイエム」などを上演。以来毎年活動を重ね、今月28日、10回目の演奏会を開く。震災体験の風化に抗い、「歌による伝承とつながりの場を広げたい」という。 

祈りと希望、分かち合い 

上田さんは大阪出身の第一線の作曲家で、阪神淡路大震災(1995年)の後、慰霊と再生の祈りの催し「神戸ルミナリエ」の音楽づくりをしてきた。時を経ても癒えぬ傷を背負う住民と犠牲者のための無償のコンサートも始め、2008年からは上田さん作の追悼曲と市民合唱団結成による恒例の演奏会に発展した。こうして生まれたレクイエム・プロジェクトは、大水害の起きた兵庫県佐用町や、戦災の地・沖縄、長崎、広島、東京に歌声を広げ、2011年3月11日の東日本大震災とともに東北にもつながった。 (昨年9月7日のインタビュー参照 9月11日、被災地の10年伝える新曲を全国へ 多賀城で、祈りと励ましの演奏会「レクイエム・プロジェクト仙台2021」|TOHOKU360 ) 

工藤欣三郎さんの指導で、10回目の演奏会に向けて練習するレクイエム・プロジェクトの団員=仙台市若林区文化センター

上田さんと協働し、仙台の演奏会で共に指揮を執ってきたのは合唱団「コール・ユーべる」などの指導者、工藤欣三郎さん(80)。第1回のプログラムは、いずれも上田さん作曲の『レクイエム-あの日を、あなたを忘れない』、詩を福島市の詩人和合亮一さんに委嘱した組曲『黙礼』など。「通常の合唱団のコンサートとは全く違い、演奏者も聴衆も、被災地の人が共に祈り、明日への希望を分かち合う場になった」と振り返る。 

「震災があったあの日、私の自宅(同市若林区)はかろうじて津波を免れたが、海に近い地域はすっかり風景を変え、今では震災の傷跡も、復興の姿も見えないまま。私を含め、心が置き去りにされた人は多い。震災を知らない世代も増える中、いつまでも忘れずにいたいもの、伝えたいものものが、被災地の誰にもあるはず。それを音楽の力で共有してもらう場になりました」 

地元の詩人、市民合唱団と 

上田さんはこれまで、和合さんや、久慈市の宇部京子さん、那覇市の伊波希厘さん、広島県出身の上田由美子さんら被災地、戦災地の詩人に、それぞれの歴史と人の思いを紡ぐ詩を委嘱し、表現と伝承、発信を担う合唱団員を地元の市民から募集し、歌声を全国に響き合わせてきた。その成果を、上田さんはこう語る。 

「レクイエム・プロジェクトの活動は現在、全国7つの街で続いており、各地の団員たちは、ゆかりある合唱曲を互いの演奏会でも歌い、遠路参加し合ってもいる。仲間となって、互いの思いを知り、希望の種も持ち帰る。そんな交流を広げています」 

作曲家上田益さん(中央)と、佐賀慶子さん(右)、ピアニスト菅原紀子さん

工藤さんも、仙台での発表曲の指導で神戸や広島、東京、久慈などに招かれ、「そんな温かな人の交流を予想しておらず、このプロジェクトならではの成果」と話す。 

今月28日の仙台での演奏会では、東日本大震災から10年の昨年9月に初演した合唱組曲『また逢える~いのちの日々かさねて』(作詩・寺島英弥)を再演するが、既に広島、東京、神戸でも演奏され、各地の団員も仙台に応援に駆け付ける予定という。 

多くの出会い、共感の賜物 

仙台の活動の指導者の一人、佐賀慶子さんは、地元の混声合唱団「グラン」、女声合唱団「コーロカナリーノ」の指揮者でもある。自身も、11年前の大地震で自宅が全壊したという痛みを背負う。宮城、岩手、福島で被災した当事者たちの心情を歌い上げる『また逢える』に共感し、二つの団の仲間たちも昨年の初演を聴きにきてくれたという。 

「それだけでなく、『仙台の私たちがこの曲を歌いたい』と多くのメンバーが今春、レクイエム・プロジェクトに新入団してくれた」と佐賀さんは喜ぶ。思いは深く、11月13日に予定するグランの第3回定期演奏会(電力ホール)でも、『また逢える』を取り上げる。 

上田さんは、「懸命に10回を重ね、来年は10周年を迎える。さまざまな人の出会いと共感、努力の賜物。私たちの変わらぬテーマである『いのち』の歌を、今年も多くの人に受け取ってほしい」と、レクイエム・プロジェクト演奏会への来場を期待する。 

「レクイエム・プロジェクト仙台2022」は、日立システムズホール仙台で。前売り券1000円(当日1500円)。問い合わせは上田さん☎080(5181)6692。 

  

*TOHOKU360で東北のニュースをフォローしよう
X(twitter)instagramfacebook

  

>TOHOKU360とは?

TOHOKU360とは?

TOHOKU360は、東北のいまをみんなで伝える住民参加型ニュースサイトです。東北6県各地に住む住民たちが自分の住む地域からニュースを発掘し、全国へ、世界へと発信します。

CTR IMG