【続・仙台ジャズノート#116】何はなくとも「スタンダード」

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】「スタンダード」と呼ばれる曲がジャズにはあります。一般的に「スタンダード」と言えば「標準」のような意味合いがあって、ごく平均的な性格を表すかもしれませんが、ジャズの世界では、古くから親しまれて歌われたり、演奏されたりしてきた佳曲、名曲の数々を指すようです。「60代半ばからのジャズ志願」を目指した筆者(72歳)にとっても、聴いたことのあるジャズナンバーはほとんどがスタンダードです。

学生時代、縁あってドラムを叩いていたキャバレーバンド「TALK NOISE」でも、ジャズのスタンダードは重要なレパートリーでした。人気のある演奏家のオリジナルをレコード中心に聴くようになって、いわゆるスタンダード以外の曲にも数多く親しんできました。ロックやポピュラー音楽の世界にも「スタンダード」はあるし、最近よく聴く「Over The Rainbow」のようにジャンルや楽器編成の枠を超えて通用する強力な「スタンダード」も数多いのでジャズのスタンダードであることに過剰にこだわる必要もないのですが、不慣れなメロディ楽器でジャズらしきものを覚えるにはスタンダードの世界にどっぷりはまりつつ、ジャズの響き、リズムをしっかり楽しむことが早道のようです。

ジャズスタンダードの世界は幅広く奥が深い。真ん中に見えるのが通称「黒本」の「JAZZ STANDARD BIBLE」

日本語訳では「虹の彼方に」として幅広く親しまれている「Over The Rainbow」は1939年のミュージカル映画「オズの魔法使い」でジュディ・ガーランドが歌いました。ハロルド・アーレンの作曲、エドガー・イップ・ハンバーガーの作詞。筆者が最近特に楽しみにしているのは米国映画「小説家を見つけたら」(ショーン・コネリー主演、ガス・ヴァン・サント監督、2000年)でラストに流れる「Over The Rainbow」です。Israel Kamakawiwo’oleイズラエル・カマカヴィヴォオレさんがウクレレ1本で歌っています。見るからにハワイの人だし、曲調もハワイアンです。これ以上シンプルになることはありえないと思えるほどに素朴で美しい旋律がジャンルを超えて伝わってきます。

この記事を仕上げるためにYouTubeを検索していたらエリック・クラプトンのグループが「Over The Rainbow」を演奏していました。2001年の録音なのだとか。なんてかっこいいんだろう。

というわけで、では60代からのジャズ志願でも「Over The Rainbow」を取り上げればいいかというと、なかなかそうはいきません。この曲の完璧としか言いようのないメロディをなぞるだけでも難しい。ましてやアドリブを考えるだけでも恐ろしい。何とかして聴いてもらえるだけの「Over The Rainbow」を演奏できるようになりたいものだ、と気持ちでは思いますが、難しそうです。

ジャズのスタンダードと呼ばれる曲はどのぐらいあるのでしょうか。ジャズ志願者にとっての教科書的著作「JAZZ STANDARD BIBLE第1集」(通称・黒本、納浩一編著)を眺めてみました。手元にある黒本第1集に掲載されているのは227曲。いまだ手に取ったこともない第2集にも227曲が掲載されているそうなので「JAZZ STANDARD BIBLE」に掲載されているスタンダードは500曲近くに上ります。学生時代筆者のバンド活動の中で取り上げたことがあるのは第1集のほぼ半数。テーマ(メロディ)を知っていても、アルトサックスでは演奏したことのない曲が圧倒的に多いことになります。

やはりジャズ志願者に重宝していると思われる、有料の伴奏ソフト「iReal Pro」にはジャズジャンルだけで1300曲。ポップス400曲、ラテン50曲、ブラジル音楽150曲、カントリー50曲が収容されています。

スタンダードに厳密な定義はないので、一概には言えないのですが、スタンダードと呼ばれる曲群や、スタンダードに限りなく近い曲の音世界が量的にも質的にもいかに豊かであるかが分かります。

*この連載が本になりました

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