【続・仙台ジャズノート#134】「枯葉」でアルペジオ。進んでこそみえる新たな風景

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文】ジャズの知識や技術を一つでも身に着けるには、理屈から入るのではなく、一見、退屈に見える繰り返し作業を楽しくなるまでやるのが、結局は早道のようです。最初はそれを実感できないので、とんでもない世界に踏み込んでしまったなあ、と思いました。特に筆者の場合、記憶系の身体機能に何かと支障の出る60代半ば、メロディやハーモニーの仕組みについて無知同然の身で、ジャズ音楽を演奏する側に回ってみたいと夢見ました。しかも、あわよくばアドリブの真似事でも・・と妄想していたのだから、初めから楽な話になりようがありませんでした。

先日、入門当時からの永遠の課題曲「枯葉(AUTUMN LEAVES)」をおさらいしていたときのこと、「コードアルペジオ」で丸々演奏する面白さにあらためて気づいたような気がします。「コードアルペジオ」は、コード(和音)の構成音(コードトーン)を一音ずつつなげて演奏することです。本来ならアドリブ演奏を始める前に取得しなければならない、基本中の基本なのに、なぜか苦手意識が強く、後回しになっていました。

これまでにも何度か繰り返してきたように、コード関連の理屈はなかなか手ごわいです。「メジャー」といわれるコード一つでも、始める音の高さによって12種類あります。基本的なコードだけでもメジャー、マイナー、7th(セブンス)の3系統あります。音色に表情を持たせるための音使いが無数にあるので、単なる「コードアルペジオ」といっても、楽譜を正確に追いかけようとすれば、それだけで十分悩ましい。

コードに関する知識や技術を、段階を踏んでしっかり身に着けてから「コードアルペジオ」に進む方が無難かもしれませんが、できることより、できないことの方がはるかに多い状態は決して心地よいものではありません。とりあえず、できることを大事にしながら前に進み、何歩か進んだら振り返り、確認する方がいいようです。

「枯葉」の楽譜を追いながらコードアルペジオに挑戦する場合、少しテンポを落とせば、何とかついていけそうでした。やってみると、これがなかなか楽しい。「枯葉」の場合、テーマ(メロディ)だけで使われているコードの種類はほぼ20種類。広大なコード世界のごく一部にすぎませんが、もともとコード世界のすべてを把握するのが狙いではありません。

「枯葉」の旋律を構成する音(コードトーン)を何度も順番に吹いているだけで、曲の魅力をあらためてかみしめることができるようです。無理のないテンポでゆっくり繰り返しているうちに、一音一音が身体にしみこむようです。自分が出す音を自分自身が味わっているだけですが、繰り返しているうちに、たとえば「C6」と表記される6thの響きが「C7」の7thとはかなり異なるニュアンスであることを実感できます。気づいてしまえば、できることならごまかさずに吹こうと思うのは当然です。(えらい?)

自分勝手なアドリブもどきが余計な音をどれだけ含んでいるか。何度も繰り返しているうちに、その余計な音でも、開始位置を変えれば、そんなに変な感じはしない場合がある。アドリブの際、コードアルペジオと組み合わせて、スケール(音階)を使うと違和感なしに「味変」させられるなど、実戦で役に立つポイントに気づくこともあります。おっくうだった自己練がいつの間にか楽しくなるのはそんなときです。

*この連載が本になりました

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