【続・仙台ジャズノート#16】菊ちゃんのうたごころ②心に感じたことを音にする

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】トランペット奏者、菊田邦裕さん(29)に「うたごころ」を鍛え、人の心を動かすために心掛けてきたポイントについて聞いてみました。ジャズ音楽を支えるさまざまな理論にどう向き合うか、ジャズ特有のアドリブ(即興演奏)のこつをどう身に着けるか-などについて、突っ込んだ話を聞くことができました。

「今、分かっているジャズの理論を理解していた方がいいのはもちろんです。ただ、マイルス・デイビスやフレディ・ハバードなどのリジェンドが、白熱したステージの上であんなに汗をかいて、リズム隊との調和を感じているときに『ここはディミニッシュだ』とか『ここはドミナントだ』とか、考えていたかと言えば、それはないと思うんです」

言葉を少し変えて言えば、実際に演奏するときに理論について考えるのか、あるいは心で感じたことを素直に表現するかの違いと言えそうです。「理論を優先させ、教科書通りの演奏をするのと、心で感じたことを大事にしながらアウトプットするのとでは大きな違いがあります。演奏するときは、理論をいったん取っ払って、自分に正直になる方がいい」

菊田さん自身、ジャズ理論は不得意で、アドリブもどうやればいいか分からなかったそうです。20代の初め、サックス奏者でバンドリーダーの安田智彦さんのビッグバンドに属していました。「安田さんの縁でサックスの近藤淳さん、池田篤さん、小濱安浩さん、トランペットの伊勢秀一郎さんらが来てくれました。日本のリジェンドと言われる人たちです。多くのことを教えていただきました。みなさん、すごいアドリブをとっていました。自分もやってみたいと思ったけれども、その感性がまったく育っていませんでした」

菊田邦裕さん(前列右)が主宰したライブ。若手と中堅が互いを意識しながらバランスを模索していた=2022年4月23日、仙台市青葉区「モンドボンゴ」

アドリブを難しく感じ、コンプレックスになりかけたときに、お世話になったビッグバンドを思い切って卒業し、サックス奏者の林宏樹さんとのコンボ(少人数編成のバンド)などで演奏しながら徹底的にジャズに向き合う3年間を過ごしました。

たどり着いたのは「心で感じたことを瞬時に音にする練習」でした。「理論に沿って頭で考えた音を出すのではなく、心で感じた音を素直に出す練習に切り替えました。心で感じた音を素直に出すには、まず音感が必要になります。そのため、ピアノで誰かに出してもらった音をトラペットで吹く練習を繰り返しました。さらに、たとえば『シラソソファ ラドミレレシド』とトランペットのフレーズを頭に思い浮かべ、同時にピアノで(移調して)弾けるようにします。繰り返し練習した結果、心で感じた、頭に思い浮かんだ音をトランペットでアウトプットする速度がものすごく速くなりました」

ジャズ特有のアドリブ演奏に向き合うときに大切にしてきたポイントがもう一つあります。「ジャズの人って、コード進行がある曲をよく練習するけれども、自分は一つのコードだけでアドリブする練習を取り入れました。たとえばG7(ソ、シ、レ、ファからなる和音)のコードがずっと続く環境で、自分のうたを作る練習です。一つのコードしか流れていない、「一発」と言われる条件の下、自分がどれだけのうたを作れるか(演奏できるか)が重要でした」

多くのコードからなる曲を理論に合わせて追いかけるタイプのアドリブも「コード感」あふれるアドリブにするために重要です。一つのコードで、聴きごたえのあるアドリブを延々と続けるには、菊田さんの言う「心で感じる」ジャズの感覚を求められます。

「最初から多くの音を駆使して全力で走り出す必要はありません。アドリブの最初は一つの音を鳴らすだけでもいい。何なら無音でも、アドリブにはなります。無音あるいは一つの音から始め、リズムで遊ぶ気持ちになる方がいい。音の数は必要に応じて徐々に増やしていけばいい。とりあえず見えるコードをやみくもに追いかけるのではなく、全体の構成、組み立てを考えることです」

地域のジャズの現場、特にアマチュアでジャズを楽しんでいる人たちの中には、アドリブに関心を持つミュージシャンが多いのに、理論のとっつきにくさや、質量ともに膨大な練習の厳しさに音を上げてしまいがちです。先の見えない道をコツコツと歩むのが得意な人たちは特に問題はありませんが、筆者のように、趣味の世界とはいえ、時間と根気、記憶力、ケーザイに限りがあるシニア世代がジャズ音楽を、より楽しむためにはどうすればいいのか、あらためて考えようと思います。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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