【続・仙台ジャズノート#55】民謡とジャズをつなぐ。尺八、ピアノ、ベース、ドラム

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

【佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】邦楽の尺八をまじえたジャズカルテットのライブが2023年2月23日、仙台市青葉区の「ライブドーム スターダスト」で開かれました。「ジャズから民謡への新アプローチ」と題したライブです。

民謡をジャズの形で取り上げる活動は、尺八演奏家、平澤真悟さんとピアニスト田辺正樹さんが2年前から取り組んできたテーマです。今回は田辺さんがリーダーとなり、アレンジを担当、ドラムの今村陽太郎さんとベースの柴田崇斗さんを迎え、リズムをより強化した形です。

邦楽を代表する楽器、尺八は個性的かつ強力無比な音色が特色。優れた演奏者がひと吹きでイメージさせる音世界は圧倒的です。ジャズ特有のリズムやアンサンブルの中で尺八をどう聴かせるか、特に即興演奏中心のインタープレイをどう仕組んでいくかなど、聴きどころは満載でした。この連載では2022年にも平澤、田辺両氏の活動を紹介しています。https://tohoku360.com/jazz2-12/

民謡をジャズにする。尺八とピアノを中心に新しいアプローチの方法を探った「田辺正樹カルテット」=2023年2月23日、仙台市青葉区の「ライブドーム スターダスト」

この日のライブは2部構成で行われました。以下、前半のステージを聴いた感想です。前半に取り上げた民謡は「花笠音頭」(山形)と「大漁唄い込み」(宮城)。ジャズのニュアンスの点で特に満足度が高かったのはハイテンポで、ラテンのリズムをまじえた「大漁唄い込み」でした。平澤さんの即興演奏が細かくて強いラテンのリズムに引っ張られるように微妙に変化する様子が印象的でした。尺八を軸にした「ジャズから民謡への新アプローチ」を考える上でラテン系のリズムがかぎの一つとなるような気がしました。

対照的に花笠踊りは日本人がよく親しんできた旋律が相対的に強すぎるように聴こえ、ジャズ楽曲としては、たとえばビート感を強く出すなど、今後の改良が楽しみな作品でした。ピアノと尺八のデュオ「Bamboo Nest(竹の巣)」は「風が通り抜ける」さまを表現したドラマチックな曲想。尺八の楽器特性を考え抜いた見事なジャズデュオになっていました。

今回のライブを成功させた要素の一つに、ピアノトリオで演奏した田辺さんのオリジナル「Rethought」があります。あえて尺八を外し、ピアノトリオの演奏をプログラムに組み入れることによって、尺八がさまざまに活躍する他の曲との評価軸が生まれ、多様で分かりやすいジャズライブとなっていました。

60代半ばからのジャズ志願初級者(筆者のことです)にとっての関心の的は平澤さんの即興演奏でした。「尺八やお琴は、たった一つの音で宇宙を表すといわれます。「Bamboo Nest」の巣の中で生まれた一つの生命がヒナになり、鳴き声を上げ少しずつ育っていく。その命の瞬間のはかなさを一音で表現できたらいいな、と思っています。演奏していると、お客さんが呼吸もせずに聞き入っている瞬間を感じることがあります。聴いている人々の視線がわたしに集中し、その視線の強さに応じて自分が吹く音量も、旋律も変化する。お客様があって初めてわたしの音楽は成立します。一人で吹いているのとは全く別の世界です。ステージは腕前を競う場ではなく、お客様が楽しむ場。そのために自分は演奏者として何ができるかと言えばメロディ力と尺八力。そして他のメンバーを信頼する力です」と話しています。

「物語をあらかじめ作ってもいいんだけど、その通りにできるかどうか自分でも分からない。それよりも演奏中にやりたいことがあったら、♭が一個増えた状態で動くから合わせてくれる?とピアノに合図し、それをベースやドラムにも伝えてもらう。それができれば民謡のジャズは自在に動くことになるんじゃないか」。手ごたえをつかんでいるようです。

アレンジを担当した田辺さんは最後に次のように付け加えました。

「民謡は何と言ってもそのメロディだけで日本人の心を動かします。しかも、それが日本人の心にしっかり残っています。そのため今回の企画にあたって、アレンジで心掛けたのは、なるべくメロディを改変しないことでした。まずメロディを重視し、その下でいかに遊べるかを考えました。基本的に民謡のメロディはペンタトニック、決まった音しか使われていません。

コードの自然な流れを保ち民謡の持つメロディの強さを生かしつつも、ところどころで、ある種の『裏切り』のような進行を加えることで、民謡の旋律に新しい色を纏わせるようなアレンジを意識しています。日本人に馴染みのある民謡のメロディだからこそできる試みで、そこに私は面白さを感じています」。

▶田辺正樹カルテット
ピアノ 田辺正樹
尺八 平澤真悟
ベース 柴田崇斗
ドラム 今村陽太郎

KENNY DREW TRIO WITH PHILLY JOE JONES/ケニー・ドリュートリオ

【ディスクメモ】1956年9月の録音。ケニー・ドリュー(p)のトリオ。ポール・チェンバースのベース、フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムがサポートしています。典型的なハードバップを聴くことができます。

超高速の「キャラバン」に始まる選曲はどれをとってもカッコよし。このアルバムを聴いてピアノトリオが嫌いになる人はいないでしょう。個人的にも、1960年代のパリ、コペンハーゲン時代のケニー・ドリューまで聴き続けました。ニールス・へニング・オステッド・ペデルセン(b)との共演が魅力的でした。

このアルバムを吹き込んだ当時、ポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズは第一期のマイルス・デイビス五重奏団のメンバーでした。コルトレーンとやっていた二人でもあります。B面3曲目「ブルース・フォー・ニカ」でのブルースはくどくなくて好きです。

▶A面

  1. CARAVAN
  2. COME RAIN ORCOME SHINE
  3. RUBY MY DEAR
  4. WEIRD.D

▶B面

  1. TAKING A CHANCE ON LOVE
  2. WHEN YOU WISH UPON A STAR
  3. BLUES FOR NICA
  4. IT’S ONLY A PAPER MOON

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

これまでの連載はこちら

*TOHOKU360で東北のニュースをフォローしよう
X(twitter)instagramfacebook

>TOHOKU360とは?

TOHOKU360とは?

TOHOKU360は、東北のいまをみんなで伝える住民参加型ニュースサイトです。東北6県各地に住む住民たちが自分の住む地域からニュースを発掘し、全国へ、世界へと発信します。

CTR IMG