【続・仙台ジャズノート#8】ジャズとネットのいい関係

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】北海道十勝の幕別町で先日開かれた、音楽と写真を楽しむ「とかちフォト&ミュージックライブ2022」の様子をオンライン配信(有料)で見終えました。NPO法人まくべつ町民芸術劇場の主催のイベントで、ジャズピアニストの石井彰さん、仙台中心に活躍しているサックス奏者の名雪祥代さんらが戸張良彦さん、岩崎量示さん、浦島久さんら写真家の作品とコラボするイベントでした。ノートPCの小さな画面では十勝の自然を写した作品の良さを堪能できたとはいえませんが、ジャズ演奏家がもともと持っている「インタープレイ」(他の演奏者のサウンドを聴きながらその場で音楽をつくること)の力を実感することはできました。

ネット利用がどんどん進んで自宅の仕事部屋で端末を見ながら取材メモをとることも珍しくなくなった。端末に表示しているのは十勝の自然を写した写真とジャズのコラボ「とかちフォト&ミュージックライブ2022」(2022年2月23日、北海道幕別町「幕別町百年記念ホール」)のひとこま。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに広がったネット利用は、音楽の世界でもさまざまな試みとなって具体化しています。たとえば、前回紹介した仙台出身のジャズピアニスト、スエナガタカフミさんはYouTubeを使って情報発信し、ミュージシャンやリスナーとの新たな結びつきを模索しているように見えました。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない今、多くのミュージシャンがネット利用の可能性を模索しています。ジャズとインターネットの関係はどこまで来ているのでしょうか。

拙著「仙台ジャズノート」でも報告してあるように、ジャズ演奏家の最近のネット利用は、主に演奏の場を生み出すことに狙いがあるように見えます。新型コロナウイルスの蔓延によって、ライブやコンサートを安全に運営することが難しくなり、演奏家にとって最も大切な演奏の機会がどんどん奪われました。暮らしを支える収入を確保する道が極端に細りました。

経済の問題以上に演奏家の危機感を募らせたのは、聴き手との間に大きくて深い断層が生まれはしないか-という点です。パンデミック(感染症の世界的な流行)に耐えようとする社会は誰にとってもストレスに満ちています。だからこそ、音楽や映画・演劇など芸能・芸術によって心を癒す必要がある、と考える人たちが、厳しい環境と戦いながら「演じる場」を一つでも多くつなぎとめようとしています。

仙台ジャズノート 暮らしの中で芽吹くオト、つなぐオト

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佐藤和文
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ミュージシャンによる新しい演奏の場づくりとして注目したいのは「配信」「リモート」と呼ばれる取り組みです。仙台圏では、映像制作と演奏の二役を演奏者自ら担当する取り組み「せんだいミュージックゴーラウンド」が成果を上げました。映像制作にも詳しいミュージシャンが講師役となって録音や撮影、配信などの技術研修を行いました。ミュージシャンが演奏だけでなく映像制作やネット配信の技術を真剣に学ぶ様子は、「コロナ後」の新しい環境を見詰めているようでした。ネットの先にいる、顔の見えない観客に向かって演奏するのは、スポーツなら「無観客試合」のようなもの。観客を前に演奏する普通のライブやコンサートとは異なり、演奏に対する反応を肌で感じることが難しい。いわゆる「コール&レスポンス」を得意とするジャズ音楽の場合、演奏する側も聴く側も、初めのうちはどこかぎこちなかったのはやむを得ません。

ちなみに十勝のフォト&ジャズコラボに出演した石井さんは古いジャズファンにはおなじみの演奏家で「譚歌(たんか)チャンネル」と題するYouTube番組(チャンネル)をジャズベーシスト金澤英明さんと一緒に運営しています。「譚歌」は「物語に基づいて作られた歌」といった意味です。老練なジャズミュージシャン二人が毎回、とっておきのゲストを迎えて行うトークは、ジャズの世界を縦横無尽に浮き彫りにします。まさに「譚歌」そのものといっていいでしょう。既に60回を超えた「長寿番組」です。名雪さんも仙台圏の若手の演奏家とともに「せんだいミュージックゴーラウンド」を企画・運営したほか、自らはインスタグラムとYouTubeで週1回の「昼ジャズ倶楽部」を運営し、共演したことのある演奏家やジャズ喫茶店経営者らをゲストに招いています。

演奏家自身が新しい場づくりとしてネットを利活用するには、配信に使用するソフトウェアの問題が重要です。ソフトによっては、映像配信の視聴料金を設定する機能もあるので、後日、提供・販売する映像作品の注文を受け付け、決済も併せて行うことも可能です。オンラインによる視聴と、後日、改めて聴くことのできる映像データを受け取ったり、アクセスできたりするアーカイブ視聴を組み合わせることでいろいろなニーズにこたえることも可能です。

「アーカイブ」の場合、演奏データを期間限定でデジタル保存し、ネット経由でアクセスできるようにするだけなら、CDやDVDの価格や品質に比べてどうしても割高感が伴います。ネットを利用する場合、回線の品質に起因する映像・音声の中断も起きないとは言えません。ネットを行き交う情報の伝達にはデータの送信・受信で時間差が生じるのが普通です。いわゆる「遅延」の問題です。仮にその時間差を無視できるぐらいの条件で「配信」ができるとしたら、ネットを活用した場づくりの可能性は飛躍的に高まるはずです。日本でも実用化段階に入った5G(第5世代移動通信システム)が芸術・芸能の分野でも本格展開しますように。

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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