【続・仙台ジャズノート#86】時代をつなぐ選曲。メロディ重視のプレイ。菊田邦裕カルテットライブから

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】気鋭のジャズトランペット奏者菊田邦裕さんをリーダーとするクインテットのライブが2023年10月9日、仙台市青葉区一番町のジャズバー「モンド・ボンゴ」で開かれました。仙台、山形、札幌の若手ミュージシャンによるステージ。ジャズの伝統に根差しながらも、「コンテンポラリー(現代的な、当世風の)」なスタイルを強く意識した意欲的な内容でした。「コンテンポラリー」と聞いただけで古いジャズファンとしては、ジャズ聴きとしての可動範囲を超えるような気がして思わず構えてしまうのですが、1940年代以降のいわゆる「モダンジャズ」から2000年代以降の「コンテンポラリージャズ」に橋をかけたようなメロディ重視のセンスが楽しめました。

クインテットのメンバー構成は、菊田さん(トランペット・フリューゲルホーン)、櫻井龍太さん(サックス)、田辺正樹さん(ピアノ)、齋藤潤さん(エレキベース)に加え、札幌で活動している三露采市(みつゆ・さいいち)さん(ドラムス)の5人。

冒頭、「きょうはあまり聴いたことがない曲も用意しました」と案内があったので、少し身構えましたが、取り上げられた曲も、曲中で披露されるアドリブソロも、メロディアスなセンスを随所に生かしたものでした。ジャンルを問わず歌ごころ豊かなソロをとるリーダーの菊田さんの指向を反映しているように聴こえました。

オールドなジャズファンにも好評だった菊田邦裕カルテット=仙台市青葉区一番町のジャズバー「モンド・ボンゴ」で

例えばステージ前半で櫻井さんのソロをフィーチャーした米国のサックス奏者、ケニー・ギャレットの「Brother Hubbard」。リズムパターンはコンテンポラリー志向の強い複雑なものでしたが、テーマ自体は、古くからのジャズ好きにも聴きやすい、どこか懐かしい旋律でした。帰宅後早速、ケニー・ギャレットを聴き、守備範囲の一人に加えた次第です。

長い間、ジャズに親しんでいるうちに、いつしか自分の好きなスタイル、聴いて心地よい「マイジャンル」にこだわりがちになるようです。筆者の場合、1960年代後期にジャズを聴き始め、70年代、80年代初期までがほぼ同時並行で体験したジャズ音楽です。その後のコンテポラリーなジャズについては拾い読み的な経験にすぎないし、1920年代までに遡るジャズ演奏家の足跡をたどる経験は、歴史を旅する机上の音楽体験にすぎないとも言えます。ジャズ音楽の長い歴史と多彩・膨大な作品群を考えれば、演奏者とリスナーが同時進行で向き合える時間は実は非常に短い。だからこそ身近なライブの現場で、空間を共有できる機会が貴重なのだとあらためて感じるのでした。

この日演奏された曲は以下の通りです。

【1st】
The thump
Brother hubbard
Greeting to idris
Introspection
The messenger

【2nd】
United
Record me
When we were one
Salima’s dance
Soulful

【アンコール】
 Stellar

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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