【若栁誉美】クラウドファンディングやサポーター制度など、さまざまな方法で一次産業を支援する仕組みが広がっている中、福島県西会津町では新たな取り組みが始まっている。それが、スマートフォンアプリを通して、米農家を支援する「石高プロジェクト」だ。
筆者は昨年秋、知人のSNS投稿でこのプロジェクトを知り、興味を持ってプロジェクトへ参加している。今回は、本プロジェクトの広報担当である、西会津地域おこし協力隊・長橋幸宏さんにお話を伺った。
米の購入や手伝いに応じて「米手形」を配布
石高プロジェクトの根幹は「西会津町の米農家を支援する」「米農家からお米を買う、単なる取引の枠を超えたい」という思いだ。
専用のスマートフォンアプリから、米ボード(米を買うための権利)を購入する。米は西会津町の農家によって育てられたもので、複数の銘柄から選択できる。そして、米の購入量に応じて、各支援者に「石高」が付与される。歴史の授業で出てきた実際の「石高」とは異なるものの、同じ単位で比べられるのでなんだか楽しい。
米の購入で入手できる「米ボード」に加え、SNSで石高プロジェクトを広めたり、西会津町でのボランティアに参加して農作業を手伝ったりした場合は、「人足ボード」が付与される。この2種類の「ボード」に応じて、毎年秋に、各銘柄の収穫量に応じて米と引き換えができる「米手形」が配布される。この米手形と交換することで、支援者の手元に米が届く。
支援に応じて増えていく石高を眺めるのは、純粋に楽しい。この「楽しい」は、持続する上で必要なこと。応援する側は「なんだか楽しい」で農家を支援でき、応援される農家側は「生産品の買取先がすでに決まっている」というメリットもある。
米本位制の発想から、デジタル地域通貨を開発
「石高プロジェクト」の企画のきっかけは、2022年の冬に、東京大学の鈴木寛教授が西会津町をフィールドワークで訪れたことだ 。その際、耕作放棄地・高齢化で担い手がいない農家さんと「何かあった時に、お米を配れる、疎開のようなことができる場所があるのが大切」という話になった。昔のように米を蓄える、石高=資源を持っている、頼れる仲間がいる、場所があるという大切さ。
米本位制の時代の社会の成り立ちは現代でいうところの地域通貨とも置き換えられることから、デジタル地域通貨を作れないか、という話に。西会津町の最高デジタル責任者(CDO)藤井靖史さんに相談があり、株式会社クエストリーのプロトコルを利用した、現在の「石高プロジェクト」のベースが立ち上がる。西会津町長にもプレゼンを行い、2023年6月から町の事業としてスタートした。
地域と繋がる新しいかたち。石高プロジェクトの挑戦
石高プロジェクトでは、「石高」を一つの軸として、地域とつながり、関係を深めていく関係人口を増やすことが目的のひとつ。離れた場所に住んでいても、地域にゆかりや共感を感じ、「また訪れたい」「応援したい」と思ってもらえる人たちを増やすことが目標。単に「お米を買う」という行動に留まらず、その先にある地域の未来を繋ぐ活動を重視している。西会津町での稲刈りイベント、東京での新米試食イベントなど、多方面からつながりを作るアプローチを仕掛けている。
「石高プロジェクトを通じて、西会津の魅力や活動を広く発信し、地域の未来を共に楽しみ、創り上げていける仲間を増やしていきたいと思っています。消費者として、というよりは、運命共同体のような関わりを作りたい。この取り組みをきっかけに、新たな地域とのつながりをぜひ感じてみてください」と長橋さんは語った。
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