【黒田あすみ通信員=山形県西置賜郡小国町】かつて東北の山中に暮らし、狩猟で生計を立てていた伝統の民「マタギ」。その習わしや文化を今に受け継ぐ山形県小国町小玉川集落で、6月9日に「小玉川屋号マーケット 春の山菜まつり」が開催された。
全国有数のマタギの郷で、県外出身の若い2人が開くマーケット
山形県の南西部、新潟県との県境に位置する小国町(おぐにまち)は、森林が町土の9割を占める。標高1,500mを超える山々が20も連なる朝日連峰、険しい尾根と穏やかな稜線をもつ飯豊(いいで)連峰、2つの日本百名山に挟まれた壮大な自然と澄んだ空気に、思わず深呼吸したくなる町だ。
特に深い山あいにある小玉川(こたまがわ)集落は、全国でも有数のマタギの郷。約400年前にはマタギ文化が存在したとする史料が残り、それを未来に継承するべく、マタギを志す若い世代も途絶えることなく育っている。
「小玉川屋号マーケット」は、今回で2回目。実行委員会は、大阪府出身で養鶏家の栗本美紀(くりもと みき)さん、埼玉県出身でイラストレーターの吉田真理(よしだ まり)さんの若い2人が担う。ともに県外出身だが、小国町での緑のふるさと協力隊を経てIターンしていたり、山形市内に立地する芸術大学を卒業していたりと現在は小国町に暮らし、地域イベントの企画・運営を手がけている。
出店者はみんな「屋号」で
フリーマーケットでは、昭和に使われていた昔懐かしい食器や古着物、古道具を販売。例えば、アケビ蔓(つる)のカゴ、アデリアグラス、手拭い、着物の端切れを手縫いで合わせた巾着など。地域の皆さんのお家で眠っていたものを美紀さんと真理さんが一緒に掘り起こして、会場に持ち寄った。
売り場のところどころに置かれた布には、善右衛門、前田、八兵衛などの文字。実はこれがマーケットの名称にもなっている「屋号(やごう)」。別名「家名(いえな)」とも言い、土地を継いで農業を営み、ほぼ4つの名字が家々を占めている小玉川集落では、名字の代わりにその家の呼び名を用いて会話をする。つまりは、お家イコール出店者候補なのだ。
値付けの安さは来場者が驚くほどで、そのほとんどを十円〜数百円で購入できてしまう。「マーケットの目的は売り上げることではなく、持ち帰ってもらうこと。不思議と無料の方がなくならないので、気持ちの値段」と、真理さんは笑う。
地元産食材を使った軽食も
美紀さんが生産する「小国のたまご」、地元産のこんにゃくや山菜を使った軽食も提供。その中の1つ「手作り玉こん」は、繋ぎ不使用のこんにゃく芋100%。市販のものは芋を乾燥させたこんにゃく粉を水で溶く製法が多く、サクサクとした食感に仕上がる。だが芋自体をすりおろし練ることで出来上がる弾力は、噛むと歯を跳ね返すほどのモキュモキュッとした感触があり、「こんなの初めて!」と味わった方を楽しませていた。
このほか、地元産木材を使った木工体験ができる施設「白い森木工館」による物販(前述のコースターは、こちらによる制作)も。小国町にアトリエを構える毛糸作家「いろいろitoasobi」伊藤紀子(いとう のりこ)さんによる物販&「手紡ぎ糸でお絵かきワークショップ」や、ご実家が県内で箱作りを営まれている住民の方の提供による「工作用木片つめ放題(紙やすり・ボンド貸出)」など、予約不要で参加できるイベントは、多くの子どもたちで賑わいをみせていた。
小玉川集落の優しさと温もりを感じる空間
フットヘルパーの資格をもち、マッサージブースを出店していた小国町在住の渡辺悦子(わたなべ えつこ)さんは「内の人だと血縁地縁が絡んで、地域を盛り上げたい思いがあっても始めの一歩が踏み出せなかったりする。外から来た若い2人が働きかけてくれることで、年配の方なんか特に喜んで、フラットに力を合わせることができる。これからも一緒に色々なイベントに取り組みたい」と話す。
片付け終了後の有志のお茶会では、観光わらび園を営むお父さんが「今日なの忘れてた〜」と笑顔でやってきて、柔らかな雰囲気にすっと馴染んでいた。
特別な週末の催しというより、日々の暮らしと同じ線の先にある寄り添いのような空間で、小玉川集落の皆さんの優しさと温もりを感じることができる「小玉川屋号マーケット」。次回は10月の開催を予定。詳細は美紀さんのHP https://oguninotamago.hatenablog.com ならびに、真理さんのFacebookページ https://www.facebook.com/mari.yoshida.395 で、随時紹介していく。
【黒田あすみ通信員】1983年生まれ。山形県山形市在住。 暮らしの中にある素朴な出会いに目線を合わせて、ヒト・モノ・コトの背景を知る楽しさを伝えていきたいです。 主な取材エリア:山形市