「メディフェスせんだい2023」が今月18~19日、仙台市のせんだいメディアテークで催されます。市民手作りのメディア、地域から発信するメディア、社会の多様な人々が主役のメディア。その担い手が集い、「伝える」素晴らしさ、「伝えられない」難しさを語り合い、壁を超えて人をつなぐ試みを報告し、実践者がパフォーマンスを披露し、参加者と一緒にメディアを楽しむ2日間です。東日本大震災の被災地での開催ともなる今回の意義や見どころを、実行委員会の関本英太郎さん(73)にインタビューしました。(聴き手・寺島英弥)
地域の手作りメディアが全国に広がる
―メディフェスは「市民メディア全国交流集会」の愛称。2004年に名古屋で第1回が開催され、以来ほぼ毎年、全国各地で開かれてきました。どんな趣旨なのですか?
始まったころは、ケーブルテレビやコミュニティー放送など、市民の番組制作と地域づくりの動きが全国に広がりました。有名になったのが、熊本県山江村の「住民ディレクター」。住民一人一人がビデオカメラを手に、身近な人や出来事をニュースとして全国に発信し、村の暮らしに元気と交流を生みました。
日本発のNPO運営のコミュニティーFM局で、運営も番組作りも出演も市民という「京都FMラジオカフェ」も先駆けの一つ。そんな多彩な市民メディアを実践する人たちが、それぞれの地域での開催に手を挙げ、交流し学び合い、育ててきたイベントです。
―それまでメディアというと、新聞やテレビなどマスメディア、いわゆるマスコミのことでしたね。
はい、私たちの生活に必須なニュースや情報が、いわば一握りのメディア企業に独占されていました。それまで『受け手』であった住民が、自らの意見や地域の問題、分かち合いたい話題を、同じ住民の目線で取材し、伝え、発信する仲間をあまた広げる。メディアを住民主体の地域づくりに役立てる、地域からの民主主義を育てる、という新しい在り方でした。鳥取県米子市の『中海テレビ』の実践などで、それをはっきり知ることができます。
(注・市民制作のテレビ番組を専門に放送する『中海テレビ』が、2001年から住民と共に始めた地元の湖・中海の環境再生の呼び掛けが、大きな地域づくり運動に発展した)
誰もが発言し参加できる、開かれた場を
―2000年代半ば過ぎからスマートフォンが普及し、反比例するように、新聞の発行部数の減少という流れが起きました。スマホの登場によって、インターネット利用が日常になりましたね。
Youtube、facebook、twitterなどSNSも普及し、市民より手軽に情報を知り、表現や配信をすることができるようになりました。最近のコロナ禍の間でも、オンライン・リモートのコミュニケーションも盛んになり、メディア環境は大きく変化し、より豊かになったと言えます。
でも現実には、『個』の発信が『個』のうちにとどまり、そして一方通行の発信にとどまり、多くの問題も生まれています。私たちは、手軽にメディアを使う時代にあって、生活やコミュニティーや心を豊かにするために使えているでしょうか。
社会の多様な人からの発信がフラットにつながり、双方向の議論が深まり、共有されてさらに広がり、多くの人がつながっていく。そうした誰もが発言でき、参加できる、開かれた公共的な場や空間を、市民によるメディアを使ってつくりたい。それが、私たちの『メディフェス』での変わらぬ提案なのです。
震災伝承、地域発の発信、少数派の声
―今回の「メディフェスせんだい」の内容についてご紹介ください。
仙台では東日本大震災の後に被災地と市民メディアをテーマに開催し、本来は震災10年に合わせて2度目の仙台開催を企画していました。でも、コロナ禍で延期をやむなくされ、私たちは今回を『リスタート』のメディフェスと考えています。
初日の18日のパネルディスセッションは、震災と被災体験をどう伝えていくか、その『伝承・継承のカタチ』がテーマ。名取市閖上の被災者を取材し発信する尚絅学院大学の実践講座、震災を次世代につなごうと活動する神戸の30歳の男性リーダー、新しいメディアを原爆の記憶共有の場づくりに用いる広島の女性が登壇します。
2日目の19日はまず、メディフェスの変わらぬテーマである市民メディアの現在を語る「地域の新たな発信の形・ハイパーローカル」のセッション。地域密着新聞「恵比寿新聞」とネットワークの広がり、岩手県洋野町で仙台出身の男性が運営するローカルウェブメディア「ひろのの栞」、そして東北発のニュースサイト「TOHOKU360」の安藤歩美編集長が報告します。
そして、人のつながりと絆を深めるメディア活用を知る「誰でも社会〜社会的少数派からの発信」のセッション。ZOOM会議を通し多彩な人々が発信する「みらクルTV」、精神障碍のある人々のメディアによる発信を事業として取り組む「ここリカ・プロダクション 」、未手術トランスジェンダーで本業の傍らメディアで情報発信する「つーさん」が登壇します。
メディアを活用したい人、メディアをもっと知りたい人に楽しんでもらえる、「誰でもメディア〜最新メディアを学び、使いこなそう!」というゲスト・セッションも、2日間ともあります。
セッションと並行して7階では2日間にわたり、全国の市民や宮城の映像表現者による映画を上映します。石巻出身の映画監督佐藤そのみさんが自らの震災体験から制作した2本の自主映画も紹介します。
どうすれば、声が伝わるか?
―あらためて、仙台で開催する意義をお伝えください。
何と言っても、あの大震災から今年は13年目。その間、少しずつ復興のために懸命の努力がなされていますが、依然として当時の悲しみや苦しみから逃れることができない人が数多くいます。かつての生活を取り戻すことができず、古里の住まいに戻ることができない人々がまだまだ残されています。彼らの声は、果たしてどれだけの人に伝わり、共有されているのでしょうか。
「メディフェスせんだい2023」は、その疑問からスタートします。伝えたい、でも思いが伝わらない。では、どうすれば伝わるのか? 全国各地で活動する市民メディアの担い手が一堂に会し、その課題を前にして何ができるのか、またしなければならないのか―。市民メディアの新たな展望を一緒に見つけたいです。
【せきもと・えいたろう】東北大学名誉教授、市民メディア交流協議会世話人。共著に『地域でつくる・地域をつくる メディアとアーカイブ』(大月書店)
*「メディフェスせんだい2023」公式サイト: https://note.com/mediafes2023
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