【続・仙台ジャズノート#59】「ジャズ研究室」で自在なアドリブを楽しむ

続・仙台ジャズノート】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?
街の歴史や数多くの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化やコロナ禍での地域のミュージシャンたちの奮闘を描く、佐藤和文さんの連載です。(書籍化しました!

佐藤和文(メディアプロジェクト仙台)】2023年3月25日、「JAZZ LABORATORY」と題されたジャズライブが仙台市青葉区の遊彩工房「花言葉」ギャラリーで開かれました。サックス奏者名雪祥代さんの企画で菊田邦裕さん(トランペット&フリューゲルホーン)、佐藤弘基さん(ベース)、佐藤達也さん(ピアノ)が共演しました。馴染みのあるジャズクインテットからドラムが抜けた編成でした。ドラム「レス」なのに、何かが足りない欠乏感を伴わないライブでした。手を伸ばせば届きそうなこじんまりとした会場で、演奏者の表情や、やりとりもしっかり見えました。演奏内容もさることながら、演奏者同士のやりとりが見える場になっていた、という意味で、ラボ(実験室・研究室)らしい雰囲気でした。

前半のステージから演奏順に紹介します。名雪さんは筆者の先生であり、現在、ライブメモを作成中ですが、そのままだと、単なる生徒の復習帳を公開するだけになるので、限定的な紹介にとどめます。

I’ll REMEMBER APRIL

邦題は「4月の思い出」。あまりにも有名なジャズのスタンダードです。名雪さんのMCによると、この曲が作られたのは秋だそうです。仙台、東北にももうすぐやってくる春を思い描きながら聴きましょう。コード(和音)を刻めるベースとピアノの役割、ソロパートとしてのアルトサックスとトランペット&フリューゲルホーン。1曲目から佐藤弘基さんの創造性抜群で楽しいベースと佐藤達也さんのスイング原則をあらためて自分で確認するような丁寧な演奏が印象的でした。佐藤達也さんのピアノを生で聴いたのは今回が初めて。佐藤弘基さんの演奏はおなじみです。4人それぞれに即興演奏した後、「フォーバース」と呼ばれる即興交換を披露しました。

ジャズライブの楽しみを新たに発見できた「JAZZ LABORATORY」=2023年3月25日、仙台市青葉区の遊彩工房「花言葉」ギャラリーで

「フォーバース」は4小節ごとにアドリブを交換するジャズ演奏の定型の一つ。実際には演奏者たちが互いに目配り、気配りしながら演奏全体を盛り上げる様子がよく分かりました。全体として過剰でも過少でもない、満足感を味わえるセットでした。ドラム「レス」なのに、ドラムが一緒に演奏しているような感じになる瞬間が確かにありました。ドラム「レス」のはずなのに欠乏感やマイナス感覚を伴わない不思議。自分が学生時代から下手なりにドラムを長いこと楽しんできたため「あ、ここでバスドラムとシンバルでガーンと入る」感じを容易に想像できるせいもあるでしょうか。

以前、子どもたちも参加したパーカッションの練習の様子を取材に行った際、リズムの繰り返しのと重なるように男性コーラスが聴こえるような感じに襲われたことがあります。理屈では割り切れない不思議なことが起きるのは珍しくありません。「ドラムレス」というと、少し物足りなさを感じることが珍しくないのですが、今回は明らかに違いました。楽器の練習のための仕掛けによくあるような「マイナスワン」(サックスの練習なら、サックスのパートだけを消すことができる)とは根本的に異なります。

うーん、これは新発見かもしれないと、演奏を聴きながらひとり悦に入っていたら、演奏の合間のMCで名雪さんが「『ドラムレス』なのに、ドラムが聴こえる感じですよねえ。ベースのおかげ?」と水を向けると、佐藤弘基さんが「いやいや全員のグルーブがあってこそです」と受けていました。

WHEN I FALLIN’ LOVE

キース・ジャレット(ピアノ)の名演でも知られます。名雪さんのアルトサックスを中心に演奏されました。美しいメロディが印象的な曲です。バラードを支える佐藤弘基さんのベースラインが聴きもの。予定されていたピアニストの都合が悪くなり、急きょ、引き受けたという佐藤達也さんは、「ドラムがいないので、リズムをかなり意識するようにしました。ソロの点では少し心残りだったかなあ」と話していました。確かに、コード進行を感じられる、明快な音作りでした。ジャズ演奏学習中の筆者にとっては参考になるプレイでした。

帰宅後、名雪さんのソロに続く、佐藤達也さんのソロを譜面を見ながら追う楽しみもありました。演奏前の打ち合わせで、ピアノがイントロを自在につけていく様子やアドリブ演奏の自在な感じなど、演奏者同士のやりとりで目の前で作っていく感じもラボらしくてなかなかよかったです。

WHAT A WONDERFUL WORLD

「素晴らしきこの世界」。菊田さんのソロがフィーチャーされました。ルイ・アームストロングの名曲。菊田さんがピアニストと共演する様子がYouTubeで公開されています。新型コロナウイルスのせいもあって、ネットを使ったミュージシャンの活動には目覚ましいものがあります。ジャズ関係のコンテンツも追いきれないほどです。「仙台ジャズノート」を取材するようになって、ネットをウォッチするのが重要な仕事になっています。

大量のジャズコンテンツが公開されている中で、YouTubeの演奏例をトピックで紹介するケースも増えています。菊田さんの演奏を収録したYouTube動画 は230万回再生されており、「あなたのように演奏したい」とのメールが米国から届いたそうです。菊田さんは「多くの人がこの動画を見てくれており、いろんな場所に行っても、初めましてじゃなくなっている」と、ネットの効果に驚いているようでした。

▶菊田さんを紹介したTOHOKU360の記事
https://tohoku360.com/jazz2-15/

▶菊田さんの「WHAT A WONDERFUL WORLD」を聴くことができるYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=GVG-aKisi4I

<ディスクメモは休みます>

この連載が本になりました!】定禅寺ストリートジャズフェスティバルなど、独特のジャズ文化が花開いてきた杜の都・仙台。東京でもニューヨークでもない、「仙台のジャズ」って何?仙台の街の歴史や数多くのミュージシャンの証言を手がかりに、地域に根付く音楽文化を紐解く意欲作です!下記画像リンクから詳細をご覧下さい。

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