「さがせ、必ず有る」秋田・男鹿半島の漁師のリサイクル工房

【文・写真/土井敏秀=秋田県男鹿市】秋田県男鹿半島西海岸の海辺の小さなムラ「加茂青砂集落」に、20年近く続いている「趣味」のリサイクル工房がある。作業しているのは漁業大友捷昭さん(72)。古くなった電化製品などを引き取り、他の道具に作り直したり、部品ごとに分けて取っておいたりしている。平屋の作業所の中は、そういった「捨てられたもの」が、きれいに仕分けされている。大友さんは「物は壊れてもらわないと、面白くないなあ。それを直す喜びが、ま、オレの趣味だ。趣味だから、金なんかもらわれね」と笑い飛ばす。

作業所の前に建つ大友捷昭さん

加茂青砂集落は、日本海に扇状にぽっかりと開いた地形。約800㍍の海岸線沿いに、家々が建ち並び62世帯116人(2017年4月現在)が暮らしている。この集落出身の大友さんは、北海道でトロール船に乗ったり、関東方面でしゅんせつ船に付いて、イカリを沈める動力船に乗ったりしていたが、1968年に故郷に戻り、漁師と観光船の船長で稼いだ。

「もともと機械類が好きで、この中はどういう仕組みになっているのか、分解して調べる。それをまた組み立てる。そりゃあ、失敗もあった。だが、それだから正解に近づく。古い掃除機を直して、船のエンジンルームの掃除に使う。いいねえ。たとえタバコ代で買える部品でも、廃品を使って直す。いいねえ」

海がしけた日は、リサイクル作業日和

大友さんの作業所には、何枚かの張り紙があちこちに。「さがせ、必ず有る」。大友さんには、使わなくなった電気製品を「持って行って」と声がかかる。ハマの数か所にゴミ箱を置き、金属類でいらなくなった物を収集もしている。大友さんは「ハマもたいしたきれいになったんでねえが」と笑顔に。作業所にある機械類、部品のほとんどは、「地元産」。「今はインターネットで探せば、どんな中古品でも、部品でも、安く手に入る時代だしな」

排水溝からハンカチを取り出した道具

こんなこともあった。近所の家で、排水溝に大きなハンカチが入り、詰まってしまった、という。相談を受けた大友さんが図面を見ると、直角に曲がっている個所が2カ所。内視鏡で使うファイバースコープのようなものはないか、と作業所内を探す。あった。船の自動操船で使ったケーブル。先に釣り針状のものを取り付け、排水溝の出口から差し込んでいく。引っかけて取り出せた。金属を切る切断砥石は小さくなると危険なので、普通は捨てる。大友さんは取っておく。壊れた扇風機のエンジン部分を直して、その砥石を付ければ「電動研ぎ機」の出来上がり。これだとステンレスの包丁も研げる。

扇風機のエンジンを使った「電動研ぎ機」
扇風機のエンジンを使った「電動研ぎ機」。ステンレスの包丁も研げる

「もったいない」が「MOTTAINAI」という「環境保護用語」として、世界的に広まりそうになったのは、2000年代だった。2010年代になると、今度は「断捨離」がブーム。「もったいない」にブレーキがかかる格好となった。そんな世の中の移り変わりに関係なく、大友さんは海がしけた日には、想像を働かせながら、作業に励んでいる。

大友さんが集めた部品のほんの一部