新聞記者から社労士へ #13 時を忘れて仲間と語らう

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

なかなか効かないギアチェンジ

退職後、町内会の役員に選ばれ、会の行事に忙しかったり、民生委員になって一人暮らしの高齢者に声掛けしたりする方を見受けますが、長い会社勤めの後に、地域社会と深くかかわる例はそう多くないでしょう。当方も記者現役のころは、家には寝に帰るようなもの。3~5年毎に転勤を繰り返しており、地域社会との密着度は薄く、退職後もその習性が抜けず、地域に溶け込んでいるとは言えません。

2011年3月、東北地方を襲った東日本大震災。余震が続くと、玄関のドアがノックされ、「大丈夫ですか」。町内会が食料の調達先や、水の補給、ごみ収集の情報などを伝えてくれ、地域の有難さ、大切さをかみしめた次第です。

しかし、その後、町内会活動には、年に2回ほど開かれる集会所や公園の草むしりに参加するくらい。地域社会の一員となるには、会社をリタイアした後、ギアを入れ直すほどの積極性が求められ、時間のほとんどを会社に費やした元サラリーマンにとっては容易なことではありません。

社労士の方々とのお付き合いも深いとは言えません。当初は月1回のペースで開かれる社労士有志の労務管理研究会や年金研究会に参加し、友人づくりに努めようとしましたが、当方のように自由に時間を有する方は少なく、皆忙しそうです。「帰りに一献」という雰囲気でもなかったのです。

それでも、労務や年金を得意とする数人の社労士と知り合いになり、処理しなければならない案件が複雑で困ったときなど相談の電話を入れます。丁寧に、親切に助言をいただき、助けられたこともありました。

社労士は、資格取得後すぐ開業するケースが数少なく、行政、銀行、商社や、製造、建設、流通などの会社からの転職組など多様な人がいます。交流を深めれば、さまざまなことを学べるのでしょうが、やはり仕事のことが中心になり、第二の人生を送る者とは少し隔たりがあります。

同じ釜の飯を食った仲間

結局、杯を交わし、気兼ねなく話せるのは、会社の同期入社や先輩、後輩、いわゆる同じ釜の飯を食った仲間です。30数年間一緒に仕事をし、互いに知り尽くしており、ある意味では、女房以上に付き合いが深かったとも言えます。そんな友人が幾人かおり、退職後も時々会うのを楽しみにしております。

話すことで刺激を受け、元気が出たり、心が晴れたりします。趣味や政治の話しに始まって、老々介護、子どもや孫、相続、お墓のことまで。

「居づらくなったら、この課に行くとお茶ぐらい出してくれる」。当方が初めて外勤の記者として「サツ回り」になり、オロオロし、身を置く場所を探していたとき、同期入社の友人の言葉に救われました。早朝から夕方までずっと担当警察署にいることが義務付けられていた当時です。前任者として各課の配置図、課長の人柄や、捜査中のネタなどをメモし、引継ぎをしてくれました。

文章力抜群の友人。とても叶わないから、「せめて出稿量ぐらいは同じにしたい」。当方が曲がりなりにも記者をやって来られたのは、そんな刺激を受けたことが原点かと振り返っています。

齢をとって同じ職場にいた別の同期の友人。退職後は2時間弱の歩きと囲碁がルーティーン。歩きは健康の基礎だと教わりました。四国の札所巡りや流氷が見られる冬の北海道・オホーツク海、九州の対馬や天草など全国を旅しています。ときに、政治談議も。「コロナ対策は現場感覚と大きくズレ、後手に回っている」「トランプは行き当たりばったりであまりに酷い」。老人が何を青臭いことをと笑われるかもしれませんが、盛り上がるのです。

アメリカ、中国の旅を呼び掛けたら乗ってくれた2人の友人。この30年ずっと車で福島競馬場に連れて行ってくれる友人、時々メールが来て昼飯を共にする先輩。この「定年10年ドタバタ記」を「TOHOKU360」に掲載をすることになったのも、会社勤め時代にチームを組んで仕事をした仲間のつてがあったからです。

人との比較は意味がない

思い起こせば、会社に入社し秘かに誓ったのは配属された部署のお荷物にならず、早く一人前になろうということです。

それが会社にいて、仕事にも慣れてくると、サラリーマンの宿命でしょうか、段々他の人と比較してしまうのです。

「あのポジションをやってみたいが、さっぱり回してくれない」
「頑張ったのに、公正公平に評価してもらっていない」
「同期は管理職に昇格し、自分は遅れている」

腐ったり、他人を妬んだり。査定され、部署や転勤先が決まる春の人事異動の季節にあまり良い思い出はありません。

翻って、会社にとってどれほど役に立ったかと問われれば、声を小さくするしかありません。殊に「忠誠心」は、最低ランクに位置していただろうと自認しています。経験上、自身の性格や仕事ぶりは、指示を受けたとしても、そうたやすく変わるものではなく、変に曲げてしまえば自分らしさを失いかねません。

会社は、さまざまな個性を持った人の集まりです。会社は、会社を上手く機能させることを第一にし、その下で所属する人を動かします。会社には代わるべき人はたくさんいて、またいなければ困るのです。だから下手に感情移入しても、本人の意向を叶えられる例は数少ないでしょう。今更ながらですが「自分は自分。他人との比較は意味がない」つくづく思います。会社との関係は仕事をして相応の報酬をいただく契約関係と割り切るのも一つの考えだと思います。

一方、働く現場でつくられる友人は全く別物と言えます。同期入社はライバル、出世争いのような目で見られがちですが、長年仕事をする中で、好きか嫌いか、気が合うかどうかなど、自分の意思、選択で決まっていきます。接近したり、疎遠になったりすることはありますが。

齢をとって来ると1人でいるのは寂しいものです。話せる友が何人かいて良かったと、正直思っています。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. まずは働きがいのある職場環境
第2章 縛りがない日常の中で
1. 見たい 聞きたい 知りたい
2. 何とか暮らしていければ
3. 時を忘れて仲間と語らう
4. めげずに

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