新聞記者から社労士へ #10 心身を壊してまでする仕事はありません

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記
「貴君の大学採用の件、極めて困難な状況になりました」。新聞社を60歳で定年退職したら、当てにしていた再就職が白紙に。猛勉強の末に社会保険労務士資格を取得して開業してからの10年間で見えた社会の風景や苦悩を、元河北新報論説委員長の佐々木恒美さんが綴ります。(毎週水曜日更新)

ここ2年ほど、宮城県社労士会、全国社労士会連合会の働き方改革推進支援センターに所属し、電話、面談による相談や企業訪問の仕事をしておりました。働き方改革については、さまざまな意見があると思いますが、それぞれの個性が十分発揮できるよう、まずは働き良く、働きがいのある職場環境を整え、結果として事業がスムーズに運営されることだと考えています。

お互いさまの意識共有 

爺ばかですが、誰に似たのか分からないほど、元気の良い小学2年生の女の孫がおります。東京に嫁いだ長女が産む1か月ほど前に仙台に帰り、仙台の病院で孫が誕生する際は、長女の夫と2人で待っておりました。

産後2か月ほど我が家で生活。むずかったり、夜泣きをしたり。ミルクをうまく飲めるかどうか、はらはらして見るにつけ、育児の大変さを実感しました。成長するに伴い、ちょこちょこ歩き始めて何かにぶつからないか、風邪をひかないか。聞き分けがあるようになるまで心配は尽きないでしょう。

2人の娘のときは女房や女房の実家任せで、高熱の病気や怪我の際、「いつも大事な時にいなかった」と未だに言われています。仕事の忙しさにかまけてあまり手助けせず、それが弱みになっています。

介護をどうするかも、誰しもが直面します。両親はともに、当方が東京勤務時代に病気が高じ、同じ病院の一室に入院しておりました。最初に母親が73歳で逝き、その半年後76歳の父親も。仙台に転勤後、1人になった父親を連れて来て一緒に暮らしたのはわずか2か月ほど。その頃、父親は家の階段さえ上がるのに苦労する状態でした。

齢を重ねれば、心身が衰え、食事や入浴、排せつなど日常生活の支えが必要になります。今90代の義母と同居しながら、リハビリや入浴介護のヘルパーさんや訪問医療の先生にお世話になり、感謝しています。育児、介護ともに落第生だった者が言うのも口幅ったいのですが、人は、育児や介護などの経験を通して、世の中のことが少しずつ分かって来、他人への感謝や共感が進むと考えています。そして育児や介護には、職場の温かみのある支援が要ります。働き方改革は、お互いさま意識を共有、理解し合うことかな、と考えているところです。

労使ともに知恵を出し合って

初めて罰則付き時間外労働の上限規制がなされ、長時間労働の是正が目玉になっている働き方改革。皆さま記憶にあると存じますが、広告大手の女性社員=当時(24)=が2015年12月、都内の社宅から投身自殺したニュースは、社会に大きな衝撃を与えました。

労基署の調査によると、女性は4月入社、10月本採用されインターネット広告を担当する部門に配属され、業務が大幅に増えました。11月うつ病を発症したとみられ、発症前の残業時間が105時間に上っていたと言います。SNSで「死にたい」「疲れた。もう午前4時」「休日返上で作った資料をボロクソに言われた もう心も体もズタズタだ」などと悲痛な叫びを発していたようです。成績が優秀で能力があり、皆に好かれていた女性。

その後、運輸、流通、サービス業など、日本でも名だたる企業で長時間労働が慣行化し、パワーハラスメントなども加わって精神疾患に陥る労働者の事例が多数発覚しました。世界第3位の経済大国と言われる日本の経済成長が、薄ら寒い労働環境の下でなされていることを知り、愕然とした人も多いでしょう。

地方でも特定の部門に仕事が偏り、一部の人が長時間働く例を目にします。何をどう変えれば良いのか。それを知っているのは現場だと思うのです。労使ともに、知恵を出し、効率良く、働きやすい職場を目指してほしいものです。心身を壊してまでする仕事はありません。

頑張る人に正当な評価を

働き方改革のもう一つは、契約、パート、嘱託、派遣、アルバイトなど非正規社員の方の処遇の問題。非正規社員の割合は、いつの間にか4割を超えてしまいました。会社はこうした人たちに支えられ、成り立っています。

会社勤めの現役時代、兼務発令され関連会社にいたとき、総務部門に転職の女性が契約社員として入社。1年もたたないうちに、経理などをきちんと覚え、代え難い貴重な戦力となり、暫くして正社員に発令されました。非正規社員は、契約期間が設定されており、その中で実績を評価されますから、とても頑張る方が多いのです。

それにもかかわらず、採用形態がまるで身分制度のように固定化し、正社員に比べ賃金は6~7割、景気の動向などにより、雇用の調整弁として契約更新されない場合があります。働き方は個々人、多様化し、自身の時間を大切にしようと、何かと縛られる正社員を避ける方もいらっしゃいます。それはそれで良いのですが、問題は希望しても正社員になれない方がたくさんいることです。

新型コロナウイルスの感染拡大により、企業活動が縮小し、求人は減少気味です。在宅勤務の採用など、働くスタイルも変わっていくでしょう。それでも、人口減少社会が続く日本では、基本的には人手不足が続くと推察されます。今、仕事ができる非正規社員を正社員に登用するチャンスだ、と思うのです。非正規社員として2年も、3年もいる方は、会社が必要としている人です。そうした方をワンステップ高いところで、責任を持って働いてもらうことは、会社のスムーズな運営や事業拡大にも結び付くと固く信じています。

【連載】新聞記者から社労士へ。定年ドタバタ10年記

第1章 生活者との出会いの中で
1. 再就職が駄目になり、悄然としました
2. DVD頼りに、40年ぶり2回目の自宅浪人をしました
3. 見事に皮算用は外れ、顧客開拓に苦戦しました

4. 世間の風は冷たいと感じました
5. 現場の処遇、改善したいですね
6. お金の交渉は最も苦手な分野でした
7. 和解してもらうとほっとしました
8. 悩み、苦しむ人が大勢いることを改めて知りました
9. 手続きは簡明、簡素にしてほしいですね
10. まずは働きがいのある職場環境

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