【鈴村加菜通信員=宮城県仙台市】 東日本大震災では「災害時にペットをどうするか」が大きな課題となった。避難所に連れて行けず、犠牲となったり、飼い主と離れ離れになったりしたペットも多い。また、ペットを案じて避難先から自宅に戻った人、ペットを受け入れる避難所を探している間に津波に巻き込まれた人もいる。被災地のペットを支援してきたNPO法人は「ペットを守ることは人を守ること。飼い主は、日頃からペットも家族の一員として、地域で認めてもらえるよう努めておくことが必要」と訴える。
震災が起きたとき、ペットは
東日本大震災後、仙台市動物管理センター(アニパル仙台)には、「被災地のペットを救って」という声とともに全国各地から大量の支援金や物資が届いた。さらに、被災した犬や猫を引き取るため、東京や沖縄などから仙台を訪れる人が続々と現れた。震災から7年が経過した今も続いているというこれらの支援。当時の動物管理センター担当者は「ペットは家族の一員で、その命も人の命と同じ重さであるという認識が広がりつつあると感じました」と話す。
全国各地から支援の手がさしのべられた一方で、震災によって犠牲になったペットや、飼い主と離ればなれになったペットもたくさんいた。
震災発生時、それまで災害時にペットをどうするかはあまり考えられていなかった。そのため、避難所へ連れて行って良いのかの判断がつかず、多くの飼い主がペットを置いて避難した。置いていかれたペットは津波に巻き込まれたり、飼い主や食料をもとめて自宅を離れてしまった。
飼い主がペットを連れて避難した場合でも、周囲の避難者から、衛生面の管理やしつけが不十分なペットがいることへの不安の声が挙がった。また、避難所によっては、そんな周囲の声などを理由にペットが受け入れられない場合もあった。
ペットのための備えを
仙台市の動物救護対策本部の一員として、被災地のペット支援などにあたったNPO法人エーキューブによると、飼い主は日頃からペットも家族の一員として地域で認めてもらえるよう努めておくことが必要だという。
エーキューブの齋藤文江さんは、「避難所ではみんなが緊張や不安な気持ちを抱えています。そんな中で不十分なしつけや不衛生なペットがいれば非難の的になりやすくなってしまいます。普段から一緒に生活しているので無頓着になりがちですが、飼い主はワクチン接種やノミダニ対策などを普段からきちんと行っておくべきでしょう。また、ペットに首輪や名札など所有者がわかるものをつけておくことや一緒に避難所へ行けない場合に備えて友人や親戚で預かってもらえるところを事前に決めておくことも必要です」と話す。
ペットを含めて地域に認められるため、散歩中などに、地域の人々とコミュニケーションをとっておくことも大切。実際に、震災時、一度受け入れを拒否されたものの、ペットのことをよく知る近所の人から「お宅の犬なら大丈夫」と避難所に引き入れてもらえたケースがあったという。
エーキューブや仙台市動物管理センターでは日頃から、ペットの防災に関する講座を学校や市民センターで行っている。6月23日には仙台市青葉区の片平市民センターでペットと防災をテーマにした地域防災講座を開き、震災時の事例とあわせ、日頃の備えについてのポイントや避難のために必要なクレートトレーニング(ペットが飼い主の指示で、「クレート」という持ち運び可能なケースのなかにスムーズに入り、大人しくしていられるよう慣れさせる訓練)の方法が示された。
ペットを守ることは人を守ること
齋藤さんは講座で参加者に「ペットを守ることは人を守ること」と呼びかけた。震災時には、自宅に置いて行ったペットが「やっぱり気になる」といって戻り二次災害に遭った方、ペットが受け入れられなかったため別の避難所に移動中、津波に巻き込まれた方、車中泊を選んで体調を崩し亡くなる方もいた。齋藤さんは、「緊急時、まずは安全のため避難所にペット連れの方も受け入れていただきたいものです。ペットを飼っている人も飼っていない人も同じ避難者で、人の命を守ることを優先に考えて欲しい」と話す。
一方で、ペットの存在が交流のきっかけになって、避難者の心を和らげたり、避難所を回る中で「この子(ペット)がいたから頑張れた」と話す人もいたという。
エーキューブでは震災発生の数年前からペットの防災に関する啓発活動を行っていたが、震災当時、避難所を回ってみた限りではペットのための備えがしっかりできていた飼い主はごく一部だったという。齋藤さんは話す。「何より、ペットの存在は飼い主の心の支えになります。いつ起きるかわからない震災で人の命とペットの命を守るため、飼っている人も飼っていない人も、ペットの防災について少しでも関心を持って考えて欲しい」