【仙台市長選の視点 #2】人はどうやって投票先を決めている?

連載:仙台市長選の視点】2021年の仙台市長選が今月18日告示され、8月1日に投開票日を迎えます。現職対新人の一騎打ちとなった今回の選挙の意味を、私たち有権者はどう捉えればいいのでしょうか?投票に興味が湧くような「仙台市長選の視点」について、誰もが政治を語り合える場づくりを仙台で行なっている「NPO法人メディアージ」顧問の池亨さんに寄稿してもらいました。

*全4回の連載の2回目です。前回の記事はこちら

そもそも選挙で代表者を選ぶとき、人々はどんなことを考えて選んでいるのか。この点を少し整理しておきましょう。この整理が今回の仙台市長選を位置付ける上で大切なポイントになるからです。政治学における投票行動分析では、人々がどのようにその代表を選ぶに至ったのかについての研究がなされており、いくつかの見方がなされています。

①「政策」で決める(争点投票・政策投票)

例えば、あなたはいま買い物をしようとします。それも生活を左右したり、一生に一度になるかもしれない大きな買い物です。自家用車や、家や土地をイメージしてください。どうやってその商品を選びますか?

自分の好みや将来の暮らしに合うものだろうか、後々面倒な問題が起こらないだろうか……などと考えながら、カタログを各社から取り寄せたり、実際にその商品(モデルルーム)を見に行ったり、販売員や営業担当者にいろいろと質問することになるはずです。

政治の世界、選挙においては、これは各候補者や政党の政策の違い(争点)を比べ、候補者の訴えを聞きに行き、そこから自分にとってベストな(またはより悪くない)代表に票を投じるやり方です。民主主義における選挙の理想的なありかたとされるこのようなモデルを、「争点投票(政策投票)」と言います。私たちが一般的に選挙と聞いてイメージするのも、このような選び方です。

しかしこのやり方、確かに理想的ではありますが多忙な現代人にはいささか大変で、個々の商品=候補者のあらゆる情報を集めてその違いを見出すには、手間ひまがかかります。その手間ひまを少しは和らげるよう、候補者個人ではなく所属政党(商品でいうところのブランド)というパッケージで大まかに比べる場合もありますが、それでもやはり手間ひまはかかります。

選挙の形式としては、
・複数の政党が争う国政選挙=商品やブランドが広く見渡せるような百貨店での買い物
・ひとつの席を複数の新人候補が争うような選挙=初めて手にする商品の品定め

などでは、こういう「争点投票」に近い選び方の要素が出てくると言えるでしょう。

②「業績」で決める(業績投票・業績評価モデル)

しかし、買い物のたびに真剣に情報集めをしていたら、疲れてしまいます。繰り返しの買い物なら、慣れ親しんだブランドを信頼して商品を選ぶことも多いでしょう。これまでに購入した商品に特に不満なく、以前と同じようにそこそこ満足できるのなら、とりあえず次も同じブランドのものを買おうというスタンスです。

多くの人が支持をしていて、自分自身もこれまで買ってきたものを信用する。あるいは、これまで自分では買っていなかったけど、評判のよいブランドがあるなら考えてみるか……と商品選びをするのに近い、こうした選び方を選挙では「業績投票(業績評価モデル)」と呼びます。

これは特に、現職が優位とされるアメリカの大統領選挙で見られる選び方です。日本の場合も、地方自治体の首長選挙はこれに近い仕組み(=二元代表制)と言えます。

政策(商品)の性質について、こまごまとした検討はしないけれど、これまでの実績に満足している(またはさしたる欠点がない)なら次もまあいいだろう。もし、明らかに品質やサービスが落ちたと思ったら、その時は他の会社の製品に変えるかどうかを検討する。そういう選び方です。今回の仙台市長選は、この要素がかなり強いとみることができます。現職の実績に大きな不満や欠点がないかどうかが問われる選挙といえます。

なお、この②のタイプの派生的な形には「懲罰投票」というものもあります。それまで政権を担う側だった政党・候補者が政権運営に失敗したと思われると、普段の支持者であっても、これを懲らしめるために対抗する政党や候補者に投票を集中させるケースです。

2009年の衆院選での民主党の圧勝、2012年の自民党の大勝など、国政選挙で見られるもので、政党選択が前面に出ず、議会の議席の増減が首長の選出にかかわらない自治体首長選挙ではそもそも類型に当てはまらないのですが、選択基準に現状への「拒否」が先立つ選び方のひとつとして頭に置いておきましょう。

③「人」で決める(個人投票)

これまでに紹介した二つの例とはやや違った位置づけになりますが、政策のパッケージを表す政党や個々の政策に着目するよりも、その売り手=候補者本人の人格や関係性に注目して判断する選挙もあります。いわば、懇意にしているセールスマンや、知り合いのお店から買い物をする、というケースです。

時に、会社のトップセールスマンが他社へ移籍した場合にごっそりお客さんを持って行ってしまうことがあるように、商品(政策)の中身よりも、その売り手(候補者個人)に重みがあります。ここでは一部の政党や候補者間に強い信条・政策の差があまり感じられなかったり、そうした差が重要視されない、55年体制下、衆議院選挙の中選挙区制でみられた傾向です。とくに同じ自民党で、派閥の違いから複数の候補者が出るケースが多くありました(なお、政策選択の選挙、政権交代の繰り返しを目指して1994年に小選挙区比例代表並立制が導入されたあとは政党を重視する傾向が年を追うごとに増える傾向です)。

品質やサービス、ブランドをまったく気にしないわけではないでしょうが、基本的にはその売り手の人柄を信頼して買い物をするように、候補者個人を見込んで投票するようなケースは「個人投票」と呼ばれます。

政党色の薄まる自治体の地方議会選挙(とくに規模の比較的小さい自治体)や首長選挙では、住民と政治家の距離も近いため、この傾向が強くなると言えるでしょう。

以上のように、一口に選挙といっても、投票に至るまでの一人ひとりの考え方、その総体として選挙全体の傾向には、制度的な要因も絡んでいくつかのパターンがあります。それらを踏まえて、次回はいよいよ、どのように選挙結果を読み解くことができるかを解説します。(つづく)

池亨(いけ・とおる)

1977年岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学講師(非常勤)、(株)ワオ・コーポレーション能開センター講師等を経て、現在、(株)日本微生物研究所勤務。NPO法人メディアージ顧問。

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