【仙台市長選の視点 #3】2021年市長選の性格と投票率予測

連載:仙台市長選の視点】2021年の仙台市長選が今月18日告示され、8月1日に投開票日を迎えます。現職対新人の一騎打ちとなった今回の選挙の意味を、私たち有権者はどう捉えればいいのでしょうか?投票に興味が湧くような「仙台市長選の視点」について、誰もが政治を語り合える場づくりを仙台で行なっている「NPO法人メディアージ」顧問の池亨さんに寄稿してもらいました。

*全4回の連載の3回目です。前回の記事はこちら

2021年市長選の性格と投票率

第2回では選挙での投票先の選び方、投票傾向のモデルについて追ってみました。もちろん現実の政治状況はもっと複雑ですから、いずれかのパターンにそのまま当てはまるわけではありませんが、それぞれの選挙の性質によってどの要素が強く出るかという傾向は見られます。

今回、2021年の仙台市長選は現職と新人の一騎打ちです。前回示した3モデルの中では、『②「業績」で決める(業績投票・業績評価モデル)』の側面が強くなるでしょう。

なお、現職の郡候補は前回に続き今回も無所属での出馬となりましたが、前回2017年は民進党・社民党の支持や共産党・自由党の支援を受け、事実上の国政与党対野党の対立構図になりました。一方今回は同じ「無所属」でも、間接的に議員個人や地方組織の自主応援を受けるというかたちを取って、実質的には自民党関係者から共産党まで、広い基盤のもとに選挙戦を戦っています。

そうなると、政党の地域政策(争点)の違いはほとんど見えなくなり、「個人」をどう選ぶかが焦点になります。そういう意味では、今回の選挙は『③「人」で決める(個人投票)』の要素もあるといえるでしょう。

新人の加納氏も、前回2017年に続いて2回目の立候補ながら、長い準備期間を経て広い支持基盤を固めつつ満を持してというよりは、「市長選の無投票阻止」のため急遽出馬しており、政党の推薦や支持を得られていません。

河北新報2021年6月27日付記事によると、市長選に先立ち、仙台市労連(自治労系)のシンクタンクである仙台地方自治研究センターと社民フォーラムが今年2月に共同で実施した市民アンケート調査があります。

この調査では、郡市長を「評価する」「どちらかといえば評価する」と答えた割合が50.5%。「あまり評価しない」「評価しない」と答えた人は24.63%という数字が出されています。

この割合がそのまま両候補の得票として現れるわけではありませんが、仮にこの数字を前提として、評価しない傾向の人がすべて加納候補に投票したとしても、接戦に持ち込むには相当なハードルがあるとは言えそうです。あとは新人の加納候補が選挙期間中にどれだけ浸透を図れるかにかかっています。

このような状況を踏まえ、誰を選ぶかにくわえて、「投票所に実際足を運ぶかどうか」を有権者はどのように決めているのかについても、見ておきましょう。

有権者は投票所に行くかをどう決める?

政治学の投票行動分析では、投票への参加意欲(R)は次のような要因で決まると考えられています(ライカーとオードシュック、グッドとメイヤーらのモデル)。彼らのモデルを式で表すとこうなります。

R=P×B-C+D

小難しそうに見えますが、それぞれの記号が表しているのは、以下のような要素です。

P……選挙が接戦になるかどうかについての主観的な確率:「接戦になりそうだ」と有権者がどれだけ思っているか。あくまで主観的な可能性

B……政党(候補者)間の期待効用差:個々の有権者がaという候補とbという候補を選ぼうとするとき、aへの期待度を100として、bへの期待度が60とすると、期待度の差は40となります。この期待度の差が大きいと投票に行きたくなり、どっちも変わり映えしないなと思うと逆に投票への足が鈍ります

C……投票参加を妨げるような要因(投票コスト):たとえば投票日に雨が降ったりすると投票所へ足を運ぶ面倒臭さは増します。他にも、投票所が遠くて交通手段がないとか、投票のために旅行をキャンセルしなければならないなどの状況も妨げになります。これが投票コストです。もちろん現状のコロナ禍も、投票コストとなるでしょう。反面、期日前投票はむしろこのコストを引き下げる方向に働きます

D……投票の長期的利益(民主主義への信念):投票に行くことは長期にわたって政治をよくするだろう、自分の生活にとってプラスになるだろうという見込みをどの程度信じられるか

R……以上の変数から導き出される、有権者が投票によって得るだろうと思われる利益があるかないか、すなわち投票に参加する可能性(投票率に反映)

あまり難しく考えず、しかしこの要素を念頭に置いて過去の市長選を眺めて見ましょう。

仙台市長選の投票率の傾向

過去、1993年の藤井黎市長期からの投票結果を折れ線グラフにしてみました。

候補者が比較的多い新人同士の構図では、投票率はほぼ40%台前半で推移しています。

1993年はゼネコン汚職による石井亨市長逮捕による出直し選挙で、政治への不信感からか投票率がやや低調でしたがそれでも40%に近い数字です(藤井市長が一期目の当選)。

また2001年は現職市長も出馬しましたが候補者が8名と多く、参議院選挙と同日選挙だったこともあり、56.26%と高い投票率でした。これは特異な例とみていいでしょう(結果、藤井市長が三期目の当選)。

いっぽうで、対立候補が少なく、現職と新人との一騎打ちの構図(1997年藤井市長二期目と2012年の奥山市長二期目)の場合、投票率は30%そこそことはっきり下がることが見て取れます。さらにどちらも現職候補に与野党が事実上相乗りの構図となっており、今年2021年の選挙とも類似点が見られます。過去のデータに鑑みると、今回の投票率もこの30%程度になることが予想されます。

趨勢はあっても「メッセージ」を与えるための戦略的投票はできる

投票傾向のモデルや、仙台市の過去の選挙の傾向を振り返ると、今回2021年の仙台市長選挙では、郡和子候補の当選可能性は確かに高いと言えますが、当日までにどう投票するかを考えて有権者が行動し、その結果として見えてくる投票率や得票数を過去の選挙結果と比較することで、当の政治家に対するメッセージの与え方も変わって来ます。次回の最終回では、私たちが与えうる「メッセージ」のいくつかのパターンと、その目安を考えてみることにしましょう。

池亨(いけ・とおる)

1977年岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学講師(非常勤)、(株)ワオ・コーポレーション能開センター講師等を経て、現在、(株)日本微生物研究所勤務。NPO法人メディアージ顧問。

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