【仙台市長選の視点 #4】あなたの一票で、どんなメッセージを与えることができる?

連載:仙台市長選の視点】2021年の仙台市長選が今月18日告示され、8月1日に投開票日を迎えます。現職対新人の一騎打ちとなった今回の選挙の意味を、私たち有権者はどう捉えればいいのでしょうか?投票に興味が湧くような「仙台市長選の視点」について、誰もが政治を語り合える場づくりを仙台で行なっている「NPO法人メディアージ」顧問の池亨さんに寄稿してもらいました。

*全4回の連載の4回目です。前回の記事はこちら

趨勢はあっても「メッセージ」を与えるための戦略的投票はできる

これまで3回に渡って、投票傾向のモデルや、仙台市の過去の選挙を振り返ってきましたが、改めて今回の2021年仙台市長選挙を見てみると、郡和子候補の当選可能性は確かに高いと言えそうです。しかし、当日までにどう投票するかを考えて有権者が行動し、その結果として見えてくる投票率や得票数を過去の選挙結果と比較することで、当の政治家に対するメッセージの与え方も変わってきます。連載のまとめとなる今回は、今回の投票結果が示すそのメッセージについて、考えてみることにします。

さらに言えば、今回の選挙に限らず、あなたが選挙でどの候補に投票すべきか、あるいはそもそも選挙に行くべきかどうか、という悩みについても、どんな「メッセージ」を与えるべきかという観点から、今回のまとめが参考になるかもしれません。

現市政(候補者)への評価のタイプ

まず、今回の仙台市長選挙のような現職と新人による一騎打ちの選挙を例に、有権者が候補者をどのように評価するのか、4種類に整理してみます。

【タイプA】現職積極的支持の有権者 :現職の候補に引き続き市政を任せたいので、積極的に投票する。

【タイプB】現職消極的支持・追認の有権者:「まあ現職の候補が続投だろう」と思ってはいるが、それほど強い支持ではなく、あえて選挙に足を運ぶほどではないか、白票(無効票)を投じる。

【タイプC】現職への積極的批判姿勢の表現(疑似バッファープレイヤー的投票):新人を支持しているわけではないが、事前の予測に反した接戦状況をつくりだそうとあえて対立候補(新人)に投票する。

【タイプD】新人への積極的支持/現職への懲罰投票:新人こそが現職よりも市長にふさわしいという積極的支持。あるいは、何がなんでも現職を拒否するために、受け皿としての対立候補(新人)に投票する。

すべての選挙にこの4つのタイプが直接いつも当てはまるわけではなく、また一票にかける有権者の想いは様々なものがあると理解していますが、全体を見通した際には、おおよその傾向として有権者が候補者をどう評価するかタイプ分けができます。

言い換えれば、ある選挙において、候補者の得票数や全体の投票率を見れば、有権者のどんなタイプがどれだけいたのか、を読み解くことができます。どの候補が当選するか、という多数決による選挙結果とは別に読み解くことができるこの「タイプ」こそが、当の政治家に伝えることができるメッセージなのです

最後に、このメッセージの読み解き方を解説します。

票数や投票率が発するメッセージ

ここからは、具体的に今回2021年の仙台市長選挙に当てはめて考えてみましょう。

まず、【タイプA】のように考える有権者は、郡候補に投票するでしょう。現職としての郡市長の業績を評価し、わざわざ投票所に足を運んで(強い)信任を与えたいと思っている人がどれだけいるかが、郡候補の得票数としてそのまま現れます。単に対立候補より多く得票して当選すれば良いということではなく、どの程度得票したかが注目されます。

中でも以下の2つがポイントです。

①現職郡候補の票が、前回(2017年)の自身の得票数・絶対得票率をどの程度上回るか
②前市長・奥山氏の二期目当選時(2013年)の絶対得票率を上回るかどうか

※絶対得票率とは:(得票/当日有権者数)投票に行かなかった人も含む全有権者数のうち、ある候補者の得票数の割合。選挙の実施年によって有権者数は変動するため、異なる時期の選挙を比較する際は得票数よりも絶対得票率のほうが比較に向いている。

郡候補が市長選に初出馬し当選した前回2017年選挙では、奥山前市長の一期目当選時(2009年)よりも絶対投票率は1%弱下回っています。菅原裕典候補という強力なライバルがいたことが作用しているでしょう。

2009年選挙と2017年選挙の絶対得票率の比較

今回は競争相手が減り、事実上の与野党あいのりで支持層も広がっているはずですから、得票も絶対得票率も前回よりは増えるのが自然な流れと言えます。これがどれだけ伸びるかで、郡市長の二期目の「正統性」(※多くの支持を得たことで得られる威信)が決まってくると言えるでしょう。

また市長選とは異なる指標としては、コロナ対策とオリンピック関連で郡市長は宮城県・村井知事との立場の違いを強調しました。仮に村井知事に対して郡市長の見解を支持し後押ししたい、と思う人は、前回の県知事選(市長選と同じく2017年)における村井氏の仙台市内の絶対得票率(39.77%)を超えさせるべく、周囲に働きかけるという判断もありえるでしょう。

一方で、そこまで積極的に郡市長を支持しているわけではないが「結果としては」現職のままでいい、あるいは、取って替えるほど新人候補に魅力を感じないので仕方がないと考える人【タイプB】は、あえて「無投票」という選択をすることもメッセージに繋がります。あるいはより強いメッセージとして「無効票(白票)」を投じるという手もあります

(※「白票」は結果として選出に何も影響を与えないので、もし何らかの人物を具体的に排除または選出するためには誰かに投票するしかありません。政治全体に対しての「不信」を示すだけの抽象的「白票」はあまり意味あるものとして受け取られず、「どうでもよい」「よくわからない」「結果的に現状を追認している」などと解釈されるでしょう)

今回の選挙と似たような現職・新人一騎打ちの構図としては、2013年に奥山前市長が2期目の当選を決めた選挙があります。仙台市長選では過去最低の投票率でしたが、奥山氏は2009年よりも絶対得票率を増やしました(19.85%→21.86%)。

今回、投票率のさらなる低下などにより、郡候補の絶対得票率が2013年の奥山氏を下回るようだと、比較の結果、郡市長は奥山前市長よりも「市民への求心力がない」という評価を受けかねません。(なお、奥山前市長は2017年の市長選では郡氏の対立候補である菅原氏を支持していました)

白票や投票に行かない行為は一般的には良くないこと、権利の放棄と言われますが、このような「行かない」投票行動を選択する有権者が多くなると、「多くの市民は郡市長をそれなりに評価しつつも、やや冷めた気持ちで対応している」、また再選したとしても、3期目に挑む際には「もし魅力的な新人が今後現れればそちらに支持が向かうかも」というサインを与えることになります。

批判的メッセージは届くのか

国政選挙においてはかつて、自民党が政権につくことを是認しているが、一党優位にせず議席が与野党伯仲になるように戦略的投票を行う有権者を指して「バッファー・プレイヤー」という用語が提唱されました(政治学者で現熊本県知事の蒲島郁夫[1988]による)。「牽制投票」や「均衡投票」とも呼ばれます。常に執政者をギリギリのところに置いておくことで、安住させず有権者からの意見に反応させやすくする狙いがあるといいます。

ただし、そもそも国政の場合は選挙制度が違うため、同じ選挙においても選挙区は与党、比例代表は野党(またはその逆)のように違う政党に入れてバランスを取ることもできますが、二元代表制の地方選挙ではこれができません。

しかし特定の候補への支持が多くなりそうなら、情勢を見つつ、あえて対立候補に投票することで得票をバランスさせ、批判的な態度を見せようとする行動も取ることができます。このような批判票を入れる有権者を、ここでは「擬似バッファー・プレイヤー」と呼んでおくことにしましょう。

つまり注目ポイントとして、予想されていたよりも郡候補の得票に加納候補の票が迫っているぞ、という選挙結果になった場合は、現職の郡候補に批判的な有権者【タイプC】が多いと読み取ることができます

なおこのような投票を意図する場合、マスメディアによる中盤以降の情勢調査を適度に読み解いて投票することが必要になります(本当の接戦だと、見込み違いで新人が当選してしまうこともあるためです)。

情勢報道の「用語」「読み方」については、三春充希さんの著書や以下のnote記事が参考になります。:https://note.com/miraisyakai/n/nf3f4954a4278

そしてもちろん、そもそも加納候補を積極的に支持している場合は迷わず加納候補に投票することになります【タイプD】。また絶対に郡候補を当選させたくないという強い意志がある人も、新人の加納候補へ投票するしかありません(懲罰投票)。ただしこのような投票の場合、現職を拒否した結果、加納候補が当選した場合にその後の4年間の市政がその懲罰に釣り合うかは一応検討しましょう。釣り合わないと思ったら、【タイプB】と同じく「無投票/無効票」の選択になります。

選挙で私たちが伝えうるメッセージとは

このようにしてみると、今回の2021年仙台市長選について、仮におおよその人が考える趨勢は決まっているとしても、有権者(あなた)が郡市長の一期目(あるいはこの4年間の仙台市政)をどう評価しているかによって、どんな投票行動(投票に行かないことも含む!)を選択するか、幅はそれなりにあることになります。

そして、有権者一人ひとりの投票した結果が、単に候補者の当落を決めるだけでなく、郡市政への積極的評価、消極的評価、あるいは批判的視点、拒絶のメッセージとして、郡候補自身または政治に関わる全ての人たちへ、伝わっていくことになります。

さらに踏み込んで、やや穿った見方をするのであれば、事実上現職候補に与野党が相乗りすることになった今回、郡候補の絶対得票率が前回を大幅に上回ることがなかったとしたら、その構図自体を有権者が批判的に捉えているということになるのかもしれません。

投票日に向けて、メディアの伝える情報や周囲との会話から、あなたはどのようなメッセージを市政とその周辺の当事者に与えようとしますか。それなりに悩ましいところもありますが、あえて考えてみるのも一興かもしれません。

池亨(いけ・とおる)

1977年岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学講師(非常勤)、(株)ワオ・コーポレーション能開センター講師等を経て、現在、(株)日本微生物研究所勤務。NPO法人メディアージ顧問。

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