仙台三高で51年ぶりに「生徒会長」復活 令和の高校生、学校の歴史を動かす

佐々木佳、池亨、漆田義孝(NPO法人メディアージ)】昭和に定められたルールを令和の高校生が変えた―。宮城県仙台第三高等学校(仙台市宮城野区、佐々木克敬校長。以下「三高」)の生徒会は2022年11月、およそ半世紀ぶりに「生徒会長」を復活させるなど、大幅な会則の改正にこぎつけた。ゼロ年代生まれの三高生たちは、学び舎を舞台に「民主主義」を見事に実践してみせた。

生徒会長を置かずに半世紀。独自の「四権分立」

11月11日に三高で開かれた生徒総会で、2年生の伊藤颯汰(はやた)さんが生徒会長に就任した。伊藤さんは「皆の上に立つのではなく、皆の前に立つ。頼れる存在になりたい」と意気込みを語る。同日は、三高史にとっては大きな転換点となった。これまで51年もの間、三高では「生徒会長」を置かない独自の組織運営を行ってきたからだ。

51年ぶりに仙台三高の「生徒会長」となった伊藤颯汰さん

三高の生徒会は、長らく「四権分立」と呼ばれてきた。「四権」とは、①代議員会、②執行部、③監査委員会、④会計を指す。このうち①代議員会は、議長をトップに、生徒総会への議案提出権を持つ。生徒の間から出た意見や提案を総会の議題とするか否か、議決することができる。一方、②執行部は、総会で決められたことについて執行する役割を持つが、代議員会のような議決権は無い。相互に独立意識が強く、干渉しない決まりとなってきた。四権それぞれにリーダーはいるものの、全体を束ねる大統領的存在である「生徒会長」に当たる役職は存在してこなかった。

学生運動の時代から「動かない」長年の懸案

開校当初は、他の高校と同様に生徒会長を置いていた。だが、学生運動が盛んだった1971年、特定の生徒や組織に権力を集中させないことなどを目的に会則を改正。それ以来、代議員会と執行部の役割分担を調整するなどの変更は行われてきたが、半世紀にわたり、大きく変わることはなかった。

(右から)畑中吾錬さん、伊藤颯汰さん、後藤咲佳さん、杉井星太教諭

だが、かねてより問題視されてきたこともある。代議員会と執行部会の二重構造による機能低下だ。代議員は各ホームルーム(HR)から各期1人ずつ選任される。代議員会にはHRからの提案を採用するかどうかを議論し、生徒総会の議案を決めるなど、大きな権限が与えられてきた。しかし、生徒によれば、代議員の役回りは「ジャンケンで決めるならば負けの方」という雰囲気もあったという。代議員の中でも意欲に温度差があり、前向きな提案がトーンダウンすることもあったようだ。

一方、執行部は有志で参加できるため、中学時代に生徒会の中心的な役割を担った生徒など、モチベーションの高い人材が多く集まった。だが、執行部には活動内容の決定権も無ければ、代議員会への提案権も無く、「一方通行」の役割しか担うことができなかった。一般的な生徒会のイメージと比べると、実態は「ボランティア部」に近い。そのため、徐々に意欲を失う生徒も多かったという。

「改革」に立ちはだかる「無関心」

2021年度前期の代議員会で、当時代議員長だった生徒は、積年の問題を改善しようと強い意識を持って臨んだ。相互に干渉しない慣例だった四権それぞれの「連携強化」を図るもので、その志は同年度後期に代議員長となった後藤咲佳(えみか)さん(現3年生)に引き継がれた。後藤さんは放送部で前代議員長の後輩でもあり、ひときわ強い思いで取り組み始めたが、代議員長が一人で他の三権との調整を担うのは簡単ではなかった。後藤さんは「調整に時間がかかり過ぎた。提案の実現など、本来やりたい仕事ができず、悔しかった」と当時を振り返る。

こうして後藤さんは、従来の枠組みの中での改善ではなく、仕組みを根本から見直す「改革」を決意するに至った。目指したのは、代議員会と執行部会の機能の一本化、そして生徒会長制の復活である。

立ちはだかるのは、今も昔も、一般の生徒たちの「無関心」だった。過去にも、四権分立を改めようとする動きがたびたび起き、特に2009年度の男女共学化以降は、代議員会や執行部の生徒から2、3年に1度は声が上がっていたという。だが、運動の盛り上がりは一部の生徒のみにとどまり、目立った成果にはつながってこなかった。

動画放映とフォーラムで理解と参加をうながす

後藤さんが改革に着手した当時も、無関心ムードは変わらなかった。後藤さんは「まずは生徒会の問題を『自分ごと』として考える生徒を増やす必要があった」と、一般生徒への広報活動に取り組み始めた。まずは放送部としてのノウハウを生かし、四権分立の問題点をわかりやすくまとめた動画を制作した。最初の動画はあまり観られなかったが、自身や他の生徒が登場するものに改良し、多くの生徒の関心を集めることに成功した。

また、改革への熱意を示そうと、生徒会の現状や学校全体の課題について語り合うフォーラムを中庭で開いた。反響は大きく、後藤さんのもとには「そんなに深刻な問題だったとは知らなかった」という声が寄せられるとともに、協力を名乗り出る生徒も複数現れた。

さらに後藤さんは、HR討議を通じて集めてきた一般生徒からの提案を「Google Forms」で受け付ける仕組みを整備した。三高はコロナ禍を受けたデジタル化が県内でも早く、全校生徒はすでに1人1台のタブレット端末を持っていたことが追い風となった。生徒個人から直接意見を送れるようになったことで、提案は多様化。後藤さんは「より一層、三高生の意見を反映した生徒会活動にしなければ」と、思いを強くしていく。執行部会など「四権」に携わる生徒たちの理解や協力も得ながら、ついに、「生徒会長制への移行」という、半世紀ぶりの改革を行うことが全校生徒に承認された。2022年5月の生徒総会でのことだった。

「多様な意見をすり合わせる」難しさを実感

大幅な会則の改正には、生徒たちから幅広く意見を募り、議論を重ねる必要がある。総会の決議をもとに新設された「生徒会改革特別委員会」には、従来の「四権」に所属する生徒以外からも多くの生徒が参加し、具体的な会則作りや組織運営の検討が始まった。後藤さんは、特に1年生が何人も委員就任を買って出たことに驚いた。「将来の三高を担っていく後輩たちが、生徒会のあり方を真剣に考えてくれていた。これまでの活動が報われたようで、とても嬉しかった」と感慨深げだ。

委員会は放課後や夏休みを利用して行われたが、議論は毎回白熱し、長時間に及んだ。委員の一人、畑中吾錬さん(3年)は、以前から政治や社会に強い関心を持っていたが、生徒会の運営に実際に携わるのは初めて。動画を観て問題意識を持ち、特別委員会への参加を名乗り出たが、「政治の難しさを肌で実感した」と振り返る。「委員会では、少数意見にも一つ一つ耳を傾けることを大切にしていたが、あまりにも時間が足りなかった。複数の意見から一つの結論を出すことがこれほど難しいとは思っていなかった」と語る。

委員の一人、畑中吾錬さん(3年)

それでも、後藤さんから代議員長の任を引き継いだ伊藤さんらを中心に、「明確で簡略に」、「細かく決めすぎないこと」などの方針のもと、会則づくりは急ピッチで続けられた。限られた時間の中で、生徒たちも、何を優先しなければならないのかをそれぞれが考え、議論は建設的に進んだ。

「見守り」に徹する教員

大掛かりな作業ではあったが、教職員の関わりはあくまでも限定的だった。生徒会顧問の杉井星太教諭(26)は「基本的には、生徒たちの『こうしたい!』を後押しする立場に徹した」という。その上で、「三高生は、やると決めたことはきちんとやり通す。信じて見守った」と強調する。

かくして11月11日、後期の生徒総会で、生徒たちの手で作られた新しい会則は承認された。51年ぶりの生徒会長になった伊藤さんを先頭に、来春に向けて移行準備が続けられる。伊藤さんは「今後は批判も含めて色々な議論が出てくると思うが、今まではみんな生徒に無関心すぎてそれすら起こらなかった。様々な意見を前向きに受け止めて、全校生徒にとってベターな生徒会を作っていきたい」と決意を込める。

改革をリードした後藤さんは、卒業後、教員を目指すという。「まさか自分が学校の歴史を動かす当事者になるとは思っていなかった。当初は不可能だと思えていたことも、諦めなければ達成できると経験を持って言える。今後も考え続けること、学び続けることを意識し、教育者として成長したい」と将来を見据える。

未来に生きる「民主主義」の経験

今回の仙台三高生徒会の実践は、単なるルール変更という意味にとどまらない。現代社会において、あるコミュニティの自治的なルールや仕組みをどうやってつくっていくかを考える際の重要なポイントを含んでいるといえよう。

  • 自分たち(主に代議員会)の活動の中にある、現実的な問題を整理し、「どうやって解決するか」の解決策を明確にして取り組めたこと。
  • 問題点を動画などで明示し、一般生徒の関心を高め、協力者を増やしたこと。
  • 実際の機構とルール作りに生徒自らが時間を割き、議論を惜しまなかったこと。

「若者は政治に関心を持たない」と言われるようになって、どれほどの年月が経っただろうか。現代社会は階層や属性ごとの分断が進み、伝統的な民主主義の限界もしばしば指摘される。

だが、仙台三高の生徒たちは、大人たちの心配や嘆きをよそに、民主主義を見事に実践した。現代的な情報発信のアプローチをうまく活用しながら、「自分たち」の仕組みを根本から問い直し、望ましいあり方を導き出してみせたと言える。中心的な役割を果たした生徒はもちろん、全ての三高生の「民主主義の経験」は、今後彼らが社会におけるさまざまな場面で出会うことになる課題と向き合う上で、必ず生きてくるに違いない。

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