防災を、もっと親しみやすく。ゲームで遊びながら考える「ぼうさい駅伝」に参加した

千葉あきこ(東北ニューススクール in 宮城野)】仙台市宮城野区中央市民センターで「ぼうさい駅伝」というイベントが開かれています。ゲームで防災を学ぶとは?今回の講師であり、防災・減災教育に取り組む「わしん倶楽部」の代表である田中勢子さんの想いとともに、取材しました。

クイズは難しい…でも楽しい!

「うーん、1番かな?」「残念!正解は3番です!」「えーっそうだったんだ!」。記者が参加した昨年11月15日のイベントではこんな会話が飛び交い、会場は和気あいあいとした雰囲気。

ぼうさい駅伝は、すごろくと3択クイズを組み合わせたゲーム。3〜4チームの対抗戦で、1チーム2人ペアでタスキを繋ぎゴールをめざします。タスキをかけた1人が防災に関する3択クイズに答え、もう1人がサイコロを振ります。クイズに正解すると、サイコロの目の数だけ進めるというルールです。

この日は一般参加者8名のほか、職業体験に来ていた中学生6名が一緒に参加しました。2つのテーブルに分かれてすごろくを囲み、隣同士ペアになりチームを作ります。中学生は大人とのペアです。3択クイズは初級から上級まで様々ですが、過去の出来事など大人が得意な問題もあれば、学校で習ったばかりの中学生のほうが得意な問題も。最初はぎこちなかったペアも、コマが進むごとに打ち解けて、ワイワイとした雰囲気でゲームが進んでいきました。

ときには一回休みや順位変動のカードもあり、クイズを解く面白さだけでなく、すごろくとしてのゲーム性も満載です。年齢関係なくいつの間にか夢中で楽しんでしまう仕掛けになっていました。

終始和やかな会場。見事正解すると、「おー!すごい!」と歓声と拍手が湧きます。
終始和やかな会場。見事正解すると、「おー!すごい!」と歓声と拍手が湧きます。

講師の田中さんは「大事なのはクイズに正解することよりも、“ワンポイントじょうほう“の内容を覚えてもらうこと。わからなかった問題も、今日ぜひ知識にして帰ってくださいね」と呼びかけました。3択クイズのカードには、その問題に関する大切な防災知識やアドバイスが“ワンポイントじょうほう“として記載されていて、正解発表と合わせて必ず読み上げるルールです。参加者はその内容に、「へー!」と驚いたり頷いたり。メモをとりながら聞いている姿が印象的でした。

ゲーム終了後、参加者からは「初級問題でも難しかった」「初めて知ることが多く、防災について勉強不足を感じた」などの声がありました。

防災にまつわるクイズと、それにまつわるアドバイスなどがわかりやすく記載されています。
防災にまつわるクイズと、それにまつわるアドバイスなどがわかりやすく記載されています。

教育現場や自治体で広がる、防災ゲーム

ぼうさい駅伝は、小学校高学年以上を対象に「遊びながら楽しく防災について学ぶ」を目的として考案されたゲームです。防災士の田中さんが代表を務めるわしん倶楽部では、これらの防災ゲームなどを使って、宮城県内を中心に各学校や地域で防災・減災を伝える活動をしています。時には、ゲームを宮城版に改編したり、地域ならではの問題を加えたりしながら、より自分事として捉えられるよう工夫しています。

ぼうさい駅伝の他にも「防災ダック」や「歩一歩たいそう」など様々なプログラムがありますが、中でも田中さんが特に力を入れているのが「クロスロード」です。阪神淡路大震災を契機に生まれたカードゲームで、災害時に直面する様々な場面に対し、YESかNOかそれぞれの意見を出し合います。例えば、「避難所でほとんどの人が非常袋を持っていない中、あなたは自分の非常袋を開けますか?」。正解はなく、多様な価値観があることを学び、理解を深めるゲームです。

ぼうさい駅伝について、ルールの説明をおこなう田中勢子さん
ぼうさい駅伝について、ルールの説明をおこなう田中勢子さん

今年度は、防災教育のモデル校である古川南中学校でクロスロードの授業を行っています。年間を通した授業の中で、YES/NOで生徒が自分の考えを話すことからはじめて、次にYES/NOそれぞれの問題点をみんなで議論します。最後は、中学生自らがクロスロードの新しい設問を作ることがゴールです。9月には、横浜で開催された「ぼうさいこくたい」に参加し、3年生の生徒たちが2022年7月の豪雨被害の経験などを踏まえて考えた、7つの新しい設問を披露しました。また、今度はその設問を、同じ豪雨被害を経験した大郷中学校で体験してもらうなど、広がりをみせています。

このような取り組みは教育現場や自治体などを中心に実施されていますが、まだまだ一般には浸透していないのが現状です。今回ぼうさい駅伝を主催した宮城野区中央市民センターでも「防災と聞くと身構えてしまう人が多い。地震や水害の直後は一時的に意識が高まるが、それ以外はなかなか参加者が集まらないのが課題」と話します。

楽しんで触れることで、みんなで考えるきっかけに

防災を考えることは、辛い経験を連想することになる場合もあります。田中さんも葛藤はあるといいます。「以前ある小学校で防災教育をしたとき、送迎してくださったお母さんから『私は奥尻島の地震も宮城県沖地震も東日本大震災も経験して、本当は関わりたくない。でもPTAの役員なので仕方なく来ました』と聞いて。そんなお母さんの前でいいのかしらって思いながらも、実施したんです。そしたら後日『帰宅後に子どもが自分用の非常袋を準備し始めた。クロスロードもとても良いと思ったので、これから私は広めていきたい』とおっしゃってくださって。それが本当に嬉しかったですね。だからとにかく楽しくお伝えすれば、何かしらみなさんの心に残って、話すきっかけになるんだなと。そういうことが何度も重なって、活動を続けている状況です」

田中さんの今後の願いは、中高生や若い世代がこの活動をどんどん広めていってくれること。上級ジュニア・リーダーの研修会などにも参加し、防災・減災について伝えています。

「防災はそんなに重いことではない。今日みたいに、みんな笑顔で、楽しく。それで家族や周りの人と考えるきっかけにしてほしい」

災害はいつ誰にでも起こり得ること。だからこそ、まずは身構えずに触れてみることが、もう一度防災意識に目を向ける一歩になるのかもしれません。

*この記事は、仙台市の宮城野区中央市民センターとコラボした市民記者養成講座「東北ニューススクールin宮城野」の受講生の制作した記事です。宮城野区を舞台に活動するさまざまな地域密着の市民活動を取材し、発信していきます!他の記事は下記の画像バナーからご覧ください。

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