震災前の閖上の地図を前に、往時の暮らし、新しい街づくりの苦心を受講生に語る長沼さん=2023年10月22日、伝承施設「閖上の記憶」

【大学生が取材した3.11】まちは 「復興」したのか?新たなコミュニティづくりに課題 宮城・名取市閖上

連載:大学生が取材した3.11】「3月11日に向けて記事を書こう」。震災で大きな被害を受けた宮城県名取市にある尚絅学院大学で、ローカルジャーナリストの寺島英弥さんが今年もそんな目標を掲げた実践講座を催しました。大学生たちは、地元名取市の被災地・閖上で取材を重ねる中で何を感じ、自らの言葉で何を伝えようとするのか。シリーズで掲載します。

西澤広捷(尚絅学院大学3年)】東日本大震災の被災地となった名取市閖上地区。そこでは、語り部としても活動している閖上中央町内会長、長沼俊幸さん (60)にお話を伺った。今年3月11日で大震災から12年。新しい閖上の街では道路の整備や街並みづくりが進み、一見すると「復興」しているように映る。しかし、長沼さんは「復興をすることはないだろう」という。当事者にしか分からない、見えない課題とともに、その思いを聴いた。

「復興」の定義の違い

外部の人の目には「復興」がなされ見えるのに対し、震災の当事者である長沼さんは「復興することはないのだ」と答えた。その現実認識に違いがあるのは、「復興の定義」が異なっているからではないか、と私は考えた。

外部の人にとっての復興の物差しとは、主にハード面であろう。長沼さんは、閖上という土地そのものではなく、「人が戻る場所」に意味があると話した。「中には、場所、あの閖上っていう場所をつくれば、またこの閖上って街ができるっていう人もいるけれども、場所なんてどこでもいっしょ。閖上の人たちの、そのつながりが重要なんだ」

震災前の閖上の地図を前に、往時の暮らし、新しい街づくりの苦心を受講生に語る長沼さん=2023年10月22日、伝承施設「閖上の記憶」
震災前の閖上の地図を前に、往時の暮らし、新しい街づくりの苦心を受講生に語る長沼さん=2023年10月22日、伝承施設「閖上の記憶」

復興することはない―という考えは、はじめから持っていたものではないという。「閖上の人たちと、場所は変わっても、どこかの町で一緒に新しい生活を始める」ことこそが、長沼さんの中で唯一の「復興」だった。しかし、「安全な内陸への移転」を希望した多くの住民に対し、名取市は「現地再建」の新しい街づくり案を推し進めた。「もう戻りたくない」という住民が多数になり、揺れ動く現実の中で「震災から4年目くらいに、私の考えた『復興』はなくなった」。

震災以来、テレビや新聞などで「復興とは何か」が問われ続けてきた。長沼さんもいろいろな人に会うごとに問い、しかし、誰も答えることができなかったという。「そんな答えのないものを騒いでいたのか―と、復興という言葉が嫌いになった」。

復興から27年、神戸から学ぶ

長沼さん曰く、閖上ではインフラや道路の整備、街並み再建などハード面での復旧が進む一方、現実の一番の問題は、コミュニティづくりにある。この問題は、新しい街並みのように目に見えない、人と人の間にあるため、分かりずらいという。震災前からの閖上の住民、震災後に外から移住してきた新住民の交流とつながりをどうつくるか、自治会長である長沼さんは悩み続けてきたという。

そんな時に参考としてきたのが、1995年1月に阪神淡路大震災が起きた神戸市の経験だったそうだ。被災地復興の先輩ともいえる神戸との縁は、東日本大震災の後、ボランティアの活動先を探していた、兵庫県の「ひょうごボランタリープラザ」所長、高橋守男さんとの出会いからだという。

日和山から望む、現在の閖上。遠景が新しい街=2022年10月22日

当時、仮設住宅を訪れる支援者の多くは、一度来たらそれきりで、寂しく思っていた、と長沼さん。そうした心情を同じ震災経験者として共有していた守男さんは、神戸からの継続的な支援、交流を行っていくことを決めたという。

2人の絆を通した閖上と神戸の交流は現在も続いており、毎年3月11日、閖上で心の復興のシンボルとして、犠牲者の名前を記す竹灯籠に火を灯している。「交流を重ねていく中で、コミュニティづくりを学ぶことが多くあり、『人と話す、つながる』という部分を大切にしている」と長沼さんは語る。

コミュニティ再建への使命感

東日本大震災から今年で12年が経過する。いまだに閖上の新しい街づくりは途上にある。長沼さんは閖上中央自治会長として、コミュニティづくりという先の見えない課題に取り組み続けている。「自分の代では満足のいく結果を得るのは厳しいんじゃないか」との思いもあるというが、長沼さんは、今の世代と次の世代をつなぐ希望の架け橋のような存在となるに違いない。

取材・執筆:西澤広捷(尚絅学院大学人文社会学群人文社会学類3年)
編集:寺島英弥(尚絅学院大学客員教授、ローカルジャーナリスト)
協力:尚絅学院大学(http://www.shokei.jp/

これまでの記事はこちら

>TOHOKU360とは?

TOHOKU360とは?

TOHOKU360は、東北のいまをみんなで伝える住民参加型ニュースサイトです。東北6県各地に住む住民たちが自分の住む地域からニュースを発掘し、全国へ、世界へと発信します。

CTR IMG