自閉症の子どものための「多感覚演劇」をつくる 及川多香子さん

【大河原芙由子通信員=宮城県仙台市】雲を模した綿がふうわりと浮かぶ。シャボンの泡が生き物のように大きくふくらむ。コントラバスが心地よいリズムとベース音を刻む中、4人のパフォーマーがカラフルなビーズを砂浜の砂のように、ざあーっとばらまく。見ている子どもたちの表情がみるみる変わり、目が輝く。みんな遊ぼうと声がかかると、待ってましたとばかり、子供たちは舞台に飛び出していく。

2017年7月24日〜26日まで、仙台市にあるせんだい演劇工房10-Boxで、自閉症の子どもを対象にした演劇公演『ちいさなうみ』があった。主催は「NPO法人アートワークショップすんぷちょ」。感覚を呼び覚ますような素材を多用した、触る、嗅ぐ、味わうなど身体のあらゆる感覚で味わう「多感覚演劇」を、延べ約90人の子どもと大人が楽しんだ。

「誰でもどうぞ」に根拠をもつ演劇を

「すべての人にアートを」をスローガンに、2008年からアートワークショップや舞台創作活動を行うすんぷちょ。しかし、誰でもどうぞと言いながら、「誰に向けてというのがあいまいなままでやっていた」と、代表の及川多香子さんは言う。ある年の舞台公演を観に来た親子が、劇場入口に来たとたん帰ってしまったことがあった。その子どもは自閉症だったというのをあとから聞き、誰でもと言いながら誰もが楽しめるような配慮や準備ができていなかったのではと、悶々とした。

転機となったのは、2016年に仙台で主催した、英国の劇団オイリーカートのワークショップ。オイリーカートは、35年にわたり乳幼児から様々な障がいを持つ子どもたちを含むすべての子どもたちにアートを届けてきた劇団だ。主宰するウェブ夫妻から4日間にわたりノウハウを教わり、最終日には創作した短い作品を子供達の前で披露した。そのときに、「誰でもどうぞ」に根拠を持つことーー誰がどういう障がいがあってどんな不安要素を持っているのか、それを全部噛み砕いてケアしていくことーーが大切ということを痛感した。

大学のアートマネジメントの授業で、役者が小学生に向けて模擬裁判を演じて見せる英国の取り組みの映像を見て、衝撃を受けたという及川さん。演劇が教育や福祉に役立っているということが新鮮で、ますます魅力を感じた。「障害を持った方がダンスに出会い社会と関わりを持ち、ひいては一般就労するというような、アートが糧になっているのを活動の中で目の当たりにすると、もっと幅広い人に演劇やアートを届けたいと思う」と声を弾ませる。

『ちいさなうみ』は施設やグループへ出向いての上演も可。「上演希望があればどんな施設やグループでも伺いますので、まずは興味があればご連絡を!」(及川さん)

NPO法人アートワークショップすんぷちょ
HP:http://www.sun-pucho.com/